答えを求めて3
「私、別に認められなくてもいいんだけど」
領主邸を辞してすぐに葵はそれまでずっと黙って我慢していた思いをジェードにぶつけた。
人間は自分の信じたい事しか信じない事は葵も理解している。
だから別に葵に関係ない多くの人達に信じて貰えなくても、葵が信じて欲しい人にだけ分かって貰えればそれで十分だと思っていた。
そしてこの異世界で心から葵を信じて欲しいと願う人はまだ誰もいない。
それはどこかで嫌になったらいつでも逃げだせるという考えを持っているからかもしれないが…。
「申し訳ない。ついムキになってしまった。だが私も冒険者達の安全を考えてもここで引く訳にはいかない。葵には迷惑な話だろうがどうか協力してはくれないか」
申し訳なさそうに両手を合わせるジェードをつい許してしまう。
それに葵も他の大きな街に興味もあったし、王都にも行ってみようと考え始めていたところだ。
ただ面白くないのは何故他人に自分を認めてもらう必要があるのかであったが、正直魔法院というのがどういうものなのかは興味はある。
「それより私、ジェードのお爺さんに他の訳あり冒険者の話を聞きたかったんだよね」
そんな雰囲気ではなくなってしまい、詳しい話を聞く事もできずに早々に退出したのは少しだけ反省している。
もっともあれ以上話をしていても有意義な話ができたとも思えないが…。
「王都に行けばもしかしたら何人かいるかもしれないぞ」
「実在しているの?」
「冒険者ギルドや商業ギルドを立ち上げた人もそうだし、大商会を築いた人にレストランチェーンを展開している人もそうだった筈だ」
「結構いるのね」
「父の代に特に多かったのかお陰で今は父も自分の領地を持つ領主だ」
「?」
「訳あり冒険者を親身になって面倒見ていたので彼らの功績が認められた時に一緒に評価されたんだ」
「じゃあみんな領主になったって事?」
「いや、領地を与えられる事を訳あり冒険者が渋る事も多いが実は王家も渋っていると聞いている」
領地を貰っても縛られるだけのような気がするから葵も面倒だと思うのと一緒で、最近の訳あり冒険者は皆断っていたんだろうと何となく推測できた。
でも王家が渋るのはどうしてだろう?
「じゃあ、ジェードのお父さんに頼めば訳あり冒険者に会えるかな?」
「そんなに会いたいのか?」
「話をしてみたいと思ってるよ」
「みんな忙しくしているだろうからなぁ…。まあ、でも、アオイが望むなら父に頼んでみるよ。その為にはやはり王都に行かなくちゃならないな」
ジェードのお父さんは領地に居るのではなく王都に居るらしい。
ニヤリと笑うジェードに葵は仕方ないかと諦め王都に行く事を決意する。
(まぁ、転移できる街を増やしたいとは思っていたし、王都へ行けばもっとこの世界の事を知れるだろうしね)
「それじゃ王都までは馬車移動で良いか?」
「馬車で移動って、それ何日掛かるのよ」
「そうだな、天候や馬の状態にもよるが10日と考えてくれ」
「無理ね!」
「どうしてだ?」
「言って無かったっけ? 私、この世界には長くて3日しか居続けられないの。だから定期的に元の世界に帰らなくちゃならないからそんなに長い旅は絶対に無理よ」
「別に無理じゃないだろう。ここまで旅して来られたんだ。同じように移動すれば良いだろう」
「じゃあ私は夜は絶対に元の世界へ帰るわよ」
「ああそれで構わない。少し日程が長くなる程度の事だ」
「はぁ…」
王都へ着くまで今日はお休みにしますという訳にはいかないのだろうなと考えて、葵は少しだけ気が重くなった。
毎日走って移動した方が早いのじゃないかと提案したかったが、天候の話をされると天気の悪い中走るのは嫌だし馬車の旅も正直ちょっと経験してみたい。
「それでは私は旅の支度があるが葵はどうする?」
「どうするって?」
「街の案内をしても良いがその分出発が遅れる事になる。しかし葵一人で街を歩かせるのも心配だ」
「大丈夫よ」
「葵。君は君が思っている以上に目立つ事を忘れないでくれ。女の冒険者など本当にそうは居ないんだ。ましてや昨日の騒ぎの後だ。何があるか私にも予測がつかない」
「要するに冒険者の格好で歩くなって事ね?」
「そう言う問題でもないのだが、まあ葵なら大丈夫か」
ジェードは諦めたように呟き、明後日の早朝に出発すると決め、街の出入り口付近の街道沿いで待ち合わせる事にして別れた。
しかし石壁の内側の店はけしてウインドウショッピングを楽しめるような雰囲気の店ではなかった。
店に入る段階で店員が葵へ向ける視線が明らかに値踏みしている感じで、侮蔑の表情を露わにした時点で興味も無くなった。
(ジェードに言われたように着替えれば良かったか?)
やはり葵には露天や屋台を見て回る方が性に合っていると考え石壁の外の店を見て回ったが、人混みに揉まれ疲れるばかりで何故か全然楽しめなかった。
(帰るか…)
結局葵は大人しく現実世界へと戻り明後日からの旅の準備と体調を整えるのに専念した。
馬車の旅はお尻が痛くなるという話は物語の中では常識だったので、対策用のクッションやゴロ寝用の毛布に退屈した時用の書物など遠足気分で準備をした。
夜は現実世界へ戻る予定だが万が一を考えて一応お泊りセットもあれこれと用意した。
勿論おやつも忘れない。
ウキウキとした気分で準備ができたのは雪永がショッピングに付き合ってくれたからだろう。
雪永は荷物持ちですからと言いながらも的確なアドバイスをしてくれるし、誰かと一緒に買い物を楽しむ経験などそう無かった葵に名店案内をしてくれる有能なガイドのようでもあった。
そうして多分完璧だろう旅の準備も終え、約束の日を迎えた葵はジェードとの待ち合わせ場所へと向かった。




