第4話 十三年目のロミオンからジュリエンタへの贈り物
理解できなすぎてもはや怒りさえ湧いてきた自称ロミオンの手紙を、ティナは頑張って読み解いた。
つまりは自分と別れた時にはまだ夢だった〝自分の店〟を持ったポーラに対し、
『僕との別れが君のやる気に火をつけて、無事に夢をかなえられたのだから僕に還元するべき』
『2店舗目を出すなら、大手百貨店の販売員である僕が店長になるのが相応しい』
という金を目的にした復縁要請だった。
「最低。ありえない」
手紙をギルドの受付カウンターに放り投げて呟いたティナへ、ポムが深くうなずきながら腕を組んだ。
そしてポーラが肩をすくめて語った〝別れた経緯〟を聞き、ティナの中でさらに嫌悪感が湧いた。
「浮気よりもモーリスが店の開店資金に手を付けたことが許せなかったのに、全然わかっていないみたいでね。そういうところも変わってなくて、読んでいて吐きそうだったよ」
さらにはこのロミオンが十三年ぶりに復縁要請をしてきた理由も最低であった。
大きな理由としてはギャンブルである。
ポーラと付き合っている間も賭博場へ通っていたモーリスだったが、どうやらはまりすぎてついに借金で首が回らなくなったらしい。
連日激しい借金の取り立てにあい、〝オリーヴの森〟は自分がポーラに出資して出させたと取り立てにきたチンピラへ言ってしまったという。
『身を守るためについ悪い男に君の夢について語ってしまったんだ……!』と。
『でもまるきりの嘘というわけじゃないことは、君もわかるだろう……?
君の夢を応援していた僕の熱意は、どんな黄金より価値があった……君のことはいつだって僕が見守っていたんだから……』
という謎理論を読んだ時には頭痛がした。
確かに応援が力になって夢がかなう場合もあるけれど、彼女が夢の実現のために家を空けている間に口座から開店資金を盗んでギャンブルにつぎ込んだ男が何を言うのかと。
「で結局、借金取りが店に行くけど〝僕の命が大事なら言い値を払ってくれ〟と」
「厚顔ですぅ。〝君がまだ結婚してないってことは僕のことが好きなんだろう〟って言いきって、今なら結婚してやるっていうところも虫唾が走りますねぇ」
「勝手に自分の事情に巻き込んどいて、〝君と僕の安全のために〟とかってしれっと運命共同体にしてるとこもむかつくなあ」
おまけになぜかポーラがモーリスから夢の実現のための金を搾り取ったあげく、利用されるだけされて捨てられた『憐れな僕……』になっているところも腹が立つ。
「まあでも無視しとけばいいんじゃない? 払う義理なんかないし」
肩をすくめてあきれるティナの前にポムが「これがその手紙に添えられてたそうですぅ」と差し出してきたのは、くったりと萎れた花束だ。
便箋が包み紙代わりで、花の種類はハルジオンのみ。白い花はかわいらしいし、手作りのブーケも悪いとは言わないが……。
「なんでまたよりによって貧乏草かと」
根と繁殖力の強さのせいで庶民から呼ばれているハルジオンの別名をティナが呟けば、ポムがラメで輝く唇を歪めて言った。
「一応は花言葉が〝追想の愛〟らしいですぅ」
「記憶を思い起こしても愛されてた実感は全くないんだけどねえ……」と、ポーラがふっと息を吐いた。
「復縁したい男はとりあえず相手に花贈っとけってのが基本なのかなあ。喜ばれない花がかわいそう」
ティナも元夫から花束とともに復縁要請を受けた身だが、一応中身はバラだった。
別名は〝花の女王〟、花言葉は本数にもよるがドストレートに〝愛〟である。
ギャンブルで首が回らなくなった男が、金目当ての復縁希望で貧乏草を贈るよりはましだろうか? と、比べても仕方がないことを考える。下を見ればきりがない。
「それでぇ、なんかぁ、〝13日後の祝日に思い出の場所に君を連れてく〟ってあったじゃないですかぁ」
手紙の最後にあった文章を思い出しながらティナがうなずくと、渋い顔をしたポムが続けた。
「ポーラさんが最初に手紙と花束を受け取ったのが三日前でぇ、昨日玄関の前に包装なしで置いてあったのがぁ……十三年前に別れた時に処分してほしいって言って同棲先へ置いてったぁ、ポーラさんのぉ……パンツでぇ……っ!」
「はあ? キモすぎる! ていうか、え? むき出し⁈ パンツ一枚ぽつんと玄関に? うっそでしょ、包まれてなかったの⁈ それどんな顔して配達したわけ⁈」
無人の受付カウンターに響いていた罵声の正体を知り、ティナは悲鳴を上げながら鳥肌が立った腕で体を抱きしめた。
「ラッピングどころかぁ、配達郵送にかかわったはずのギルドの印もなくってぇ」
手紙や荷物の郵送は、大抵商業ギルドや行商人ギルド、冒険者ギルドや鉱山ギルドなど、あちこちに拠点があって旅をする能力があるギルド員がいるギルドに依頼される。
郵便物には請け負ったギルドの印が捺されるのが一般的だった。
それがないということは、つまりロミオンが直接ポーラの家の前に置いたのだ。
十三年間保管しておいた元カノのパンツを。
「か、怪談じゃん……」
「まあ、今住んでいるところは店舗兼住宅だし、改装したとはいっても家のほうには一度招待したこともあるし……。まさか覚えているとは思わなかったけどね」
ポーラが遠い目をして言う。
元夫に住所を突き止められてバラの花束と一緒に突撃されたことがあるティナは、ポーラがそんな目になってしまう気持ちが痛いほどわかった。
「なんかぁ、手紙受け取ってから十三日後に向けてカウントダウン的に最悪の贈り物をしてきてるっぽいしぃ、手紙の最後に〝思い出の場所に君を連れてく〟って拉致を示唆する言葉もあったしでぇ、身の危険を感じたポーラさんがぁ、うちに護衛依頼してくれたわけですぅ」
ポムが魔物素材を扱う手つきで花束をカウンターから取り上げ、振り返って棚の扉を開けてギルドの素材保管庫に入れた。
「それでぇ、うちとしては似たような経験があるティナさんに依頼を受けてもらいたくってぇ」
「理解した。任せて! 指一本触れさせないから!」
あらためて右手を差し出しつつ言うと、ポーラはほっとしたように微笑んでティナの手を取った。
「ちなみにまだ今日は何も届いてないから、もしかしたらティナさんの初仕事はモーリスからの届け物の確認になるかもしれないんだけど……大丈夫かい?」
「お、おお……冷静でいられる自信ないけど、頑張るわ……」
ティナは引きつった顔でうなずいた。




