カステヘルミ様とロニア様は私の天使様 51
貴婦人たちの噂話は今日も楽しい ③ が令和8年4月1日に発売となります!!
御礼企画としてカステヘルミとロニアの帝国での物語を毎日掲載します。お話はどんどんと展開していくので、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです!!
翡翠宮でパーティーが開かれた日、
「カステヘルミ様! カステヘルミ様! ちょっと助けて欲しいんです!」
と、言いながら友人のロニアがやって来た。
ロニアはカステヘルミが送ったダビト・ハークと戻って来たのだが、ダビトは女性を抱えていた。
「今日はファティマ妃の宮殿で絵画の鑑定をするというから、本物か偽物かで揉めることになったのではないの?」
「そこはしっかり揉めました」
ダビドはうんざりした様子で言い出した。
「スィラージュ・アルアミリは果敢にも贋作を一枚、ファティマ妃が大事にするアルガッサ夫人に売り受けようとしていたんですよ」
スィラージュという男は最近、絵画の売買で一儲けしている男になるのだが、ファティマ妃の側近となる新興貴族にわざと贋作を売りつけて、購入した側の名誉を傷つけるようなことをしている節があったため、ファティマ妃が宮へ呼び出すことになったのだ。
「スィラージュはザーフィラ妃の手下みたいですね。この方はアブデル第三皇子の婚約者になるのですが、宴の最中にスィラージュに手篭めにされかけていたところをロニア様が突っ込んで行きまして」
ロニアが持っていた絵画を男の頭に叩き付けて助け出したというのだが、
「ダラール様を皇宮の何処に連れて行っても危ないと思ったので、ここに連れて来ることにしたんです!」
と、ロニアが言い出した。
暴漢に襲われそうになっていたところを助けて来たとロニアは言うけれど、乱暴目的で部屋に連れ込まれていたとか、ベッドに押し倒されていたとか、それ以前の問題で、
「カステヘルミ様、このお嬢様はどういった生活をしていたのでしょうか?」
ラハティ王国から連れて来た女性の医師が眼鏡を指先で押し上げながら言い出した。
「この方は栄養失調と脱水症状が著しく、内臓が酷く弱っているのも問題なのですが」
医師は衣装に隠されていた肩や脇の下などを見せながら、
「針先で執拗に突かれた跡が皮膚に残されているだけでなく、一部は感染を起こして膿みまで出ているというのに、放置されていたようなのですよ」
名門家の令嬢が皮膚を執拗に傷付けられているということも異常なら、一切の処置もなくそのまま豪奢な衣服を着せられていることも異常で、
「硬い衣類の布質が傷を大きく広げているのです。この状態で何も言わずに宴に参加していたとするのなら、よほどに我慢強い方なのでしょう」
カステヘルミは膿んで傷付いた肌を確認し、
「とてもじゃないけど元いた場所に返すわけには行かないわね」
と言って、医師に出来るだけの処置を頼むことにしたのだった。
カステヘルミは鉄の天才と呼ばれるイザベル・ハークを帝国に連れて来ているのだが、この鉄の天才はとにもかくにも胃腸炎に罹りやすいのだ。
帝国の医者は基本的に男性がなるものなので、引っ込み思案で人見知りが激し過ぎるイザベルが受診することも出来ず。苦肉の策として祖国から女性の医師を招くことにしたのだが、やって来た医師は祖母がルーレオ人ということもあって、薬草について非常に詳しいのだ。
帝国にも植生する植物で薬を作ってくれる優秀な医師が、後に、
「どうしましょう……これほど体が衰弱しているのに、生きる気力がなければ死んでしまいますよ」
と言って、途方に暮れることになるのだが。
八年という歳月、ダラールは虐待を受け続けていた。
どれほど執拗な虐めだったのかは、衣服で隠された部分の傷跡を見ればよく分かる。名門家の娘、第三皇子の婚約者。誰もが傅き、大切に守られるべき存在が、男に襲われ、乙女の花を散らされそうになっていた。
「このやろう〜!」
と言って猪突猛進のロニアが突っ込んで行って助け出すことは出来たのだが、ダラールの生きる気力を取り戻すことはさすがのロニアにも出来なかった。
このまま死んでしまうのなら、アクトゥム家に帰すべきなのか?
