カステヘルミ様とロニア様は私の天使様 52
貴婦人たちの噂話は今日も楽しい ③ が令和8年4月1日に発売となります!!
御礼企画としてカステヘルミとロニアの帝国での物語を毎日掲載します。お話はどんどんと展開していくので、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです!!
ウィサーム皇子による完全看護により、ダラールは徐々に体力を取り戻していくことになったのだが、
「カステヘルミ様〜!」
「何かしら〜?」
「ここにロサ・ダマスケナが咲き乱れているんだけど、こんなところに薔薇なんて咲いていたかしら?」
「ロニアは一体、何を言っているのかしら?うちの庭園に薔薇なんて咲き乱れているわけがないじゃない!」
鉄の天才と言われるイザベルの人見知りが激し過ぎるが故に皇帝陛下は皇宮の敷地内に小離宮を与えられることになったのだが、この建物の中には鉄に関する貴重な資料が山のようにあるため、帝国民の出入りは禁じられているのだ。
小離宮で働く使用人はラハティ王国から連れて来ているし、料理人や医者も全て本国から連れて来た人間。庭師までは流石に手が回らなかったので、小離宮の庭園は手が空いた者が雑草を抜くという程度の対応しかしていない。だからこそ、ロサ・ダマスケナという名の美しいピンクの薔薇が咲いているわけもないのだが……
「あらま、本当に咲いているわ!」
突然、現れた美しい薔薇を見てカステヘルミが驚いていると、
「あら、ここになんでワイルドフラワーが咲いているのかしら?」
薔薇の茂みの向こう側には、ミツバチや蝶を引き寄せる黄色い花弁のザムルークと呼ばれる花やツリフネ草に分類されるザーラという花。砂漠で見られるラムスという低木の木がピンク色の花弁を散りばめるように咲かせている。
「殿下、今の鳥は何という鳥なのですか?」
「あれはコアジサシだね、海鳥だよ」
「海鳥ですか?初めて見ました!」
寝室の窓を開けて外を眺められるようになったダラールが完全看護を実行中のウィサームと共に、庭園にやって来た鳥を眺めながら話をしているようなのだが、
「やっぱり愛ってことかしら?窓から見えるようにわざわざ殿下が庭園にお花を植えてくれたってことでしょう?」
興奮するロニアに、
「これを植えたのは絶対に殿下ではないわね」
と、カステヘルミが断言をした。
咲いている花々は庭師によって整えられているわけでもなく、風に乗って飛んできた種から突然芽吹いて成長したとでもいうように綺麗に花開いている。
「それにしたってダラール様が小離宮に来てからというもの、驚くほど雨が多いのよ」
「うーん、そうですかね?」
「考えてみなさい、ロニア、今はまだ乾季なのよ?」
帝都を中心に急に雨が降り注ぐようになり、今まで見なかった鳥が現れ、帝都の近郊にある枯れかかったオアシスに花が咲き乱れ、水が湧き上がり、
「今年はどうしたことかね?」
「乾季だっていうのに恵の雨が随分と降るよ」
作物は青々と生い茂り、帝都を流れる枯れ川にいつしか水が流れるようになったのだ。
カステヘルミは皇帝陛下との会談の中で、ダラールの力が子孫の力ではないかと言った上で、
「帰らせる前に令嬢をバヌー・ハヌランに向かわせるか」
皇帝陛下が目を細めながら言うと、
「血の証明が出来れば、今まで陛下を煩わせていた諸々のことを解決することが出来ると思いますの」
そう言ってティーカップを手に取り、紅茶を一口飲んだ後に、皇帝に向かって囁いた。
「ダラール様にはグアラテム王の子孫の力があるかも、ではなく、確実にあるんです。ですからね、陛下、ダラール様が不在の間に、こうしたら良いと私は思いますの」
アクトゥム家がまさか主人であるバッサムを排除することを選ぶとは思わなかったが、バッサム亡き後、バッサムの弟カーズィムが当主の座に就くことになった。
当主就任の挨拶のために第一妃ではなく第二妃の元を訪れただけでも良く分かる。
そもそもバッサムの妻マウザはザーフィラ妃のお気に入りと言われているような女だったのだ。
ザーフィラ妃は当主を愚かなカーズィムに据え変えることで、生家であるハシーフ家にアクトゥム家を呑み込ませてしまおうと考えたのだろう。
行方不明となったダラールとアブデルの婚約も無事に解消することになったため、アブデルの花嫁探しは順調だったことだろう。
権力にしがみつく古株たちは自分たちの傀儡となる皇帝を望んでいる。アブデルが皇帝となった暁には、蒸気を使ったエネルギー産業も、開発に成功をしたダイナマイトの製造も、仲間たちで分け合い、巨万の富を築けば良い。
何もかも順調に進んでいると考えたザーフィラは、茶会の席で自らの派閥の夫人に毒を盛り、客人として訪れたカステヘルミが土産として用意した紅茶に毒が混入していたようだと大騒ぎをした。
カステヘルミを牢獄に入れている間に、鉄の天才と呼ばれるイザベル・ハークを誘拐してしまおうと考えたのか? それとも彼女の研究資料を自分たちのものにしようと考えたのか?
