第10話 報告:雑魚排除および指名手配犯《ダサい男》確保
「そんなわけないじゃないか……」
ポーラの涙声に、ティナはギリリと眉尻をつり上げた。
ティナはポーラの家の様子を見て、灰かぶりの男が言っていたモーリスの発言が全く根拠のない嘘だと知っている。
家の中は温かかった。
初めてポーラの家に足を踏み入れたティナでも、今はもういない人たちへポーラがどれだけ愛情深く接していたのかすぐに気づいた。
絶やされることのない花の香りに、彼女がどれだけ祖父母の存在を恋しがっているのかがよくわかる。
モーリスの復縁要請が始まってからずっと、ポーラは恐怖を感じていたはずだ。だけど手紙で妄言を吐かれても、嫌悪しか感じない〝プレゼント〟を届けられても泣かなかった。
恐怖と嫌悪、よりによってそんな男と付き合ってしまった過去の自分への怒りと呆れを感じても、ポーラはずっと涙は見せずに気丈に振る舞っていた。
灰かぶりの男が告げたモーリスの言葉が踏みにじったのは、ポーラの人生の芯であり愛情だ。
ポーラを最も慈しみ、愛してくれた祖父母の思い出と善意であり、彼らへ精一杯の愛情を返していたポーラの心である。
だから泣いた。
「私の夢や、夢を叶えて得た店で金勘定をするのはまだいいよ。モーリスがどんなことを言ったって、法律が私の物だと証明して守ってくれる。だから私が夢を叶えるための努力や過程を嘲笑いつつ、自分の手柄みたいに言うのはまだ耐えられる……だけど……」
ポーラが両膝に手をつき、背中を丸めて嗚咽を漏らした。
紺色の瞳からハラハラとこぼれた涙が、門から玄関ポーチまでに敷かれた灰色の石畳に黒い円をいくつも作る。
「いやいや待ってくれよ、俺が泣かせたみたいじゃねえか」
「お前が泣かせたんだろ!」
ポーラが涙を流す様子を馬鹿にしたように言う男へ、ティナは怒鳴った。
「あたしに絶対勝てないって思って、あんたポーラさんにターゲット変えただろ!」
何かのスキルを足にかけて逃げようとして、ティナの威圧スキルの前に完敗した。そのままずっとこの場に縫い留められ続け、情報を吐かされた。
ティナの動揺を誘うように怒鳴り声を上げたけれど威圧は収まらず、かえってバトルアックスがやすやすと自分の首筋を傷つけたことに恐怖して、このまま逃げられないなら……と、一矢報いる相手をティナではなくポーラに変えた。
灰かぶりの男の視線はポーラを捕らえ、モーリスの情報をポーラに向かって言った。
傷つけようと思って言ったのだ。
いくらこちらがモーリスについての情報を尋ねたからといって、あんなふうに悪意に満ちた表現で告げる必要はなかった。
「だからあんたは〝ダサい〟って言われるんだよ」
言いながらティナはバトルアックスをしまって、灰かぶりの男にかけていた〝威圧〟を解いた。
その瞬間走り出した男へ踏み込みの一歩で追いつくと、全力の拳を男の腹に叩き込んで吐き捨てる。
「素人相手にしか強く出れないダサい男は、ギルドに突き出してもう二度と冒険者って名乗れないようにしてやる!」
ティナの拳に骨の砕ける感触が響き、灰かぶりの男の体がズザーッと音を立てて道を転がっていく。
白目をむき血を吐きながらの大回転を見て涙が引っ込んだポーラへ向かって、ティナは言った。
「あたし、ものすごく腹立ってる! 誤字だらけで自分に酔っぱらった手紙やキモすぎる〝プレゼント〟だけじゃなくて、こんなだっさい男を送り込んでくるネチネチした男に遠慮する必要ある⁈」
ティナの言葉に少しだけ宙を見上げて何かを思案した様子のポーラは、そのあとぷるぷると首を横に振った。
「だよね! だからもういっそこっちから会いにいって白黒つけよう! 見ての通りあたし、本来は護衛より討伐のほうが得意なの!」
あと! と、ティナは続けた。
「冒険者ギルドにこのダサい男を巻いて持っていきたいんで、ちょっと大きめの絨毯貸してくれると助かります!」