長年、虐待を繰り返して来た家に帰して良いものなのか?
「うー〜ん」
困り果てたカステヘルミは相談役でもあるウィサーム第二皇子を呼ぶことにしたのだが、ウィサームは容赦がない男だった。
水を吸わせた綿をダラールの口元に持って行っては、
「ダラール様! お水を口に含んでください! ダラール様!」
泣いて懇願するロニアを横に押し退けると、水差しに汲んであった水を自ら口に含み、ダラールを抱き起こしながら口移しで水を飲ませてしまったのだ。
本人の気持ちは別として、ダラールの体は水を切実に求めていたようで、無理やり口の中に注がれる水が喉を流れ落ちて行くことになったのだが、
「セクハラだわ」
「セクハラよ」
カステヘルミとロニアは第二皇子の暴挙に唖然としながら呟いていると、
「セクハラじゃない、愛よ、愛」
二人の後ろでビルギッタがそう言うと、二人を回れ右させて寝室から連れ出してしまったのだった。
口移しでダラールに水を与えたウィサーム皇子は、その後、自分の住まいを小離宮に移した。完全看護状態で皇子自らダラールの世話をしたのだが、
「カステヘルミ様、あれってビルギッタ様の言うとおり、愛ってことなのかしら?」
と、隣の部屋でお茶を飲んでいたロニアが問いかける。
「愛じゃないと私は思うのよね」
カステヘルミは焼き菓子をつまみながら言い出した。
「だってダラール様はグアラテム王の子孫の力を継承しているかもしれないから、皇帝がとっても大事にしている方なのだもの」
温厚であり、人の話を良く聞くことでも有名な皇帝陛下は、グアラテム王の子孫の力が絡んだ時だけ苛烈になる。
先帝の時代は『攻』の力で国土は広がったものの、帝国を大きく衰退させることになった子孫の力は、誰もが思い出したくもないものになっていたのかもしれないが、
「『恵』の巫女かもしれないダラールを、八年に渡って虐待していただって?」
このことを知った時の皇帝の怒りたるや並々ならぬものだった。
ハヌラン族が滅びることになり、生き残ったワヒーダをバッサムが娶りたいと言い出した時に、
「ワヒーダはグアラテム王の子孫の力の継承者、神話に出てくる女神の末裔とも言われる人であることを忘れることなく、ワヒーダただ一人を愛することを誓えるのか?」
という皇帝の問いに、
「誓います! 妻はもちろんのこと、私たちの子供が生まれたら! 何不自由なく幸せに暮らせるよう、アクトゥムの全ての力を使うことをここに誓います!」
と言ったのはバッサムだったのだ。
ハヌランの巫女は女神マナの末裔、嫉妬深い女神マナは夫が複数の女を愛することを認めない。だからこそ、皇帝はワヒーダとバッサムの結婚を認めたのだが、
「唯一の娘を死なせてしまったら、皇帝の怒りは天を衝くものになるでしょう。それが分かっているから、ウィサーム殿下も必死になってダラール様をお助けしているのよ」
と、カステヘルミは言うのだが、ロニアは顔をしかめながら言い出した。
「でもね、でもだけど、お助けしたいという思いだけで、自ら口づけをするのかしら?」
「口づけじゃなく、口移しで水を飲ませただけ。人命救助の一環よ」
「そうなのかな〜、あのウィサーム殿下だよ〜?」
ウィサームに愛があるのか無いのかは、ダラールが帝都に戻る頃にははっきりすることになるのだが。
貴婦人たちの噂話は今日も楽しい ③ が令和8年4月1日に発売となります!!現在掲載中のロニアとカステヘルミの五年後の物語が3巻のお話となりますので、合わせて読んでも面白い!!掲載中のお話もどんどんと展開していくので、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです!!
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