カステヘルミ様とロニア様は私の天使様 53
貴婦人たちの噂話は今日も楽しい ③ が令和8年4月1日に発売となります!!
御礼企画としてカステヘルミとロニアの帝国での物語を毎日掲載します。お話はどんどんと展開していくので、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです!!
ウィサーム殿下が帝都に向かっている間、私はのんびりと待つことになったのですが、ある日の夜のことでした。
アタファの泣き声が聞こえて来たんです。
周囲は漆黒の闇に沈んでいるので、これは夢なのだなと自分でも分かるのですが、義妹のアタファがわんわんと、大袈裟なほどに泣いているんです。
アタファがちょっとしたことで大袈裟に泣き出すのはいつものことですし、彼女が大泣きすることで世話役たちは慌てふためきながら彼女の周りに集まることになるのです。そうして、たった一人で屋敷の片隅に立っている私を確認して、
「みんなはお姉様よりも私のことが大好きなのよ!」
とでも言いたげな眼差しを私に向けて、にっこりと笑うのです。
いつもだったら、
「「「大丈夫ですか? お嬢様?」」」
というアタファを気遣う世話役たちの声が聞こえてくるのですが、
「ああ〜―、本当に分かっていない娘だね」
という老婆の声が聞こえて来ました。
いつの間にかアタファの前には、ジャガーの毛皮を肩から掛け回して、魚の皮を腰巻き代わりに使っている白髪の老婆が立っていて、
「お前は呪いを食らったんじゃないんだよ。ヌールハーンという女に殴り飛ばされて大きな石に頭を打ちつけものたから、当たりどころが悪かったんだ。血液ドバドバと脳みその外側を流れていくことになり、ポクッと逝っちまうことになったんだよ」
「ポクッと逝ってないってば!」
アタファは泣きながら言い出した。
「すっごい痛かったの! 頭が割れるほど痛かったのよ! あんまり痛いから自分の頭を壁に打ち付けていないと、どうにもならない程の痛みだったのよ!」
「だからそれは、ヌールハーンって女に殴り飛ばされて、転がった先でぶつかった石の当たりどころが悪かったからで」
「嘘よ! 嘘! 呪いよ! 呪い〜!」
アタファがギャーッと泣き出すと、老婆はため息を吐きながら言い出した。
「確かにお前はやってはならないことをやってしまったのは間違いない事実だよ。自分の父親は殺してしまうし、気に食わない姉には、自分の方が上だってことを主張し続けたんだろう?あの娘が腹を空かせながらデーツを食べているのを見ては、嘲笑っていたのを私は知っているよ?それでどうだね? 自分が姉と同じように飯を抜かれてデーツを食べなきゃならなくなった時に、お前は少しでも反省をしたのかね?」
「なんで反省なんかしなけりゃならないのよ! 私は常に正しかったわよ!」
「はあ、今になってもそれを言うか」
老婆はうずくまりながら泣き続けるアタファの周囲をぐるぐると回りながら言い出した。
「世の中には因果応報という言葉があるんだ。お前が義姉を何年も、何年も虐めたツケが回って来ただけの話なんだ。お前の義姉は特別な加護持ちだから、しっぺ返しは数倍、数十倍、場合によっては数百倍にもなるだろう」
「知らない! 私はそんなことを知らないわよ!」
「知らないはずはないだろう? バッサムはお前たち親子に口が酸っぱくなるほど言っていたじゃないか? ダラールは女神マナの末裔、グアラテム王の子孫の力を継ぐ者だとね」
知らない、知らないと言ってアタファはワーワー泣き続けているのだが、そこで足を止めた老婆は私の方を見て、
「やれやれ、そんなに不安そうな顔をしないでも大丈夫だよ」
とにっこりと笑いながら言い出したの。
「お前の守り人はやって来る。色々とうるさい奴だが、腕だけは確かだ。お前が安心安全に暮らせるように盾となって守り続けてくれるだろう」
暗闇の中へアタファと二人で沈んでいく老婆は、
「迎えの仕方についてはお前でも腹が立つかもしれないが、仕方ないで諦めな。お前が少しでも気がまぎれるように、こちらでも演出を考えておくからさ」
と言いながら闇に呑まれてしまったのよ。
誰かに呼ばれているような気がして目を覚ますと、私の顔をウィサーム殿下が覗き込んでいたので、思わず悲鳴をあげそうになりました。
「で・・で・・でんか・・な・・なんでここに・・」
「おはようございますダラール!ようやく迎えに来ることが出来ました!」
「・・・」
寝ぼけまなこで起き上がった私は、ウィサーム殿下を見上げながら言いました。
「未婚の令嬢の寝顔をじっくり、至近距離で覗き込むのは皇族として如何なものかと思うのですが?」