カステヘルミが毒入りの紅茶を用意するわけがなく、ザーフィラ妃が皇宮に毒を持ち込んだということは、今は証拠はなくとも明らかになったのだから、
「ザーフィラが我が子を皇帝にするために、第一妃と第一皇子の暗殺を計画した。皇家は翠玉宮の捜査に入り、数々の証拠を見つけられたらそれで良し、見つけられなかったら証拠をでっち上げろ」
と、皇帝陛下は命令を下した。
「ザーフィラ妃がファティマ妃の毒殺を計画して捕まったようだ」
「いや、俺が聞いたのは第一皇子を暗殺しようと考えたとか?」
「連座する形でハシーフ家、アクトゥム家、アハリ族まで罰を受けることになるようだが、アクトゥム家は滅門、ハシーフ家とアハリ族は財産の半分を皇家に差し出すことになるらしい」
「なんでアクトゥム家が滅門なんだ?」
「毒を用意したのがアクトゥム家だったってことか?」
「いや、これは俺が噂で聞いたことなんだけど」
アクトゥム家の先妻の娘はグアラテム王の子孫の力を継承する者であり、先妻が生存中は大事に育てられていたのだが、正妻が死に、後妻が来てからの八年間、虐待を受けながら育ったらしいのだ。
「噂に聞いたが、アクトゥム家の長女が虐待を受けるようになってから雨が随分と降らなくなったらしい」
「作物が育たなくなったらしい」
「オアシスがいくつも枯れることになったらしい」
「長女が虐待を受けている間、帝国から自然の恵が次々となくなったらしい」
「聞いたか?長女を虐めていた後妻の娘だが」
「ああ、聞いた、聞いた」
「俺も噂に聞いたが、陛下が詰問をするためにアクトゥム家を呼び寄せたその日の晩に、牢屋の中で叫び声を上げながら頭を抱え、壁に何度も自分の頭を打ちつけて」
「聞いた、聞いた。自分の頭を牢屋の壁に叩きつけ、痛みにもがき苦しみながら死んだんだろう?」
「呪いだな」
「女神様の呪いだろ」
「長女の父であるバッサム様も不審な死を遂げているし」
「後妻なんかはバッサム様の死後、カーズィム様の第四夫人になったんだが、それは酷い有様で死んでたって使用人たちは言っているぞ」
「俺が聞いた噂では、骨と皮ばかりに痩せた姿で、目だけがギョロリと飛び出ていたらしい」
「俺は痩せた体から全ての血が抜き取られたようで、夫人が使っていたシーツは血に塗れていたって」
「呪いだな」
「呪いだよ」
「皇帝陛下は帝国全土に呪いが広がらないようにするために、元凶となった人間を死刑に処すことを決めたらしい」
「俺が噂に聞いたところによると、そうしないと帝国全土が呪われるかもしれないからってさ」
「俺が聞いた噂では、ハシーフ家とアハリ族は呪いから逃れるために財産の半分を差し出すことになったけど」
「相手は女神様の呪いだろ?」
「どうなるかなんてわからねえよな?」
ラハティ王国の人々はとにもかくにも噂話が好きなのだが、帝国民だって同じくらい噂話が大好きだ。
今の皇帝陛下がグアラテム王の熱狂的なファンであり、いつだってグアラテム王が残した子孫の力を追い求めているのは有名な話なのだ。
そこに子孫の力である『恵』の力が出てきて、所持者が長年、虐待を受けていたということになれば、
「必要な刑罰だ!」
「必要! 必要! 女神様が納得して頂けるようにしっかりした罰を与えるべきだ!」
ということになるわけで、今までザーフィラ妃の元に集っていた派閥の者たちは何も言えなくなってしまうのは仕方がないことなのかもしれない。
貴婦人たちの噂話は今日も楽しい ③ が令和8年4月1日に発売となります!!現在掲載中のロニアとカステヘルミの五年後の物語が3巻のお話となりますので、合わせて読んでも面白い!!掲載中のお話もどんどんと展開していくので、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです!!
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