第7話 警戒音
結界石の警戒音に、ティナはすぐさま気配を探る。
結界に弾かれて中に入ってこられない気配が門の前にひとつ。それなりに強そうだった。
とはいえ、ティナの敵ではない。
侵入者の存在に対してよりも先に警戒音自体に怯えたポーラへ、そのままソファに座っているように告げる。
「大丈夫ですよ! ワイバーンも一撃で倒せるくらいに、あたし強いんで」
腰に下げていたバトルアックスを抜きつつ言うと、いくぶんか肩から力が抜けたポーラがこくこくとうなずいた。
けれどもまだ肩に力が入っているポーラへ、さっきまでの会話をわざと続ける。
「でもリュインの生活水準を上げるくらいの活躍をしてるなら、ポーラさんって商業や鉱山のギルドでもかなりの大物でしょ? なんでそっち経由で護衛を頼まなかったんです?」
「そ……うだね、私も当然そちらを頼ろうかと思ったのだけどね……」と、ティナの気遣いに応えるように、ポーラがぎこちない様子で続けた。
「最初にあの手紙を役員たちにみせた時、どっちのギルドでも〝あんたも独り身で寂しいだろうし、そこまで乞われてるならいっそ一緒になったらどうか〟って笑う馬鹿が多くて」
「なにその最悪な対応!」
「女だてらに役員だからね。ヒモ男をあてがって足を引っ張りたいのが見え見えで萎えちゃってさ……。魔力石運送の護衛依頼で世話になっているポムさんにダメもとで直接話したら、〝いい冒険者いますよぉ〟って」
「それで紹介されたのがあたしだったのか」
「〝同じような目にあってるからぁ、絶対親身になってくれると思いますぅ〟って。その通りだったね。ありがとう」
不意打ちで目を見て礼を言われ、ティナは照れてしまった。そして思ったよりも心に響いた。
いろいろな経験をしておくものだ。
それがマザコンとモラハラが原因で別れた元夫からの復縁要請と花束贈呈という、頭を抱えるような経験でも。
「そのギルドの失礼なやつら、ちゃんと殴ってやった?」と言ってバトルアックスを振るティナへ、ポーラは少し考えてから笑って答えた。
「これが落ち着いたら、商売と魔力石の流通で殴ってやるさ」
◇
おそらくこのタイミングで結界石が鳴るということは、門の外にいるのはモーリスが手紙で言っていた借金取りか、その関係者だろう。
モーリス自身かもしれないが、ポーラから聞いた彼の印象からすると悲劇の勘違いロミオンにしては少し気配が強いようだ。
すっかり肩の力が抜けたポーラが、玄関へ向かうティナの背後をついてくる。
本当はリビングで待っていてほしかったのだが、ティナの力は信用しているし、借金取りのような腕自慢のチンピラなら鉱山にたくさんいるから慣れていると言ってポーラは笑った。
どうやらポーラは、精神的に苦痛を与えてくるモーリスのような相手のほうが苦手らしい。
ティナもポムいわく〝脳筋〟のカテゴリーだし、姿をみせずにネチッとした攻撃をされるとイライラしてしまうので、ポーラの気持ちがよくわかる。
玄関の鍵を開け、ドアを開く。
ポーチの隅で謎の存在感を放つ紙袋を見ないようにして真っ直ぐに門へ視線を向けると、忌々しそうに結界石の結界を殴りつける男が目に入った。
「ちなみに、知ってる顔です?」
もしかすると鉱山ギルドの関係者かもしれないと思って念のために確認を取ったが、ポーラは首を横に振った。
まあもしもポーラの知り合いだったとしても、害意に反応して結界を張る魔道具が反応したうえに、それを殴りつけるような男に遠慮する気はまったくない。
「警告! これ以上の暴力行為を働くなら問答無用で排除する! 五体満足でいたかったら十秒以内に拳を止めて帰りな!」
「あァ? たかが魔道具屋がこの俺に何を……って、お前! 剛腕のティナか!」
灰色の髪の毛に灰色の目と灰色のヒゲ。全体的に灰を被ったような中年男が振り上げた拳を口元にもっていって、乙女のような悲鳴を上げた。
「ティナさんこそ、知り合いだったの?」
背後で首を傾げたポーラの声に、ティナはバトルアックスを構えたまま少しだけ首を前に突き出し、目を細めて男を見た。
ワイバーンをソロで倒したことでついた〝剛腕のティナ〟という二つ名は、冒険者の間ではけっこう有名だ。なので挨拶してきた相手をこちらは知らないけれど、向こうはティナのことを知っているということもよく起こる。
「いやぁ……知らないと、思う。けど……?」
ん~? と知り合いの顔を思い浮かべながら首を傾げたティナは、次の瞬間ハッと目を見開いた。
「わかったこいつ! 一般人相手にだっさい犯罪やってギルド長をガチギレさせた二人組の片割れだ!」