「ダラールに関して言えば、今更なのでは?」
ウィサーム殿下は部屋の中を悠然と後ろ手を組んで歩きながら言いました。
「貴女が小離宮に運び込まれた時、貴女はすっかり生きる希望を失っておりました。水分も取らずにすっかり萎れた美しい薔薇のような状態になっていたので、水を含んだ綿を片手にロニア嬢などは半泣き状態だったのですが、そんな貴女に水を与えて・・」
「その話はもういいです!」
話が長くなればなるほど、直視したくない過去を思い出してしまうので、私はウィサーム殿下に、
「それよりも私は一体、いつ? 帝都に戻れるのでしょうか?」
と、違う質問をすることで話を方向転換することにしました。
「貴女は帝都に帰りたい?」
「そりゃあ色々と騒動があったみたいですし、カステヘルミ様とロニア様も待っているでしょうし、私はすぐにでも帰りたいと思っています!」
「そうですか! それはちょうど良かったです!」
ウィサーム殿下はニコニコ笑いながら言いました。
「貴女がすぐにでも帰れるように準備は整えておいたのですよ!」
ウィサーム殿下に買い与えられてだいぶ増えた私の荷物も、あっという間に荷運び出来るようにまとめられ、
「それではダラール、帝都まで移動しましょう」
殿下は馬車まで私をエスコートしてくれました。
「車じゃないんですね」
「この辺りは道路の整備が進んでいないので、馬車の方がスムーズに移動することが出来るのですよ」
殿下が用意されたのは皇家が所有する紋章入りの馬車なので、道ゆく人たちは一斉に頭を下げていきますし、子供達は嬉しそうに手を振りながら私たちを追いかけてくる姿が窓から見えます。
夢の中に現れた老婆は、
「迎えの仕方についてはお前でも腹が立つかもしれないが、仕方ないで諦めな」
と言っていたので、何となく緊張していたのですが、
「大丈夫、大丈夫。皇家の紋章入りの馬車に乗るのはまだ許容範囲内だから」
と、私は子供たちに手を振りながら独り言を呟いていたの。
それにしたって沿道に出ている人が多いのだけれど、今日は何処かでお祭りでもあるのかしら?
空は相変わらずの曇天で、移動中も雨がパラついていたりして、
「雨の中でお祭りをするというのも大変ですわね」
と、殿下に言うと、
「祭りですか?」
と言って怪訝な表情を浮かべています。
殿下はこれでも第二皇子なので、市井のお祭りなんか知らないのかもしれないわね。
それにしても帝都に近づけば近づくほど、沿道の人が溢れんばかりになっているし、そんな中を皇家の紋章入りの馬車が通っていくものだから、わーわー騒いで大変なことになっております。
あんまりにも人が多いからでしょうか?帝都を囲む城門の前でウィサーム殿下は私に馬車から降りるようにと言いました。
馬車から降りた私は驚きましたよ。
だって城門前に一頭の象と五十頭のラクダ、更には太鼓やら笛やら鐘やら弦楽器を持った楽器隊までいるのですもの。
「サーカス?」
「サーカスではないかな」
私をエスコートする殿下は一頭の象の前まで移動すると言いました。
「ダラールが怖がることなく、安心、安全に乗れるように座席にはクッションを敷き詰めているからね」
象の背中には人が二人、並んで座れるように、美しい花々を全面に飾りつけた座席が設けられています。
「え? なんで私がそこに乗らなければならないんですか?」
「私の妃になる君が帝都に帰還するのだもの、これくらいのパレードはしておかないと」
おかしい、おかしい、色々とおかしいと思うんだけど、まずはこれだけは言わせてください。
「私、殿下の妻になるなんて、ひとっ言も言ったことはないんですけど?」
「また、また、またあ。ダラール、そういうのは、今は、必要ないですからね?」
私と殿下はしばらくの間、象の前で互いに見つめあって(私は睨んでいた)いたのですが、
「え? もしかして、貴女が象に乗らなければならない理由を懇切丁寧に説明した方が良いってことでしょうか? であるのなら、このウィサーム、心をこめて説明を始めたいと思うのですが」
「説明は今はいらないかな!」
殿下の説明は長いので、ちょっと、今のこの状況で聞いてやろうとは思えないんだけど!
貴婦人たちの噂話は今日も楽しい ③ が令和8年4月1日に発売となります!!現在掲載中のロニアとカステヘルミの五年後の物語が3巻のお話となりますので、合わせて読んでも面白い!!掲載中のお話もどんどんと展開していくので、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです!!
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