答えを求めて1
「待たせたか」
「そうでもないよ大丈夫」
昼も過ぎ1時にになる頃に息を切らせ待ち合わせ場所だった商業ギルド前にジェードが姿を現した。
昼頃という曖昧な約束だったので葵は昼前には来て待っていたが、そんな事をわざわざ伝える必要も無いだろう。
きっちり何時という約束をしなかったのは葵の責任でもあるしジェードは忙しいと言っていた。
「それでは行こうか?」
「えっ、どこへ?」
「どこへって…。魔物素材を売りに来たんだろう?」
葵は待ち合わせをした目的をすっかり忘れていた。
そう言えば相手にされなくて困っているという話をしたのだった。
「それなら大丈夫。昨日全部買い取って貰えた」
「また何で?」
「私がワイバーンを倒すところを見てたんだって。コロッと態度が変わってて笑っちゃった」
「ああそうだ。祖父に会って貰えないか?」
「何で!?」
ジェードが唐突に話を変えたその内容に何か面倒くさい事が起こっている予感しなく、葵は明らかな拒否の意思を表情に出した。
「アオイがドラゴン素材をトルンバに寄付してくれた礼を言いたいそうだ。それに昨日の騒ぎで街に被害が出なかったのもアオイのお陰だろう、是非礼がしたいと言ってる」
「断ってよ。そう言うの望んでないと知ってるでしょう?」
「ああ、だから褒賞だとか祭りだとかいう派手なものは拒んだが、それでも会うだけはしておきたいという話になった。どうしても自分の口で礼を言いたいそうだ」
「昨日はジェードもだいぶ活躍してたじゃない。栄誉はあの場に居た冒険者達に譲るわ」
「あの場に居たみんながアオイの活躍を見ていたんだそんな事出来る訳ないだろう」
「ええーーー」
葵はそれでも面倒くさいという思いは拭えず、眉間に皺を寄せたままだった。
「祖父は訳アリの冒険者を何人も見て来ているからアオイが身構える必要は無いと思う。何か不都合があったら私が責任を持つから頼む」
「仕方ないなぁ…」
ジェードに拝まれてしまっては葵は断る事もできず渋々了承する。
それにもしかしたらこちらの世界に居ついた人たちのその後の話を聞けるかもしれない。
聞いたからどうという事も考えてはいないが、同じ世界から来た人たちの末路は何か参考になる事もあるだろう。
たとえば昨夜からずっと考え続けているこの世界でのお金の使い方に関してとか・・・。
「じゃあ気が変わらないうちに行こう」
ジェードにいきなり手を取られ、引かれるようにして街中を移動していると何だか胸がドキドキして来た。
速足で歩くジェードに付いて行くうちに鼓動が早くなったのかも知れないが、さっきからジェードと繋いだ手が少し熱く感じ意識がそこへばかり行くのに困っていた。
何しろ葵には数少ない体験だからどうしたって意識してしまうのだ。
そもそも養父とだってそう何度も手を繋いだことのなかった葵には、異性と手を繋ぐなど殆ど初体験なのが問題だ。
この行為に深い意味はないと思えば思う程顔も赤くなり、何やら息苦しさまで感じ葵は思わず手を振り解いた。
「?」
葵の様子を伺うように立ち止まったジェードに葵は今の自分の顔を見られるのが恥ずかしくて俯き息を整える。
「はぁ…」
「急にどうした?」
「そんなに急がなくても逃げないよ」
葵は適当な言い訳をするが若干声が上ずってしまったのは仕方のない事だろう。
「そうだな。私が悪かった」
葵の言う事を信じたのか素直に頭を下げるジェードに何か悪い事をしている気になる不思議。
「大丈夫。行こう」
葵が歩き始めるとジェードは隣に並び葵の歩調に合わせてくれる。
石壁の外は乱雑で賑やかな歌舞伎町的な印象だったが、石壁の内側は綺麗に整備された高級住宅街のようで、そこに並ぶ店も何だかお洒落で高級感があり、まるで別の街にでも来たようだった。
「雰囲気が全然違うね」
「元々の領都はこの壁の中だけだったから仕方ないさ。この壁を壊す事もできないが外にも壁は必要だろうな」
ジェードは昨日のモンスタートレインの騒ぎを見て言っているのだろうと葵は理解した。
あのような魔物の襲撃が度々あるような事を確かレグリスも言っていた。
「やっぱり壁を作るのは大変なんだ」
「材料から集めるとなるとかなりの人夫と金が必要なのは確かだ。街が大きくなるとそれだけで大変みたいだな」
「ふ~ん」
葵は今まで現実世界のどこでどんな工事をしていようとあまり気にした事も無く、街の中が綺麗に整備されているのは普通の事だと思っていたが、この世界に来て不便を感じてみるとそれが当然ではないのだと思い知る。
文明がかなり進んだ現代世界でもその文明が生かされずにいる国もあるし戦争をしている国もある。
葵の知らない大勢の誰かのお陰で今はとても便利で平和な日本で暮らせている事を考えると、葵がこの世界で何ができるのかという思いにまたまた至る。
今まで何の疑問も持たず享受するだけだったが、あたりまえが本当はあたりまえでは無いのではないかという小さな疑問のような感情を葵は初めて持った。
「今のところ私にどうこうできる問題ではないがな」
淋しそうに呟くジェードはいったい何を目指し何がしたいのかとふと興味をそそられた。
「ジェードは領主になりたいの?」
葵のその問いにジェードは驚いたような表情を見せる。
「いや、私は曽祖父の生まれ変わりで、曽祖父のように…」
「それはジェードの望みじゃないよね」
「……」
黙ってしまったジェードにつられ葵は内心で自分にも同様の問いかけをしていた。
(私は何がしたくて何ができるの?)
瑠紺に出された課題は意外にも大きく重く葵にのしかかっていた。




