カステヘルミ様とロニア様は私の天使様 44
貴婦人たちの噂話は今日も楽しい ③ が令和8年4月1日に発売となります!!
御礼企画としてカステヘルミとロニアの帝国での物語を毎日掲載します。お話はどんどんと展開していくので、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです!!
母のマウザがカーズィムと愛人関係の時に出来た子供がアタファナのだと言われたが、
「そんなことは関係ない・・そんなことは関係ないのよ」
アタファは口の中で呟いた。
帝国の歴史は数々の部族を支配下に置くことから始まっており、皇帝は氏族社会を尊重する立場を貫き通して来ているし、一族内の出生に関して届出を徹底している。
氏族社会を尊重するとはその一族の長の権利と主張を保護するという意味もあるため、首長とその血筋に関してだけは皇宮が目を光らせていると言っても良いだろう。
ちなみにアタファはバッサムの実の娘であると届け出が出されており、バッサムの死後、カーズィムの養子になっている。
今回、皇帝が勅命によってアクトゥム家の主一家を呼び寄せたのは、バッサムの娘であるアタファが虐待を受けているのではないかという噂を耳にしたから。だからこそ第四夫人のライラはヌールハーンの暴力から遠ざけるために、あえてアタファを同じ馬車に乗せてアピールしようと考えているのだろう。
「やっぱり世界は私を中心に回っているのよ」
行方不明となったダラールはおそらく死んでいる。
そうなれば唯一の直系の子供は(届け出上では)アタファだけ。
世間にはアタファがバッサムを殺したのではないかという噂が出回っているのだろうが、そんなことは関係ない。新たなるアクトゥムの主人であるカーズィムがアタファに対して断罪するようなことを行なっていないのだから、噂はあくまで噂で終わるだろう。
アタファは隣に座るライラをこっそりと見ながら考えた。ライラはどう見てもヌールハーンよりも格上であり、第一夫人のヌールハーンをどうやって落ちぶれさせようか、どれだけ苦しめてやろうか。そんなことを考えながら心の中で舌なめずりをしているに違いない。
砂漠地方に伝わる呪法の一つに『蠱毒』というものがあり、蠍やムカデ、毒蛇、毒蜘蛛、毒蛙などの毒虫を壺に封じて共食いをさせ、最後まで残った最強の一匹を呪いに利用するという。
帝国では有力者であるほど多くの妻を娶ることになるけれど、妻として娶られた女たちは壺の中に入れる毒虫と同じだ。最強の一匹になるために熾烈な戦いをするものだとアタファは話に聞いていたものの、バッサムはたった一人の妻しか娶らなかったので、このような争いとは無縁でいられたのだ。
なんでバッサムを殺してしまったのだと、今更後悔しても過去に戻ることは出来ない。
「まあいいわ、今のアクトゥム家の最強の夫人はライラ様になったのだもの」
母のマウザを殺し、アタファにも激しい暴力を振るったヌールハーンは終わる。
ライラだったらすぐにカーズィムの子供を産むだろうし、アクトゥム家はライラが産んだ子供が継ぐに違いない。バッサムの唯一の娘であるアタファは、ライラの産んだ息子を支持しながら金持ちの家へと輿入れさせてもらおう。
バッサムを毒殺したという噂が巷を流れているのなら、実はその毒殺した犯人はヌールハーンだったのだという噂を新たに作って流せば良いだけだ。夫であるカーズィムをアクトゥムの主の地位に就けるために、自分がアクトゥムの第一夫人になるために。気に入らないマウザを排除するためにと、ヌールハーンが企んだ。
ほら見てごらんなさい?
気に入らないマウザを第四夫人として招き入れた後に、彼女が何をしたのかを今こそ明らかにするべきよ。
連日、鞭打ちをした上で治療もせずに、挙げ句の果てには餓死するように食事も与えず放置したというのよ?娘のアタファの髪をザクザクと乱暴に切り、散々殴りつけたり蹴り付けたりしていたところを誰が助けたと思う?
アタファ家に輿入れしたライラ様が憐れに思って助けたらしいわよ?
まあ!ライラ様って慈悲深い方なのね!
帝国の貴婦人たちは慈悲深いという言葉が大好きだ。
慈悲深いという言葉が付くだけで、その人は善良な人だという印象を持つ。
ライラには色々と悪い噂が付きまとっていたことをアタファは知っているが、憐れなアタファを救うだけで自分が持つ印象をガラリと変えることが出来るのだ。
「ふっ・・ふふふっ・・ふっ・・ふふっ」
「アタファ? 一体どうしたんだい?」
「いえ、お父様」
思わず笑いが込み上げて来てしまったのだが、即座に目に涙を浮かべたアタファは憐れを装いながら言い出した。
「人間らしい扱いって、こういうことなんだなと思いまして」
アタファはただ馬車に乗ってライラの隣に座っているだけなのだが、それだけで人間扱いをされていると言い出すアタファの境遇を想像したカーズィムは、気まずそうに目をそらしただけだった。
ねえ、ライラ様、カーズィムってこういう男なの。
実兄の能力の半分も持たない男、女にばっかり夢中になってしまう口先だけの男に、巨大なアクトゥム家を率いて行くなんてまず無理なのよ。
だからね、ライラ様。さっさとカーズィムの子供を作ってちょうだい。
ライラ様の子供さえいれば、次のアクトゥムの主はその子で決定よ。
そしたらこんな男、さっさと始末してしまいましょう。
そんなことを考えながらアタファがライラを見上げると、ライラはアタファを見下ろしてニタリと笑ったのだった。
ライラはライラで隣に座るアタファを見下ろしながら、
「この娘ったら本当に変わらないわねえ〜」
と、考えていたのだ。
人を蹴落とすか、利用することしか考えない娘。
皇帝の勅命により皇宮に上がることになって、まずは問題のヌールハーンが糾弾されることになるだろうと考えて、ライラの尻馬に乗ることを即座に決めた。
この後はライラに傅くようにしながら己の身分を回復し、最終的には有力な帝国貴族の家に輿入れすることで逃げ切ろうと考えているのだろうが、
「そうさせるつもりはないのよね〜」
ライラはアタファを見下ろしながらニタリと笑う。
アタファとは今まで、何度か顔を合わせたことがあるのだが、ライラの噂を耳にしていたアタファは嘲笑うようにライラを見ていたのを鮮明に思い出す。
「いくらアハリ族の族長の娘でも、おばさん、すでに終わってない?」
そんなクソ生意気な娘が、やってはならないことを行なった。
家令のハリドに金を積んで口を割らせたところ、バッサムを毒殺したのがアタファだということが判明した。
親殺しは重罪、しかも首長殺しは禁忌と言われるほどの大罪なのだ。
「クックックッ」
ライラは鼻っ柱がやたらと高い女の鼻をへし折るのが好きだし、奈落の底に落とすのも好きなのだ。
「はあ〜、楽しい」
「ライラ、何が楽しいっていうのだね?」
「貴方と一緒に皇宮に行けるのが楽しいのよ」
ライラはカーズィムに輝くような笑みを浮かべながら言い出した。
「愛する貴方と一緒なら、何処に出かけても私は楽しくて仕方がないの」
貴婦人たちの噂話は今日も楽しい ③ が令和8年4月1日に発売となります!!現在掲載中のロニアとカステヘルミの五年後の物語が3巻のお話となりますので、合わせて読んでも面白い!!掲載中のお話もどんどんと展開していくので、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです!!
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