第13話 圧の正体
「少々お時間頂戴しまあす!」とレオが流れ星のようなウィンクをしながらヒールを鳴らし、調査のために颯爽と去っていった翌日。
ポーラの家で朝食をとっていたら、ポムがよこした伝書鳩型の魔道具が冒険者ギルドへの呼び出しを告げた。
レオがモーリスの所在を突き止めたという。
「レオちゃんから伝言でぇ、調査結果を書類にまとめるのにちょっとかかるから待っててって言ってましたぁ」
受付でポムから告げられた言葉にはうなずきつつ、ポーラは首を傾げた。
「それにしても早くないかい?」
結果が出るまで三日程度はかかるだろうと思っていたティナとポーラは、その間はどこにも出かけないでゆっくりしようと話していたくらいだ。
時間が欲しいと言ったわりには爆速の呼び出しに驚いて、ティナたちは食事が終わってすぐに冒険者ギルドへ出かけたのである。
「ああ見えてレオちゃんは影の守護天使様から加護をいただいているのでぇ、隠密行動は大得意なんですぅ」
というポムの説明に、あんなにギラギラしていて……? と、ティナは目を瞬かせた。
そしてふと、あのギラギラした圧の強い服装とメイクを落とせば、誰にもレオだとは気づかれないのかもしれないと思った。
化粧のせいで素顔もよくわからないし、声は若そうだったが年齢も不詳だ。もしかしたら結構なおじさんかもしれない。
影の加護があるとすれば気配も探られにくいだろう。
セミが羽化するようにレオの背中がパカッと開いて、中から普通のおじさんが出てくる。という、しょうもない想像をしているティナの斜め前で、そういえばとポーラが呟いた。
「あのギラギラの服装の大半が魔道具だったね」
「え? あ、そういえば圧がすごかったけど、あれって身長とか色彩の圧じゃなくて魔力の圧だったのか」
レオから感じた圧を思い返してみれば、はっきりした色づかいの服装と装飾品の光のせいで圧倒されたことは確かだったが、圧迫感の中には魔力も感じたような気がする。
「あれはドレス自体がおそらくダンジョン産の魔道具なのだろうね。靴もそうかもしれない。髪飾りは魔力をチャージするための魔力石だったわ。かなり質の良いものよ」
こちらを振り返って言うポーラは、魔力石の採掘許可証を持っている専門家だけあって楽しそうだ。
「ネックレスは収納の魔道具のようだったわ。見たところダンジョン産ではなく職人の作ったもののようだったけれど、かなり高品質の魔石を使っているはずよ」
ティナは冒険者養成学校での魔道具の授業を思い出した。
魔道具はオルゴールに例えられることがある。そして魔石はそれをどう弾くのかを書き込まれた円盤で、魔力石はオルゴールを鳴らすためのゼンマイだ。
当然円盤に書き込まれた譜面が精緻であればあるほど複雑な音を奏でるし、高品質の金属で作られたゼンマイは壊れにくく持ちが良い。
「あのレベルの魔道具を複数所持しているってことは、そうとう優秀な冒険者なんだろうね」
うんうんと楽しそうにうなずくポーラの表情は、昨日までに比べればずいぶんと明るい。
専門分野を語っているからというだけではなくて、モーリスへの向き合い方をポーラが主導するのだと意識を切り替えることに成功したからだろう。
今話題に上っているレオの力も借りて、これから引導を渡しに行く。
モーリスのために我慢することなど、何ひとつないのだ。
◇
ポムに案内された会議室で、ポムからは灰かぶり男の処罰を聞いた。
冒険者ギルドの罰としては、ギルド証の永久剥奪と各地にあるギルドへ人相と名前を周知徹底することが決まっている。
そのあとに憲兵へ引き渡されることになるが、冒険者の一般人への犯罪は一般人同士のものよりも罪が重くなる傾向がある。
恐喝、暴行、違法な金貸しの罰は、それなりのものになるだろう。これからのギルドと憲兵の事情聴取と捜査の結果によっては、ギルド協定法に則って犯罪奴隷となるかもしれないそうだ。
同じ冒険者と名乗ってほしくないダサい男の末路に満足していると、部屋のドアがノックされ、ポーラが返事をするとレオが入ってきた。
仕事のあるポムと入れ替わりにティナたちの向かいの椅子に座ったレオが、手に持っていた書類の束を机に広げて微笑んだ。
「モーリスの居場所はものすごおく簡単に見つかったわ! もう、びっくりするくらい油断してるのよ。そのへんのドブネズミを追いかけるより簡単で歯ごたえがなかったわあ」
お金を取るのが躊躇われるくらい簡単だったけれど、だからこそ腹が立つのよねえ。と、しなやかな手を頬に当ててレオが続ける。
「自分が選ぶ側だとか狩る側だと思ってる人間って、傲慢で嫌よねえ。反撃されるかもしれないなんて考えもしてないのよ? つまり自分がどれだけ人を踏みにじったかを全く感じてないから危機感がないのよ」
紙に書かれたモーリスの所在地を金色に塗った爪でトントンと指して、レオは報告書を読んで強張るポーラを心配そうに見やった。




