第15話 なんて、ウソウソ……!
ギルドからの連絡によって、ティナたちは朝食を食べてすぐにポーラの家を出発した。そのためモーリスとすれ違いになったのだろう。
だから今日はまだ、モーリスからの手紙やプレゼントを受け取っていなかった。
「どう見ても哺乳瓶です」
「そうねえ。間違いなく哺乳瓶ね」
それを贈ってきた意図を考えたくもない。
けれど使用用途がはっきりと決まっているもののため、考えなくとも頭の中に哺乳瓶から放たれるイメージが強制的に浮かんでしまう。
妊娠、出産、赤ちゃん、授乳……本来ならば愛情たっぷりのイメージのはずなのに、その前までのパンツとブリーフが命を育む温かい印象の邪魔をする。
あまりの気持ち悪さに呆然とティナが呟けば、労わるようにレオが返した。
「もしよければ、情報ギルドのほうで中身の成分分析もするけれど……?」
レオが金の爪で哺乳瓶をつつきながら言う。
指先から伝わった小さな衝撃で、哺乳瓶の中の白い液体が揺れた。
嫌がらせ行為の証明として、液体の正体をはっきりさせたほうがいいだろうとは思う。
けれど十三年も前に別れた元恋人へ、自分と元カノの使用済み下着を送り付けたあげくの哺乳瓶である。
その気持ち悪さと嫌がらせの脅威度は天辺を超え、もはや中身がなんであろうと変わらないのではないかとティナは思った。
見た目通りのミルクや、もしくはただ白い絵の具を溶いた水だったとしても、別れた彼女へ白い液体の入った哺乳瓶を贈るという行為がもう最悪だ。
「ほら! もしかしたらタンポポの茎を折った時に流れる白い汁かもしれないわよ? 子どものおままごとみたいな感じで」
「おっさんがそんなものを哺乳瓶の半ばまで溜めたっていうのも、それはそれで異常じゃない?」
レオの言葉にティナが半目になって答えると、レオは「そうよねえ」としゅんと肩を落とした。
「……じゃあ手紙はどうする? 私が確認したほうがいいかしら?」
「や、それは護衛としてあたしが――」
「いいや、私が読むよ」
護衛として自分が確認するとティナが言う前に、苦虫を噛み潰したような顔のままポーラが言って、机の上に置かれた封筒に手を伸ばした。
封筒はなぜか緑色の汁で汚れている。
ポーラが指先で摘まむようにして封を開くと、三枚の便箋と一緒に千切れたメモ用紙が出てきた。
便箋のほうは三枚とも緑色に汚れているが、メモ用紙に汚れはない。
微かに植物の青臭さがする緑色の汁の正体を問うようにティナとポーラがレオを見ると、苦笑したレオが肩をすくめた。
「結界石に阻まれて怒ったモーリスが、イライラしたまま手紙を塀の苔に擦りつけていたから……」
なぜイラつくと手紙を苔に擦りつけることに繋がるのか。
「コケにしやがってってこと?」
「そんなうまいことは考えてないんじゃないかしらあ?」
哺乳瓶から目をそらしたいあまりにやや現実逃避気味に会話をするティナの横で、ポーラが汚れて読めない便箋を机に投げ出し、メモ書きのほうを摘まみ上げた。
不安定な体勢で書いたのか筆圧や文字の大きさがバラバラしていてとても読みづらい文章を、ティナもポーラの横から覗き込んで確認する。
『君はバカだ!
なんでけっかい石なんかおいて遊びに行くんだ?
今まで毎日プレゼントをあげてたんだから、今日もそうだってわるだろ……。
ちゃんと待ってなきゃダメに決まってるだろう。
そういうところがバカだっていうんだ。
そういうところを直さないと結婚してあげないよ……?
なんて、ウソウソ……!
まあ僕は優しいから、そういうオロカで気がきかない君でもまあもらってやるけど、僕の妻になったら君のダメなところは1からシツケなおしてあげるね。
じゃないと恥かくから。
君のためにこれから僕はキビシクいく……仕方ないよね。
バツとして明日はプレゼントはあげないからね!
あとお詫びの金を包むように……!
未来の夫に恥をかかせたんだから、ちゃんと誤ろうね。
これはじょうしきだから。
本当はプレゼントをもらったら次の日はありがとうを形にして置いておくものなんだよ……?
君はじょうしき知らずだから、知らないかもしれないけど……。
だから明日取りに行ってあげるよ。
プレゼントのお礼もちゃんとよういておくんだよ。
5万くらいかな。
家の愛カギでもいいよ。もらってあげる。
あと明日は一緒にディナーを取ってあげるね……!
ハンバーグを作って待ってるように。
僕の好みはわかってるよね?
つけ合わせは甘いにんじん、中にチーズも入れること!
ワインも忘れないで。
僕の好みはわかってるよね?
そう、赤ワインだ……!
シスル産のロマン・コンティでロマンチックな夜にしよう……。
それで、許して……あ・げ・る!』
読み終えてドン引きするティナの横で、ポーラが笑い出した。




