カステヘルミ様とロニア様は私の天使様 41
貴婦人たちの噂話は今日も楽しい ③ が令和8年4月1日に発売となります!!
御礼企画としてカステヘルミとロニアの帝国での物語を毎日掲載します。お話はどんどんと展開していくので、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです!!
マウザの死後、アタファは幽霊のような存在に成り下がっていた。
誰もアタファを視界に入れようとしないし、相手にしようとも思わない。
今まで自分を持て囃していた人々はもういない。今まで経験したことがないほどの孤独がアタファを蝕み始めていた。
第一夫人のヌールハーンは今のところアタファのことを気に掛ける素振りもなく、マウザが死んだことに満足をしているようだった。
それで良いのだと、アタファの勘が囁き続けているのだ。
ヌールハーンは気性の激しい女で、第二夫人や第三人夫人は彼女に対して不満を持ちながらも決して表に出すようなことはしない。万が一にもヌールハーンの逆鱗に触れれば、自分たちもマウザのように殺されるかもしれないからだ。
自分たちが殺されたとしても、棺に釘を打ってしまえば中身を確認しようがない。流行病に罹って死んだのだと言えば、わざわざ釘を抜いてまで遺体を確認しようとも思わない。そんな無惨な死に方をするくらいだったら、息を潜めるようにしてやり過ごした方が良いだろう。
第二夫人や第三人夫人が部屋に閉じこもっている間、アタファは庭園の裏手にある倉庫の床下で隠れるように生活をしていた。ダラールが八年間食事を満足に与えられずとも過ごせただけあって、庭園に実る棗椰子の実や柘榴はアタファの食生活を支えてくれたのだが・・
「なあ、最近、どうもおかしいと思わないか?」
庭師たちが最近、不安を口にすることが多くなっているのだ。
「この前は柘榴の実が全て腐り落ちていたかと思えば、今度は棗椰子の実が腐っていた」
「南に生えていた椰子の木が根元から腐り果てていたのを覚えているか?」
「なんでこの屋敷だけ植物が腐っていくんだ? 確かに今年は雨が多いかも知れないが、明らかに何かがおかしいだろう?」
帝国の気候は乾季と雨季に分かれているのだが、そのうちのひと月が雨の月と呼ばれるほど雨が多くなるのだが、
「例年に比べて今年は恵の雨が多いから、よその家の庭師なんかは植物を育てやすいと言っているんだが」
「アクトゥム家の屋敷だけどうもおかしいようだ」
そこで庭師たちは顔を見合わせながら言い出した。
「食事を与えられないアタファお嬢様が好んで食べているのが棗椰子の実と柘榴だろ?」
「それがありえないくらい腐り落ちているというのだから」
「旦那様の呪いなんじゃないだろうか?」
ヌールハーンがわざと、バッサムを殺したのがマウザやアタファなのではないかという噂を流しているので、
「毒を盛られた旦那様が浮かばれずに屋敷の庭を漂っていて・・」
「恨みを晴らさんとして植物を腐らせながらさまよっているのかもしれないぞ?」
庭師たちもバッサムが服毒自殺をしたというのは嘘で、殺されたのだろうと考えていたのだ。
「嘘よ・・嘘・・お父様が恨みに思ってさまよっているはずがないわよ・・」
倉庫の床下に溜め込んでおいた棗椰子の実は腐ってはいないのだから、
「庭の木が腐ったのは庭師が仕事を疎かにしたからでしょう?」
そう思い込むことにしたアタファは、倉庫の床下に隠れたままなるべく外には出ないようにしようと考えた。
アタファが隠れている間に屋敷の雰囲気はますます悪くなり、そのうち庭師たちの会話からアタファのことを思い出すことになったヌールハーンが、
「これだけ上手くいかないのは!全てアタファの所為よ!」
怒鳴り声をあげるようになったのだが、アタファは床下の隅に潜んでやり過ごすことにした。
ヌールハーンに見つかったら終わる。それだけはアタファもよく理解していたので、ただひたすら嵐が過ぎ去るのを待ち続けていたのだが、
「ヌールハーン様!居ましたよ!倉庫の下に隠れていました!」
倉庫の床下に潜り込んで来た下男がアタファの腕を掴むと、外へと引きずり出しながら大声を上げた。
「猫の子みたいに隠れていました!ここです!ここにいます!」
ひと月以上も誰の世話も受けずに隠れ住んでいたアタファは土に塗れ、悪臭すら漂っていたのだが、
「お前が我が家を呪ったのか!」
ヌールハーンはアタファを見つけるなり頬を殴りつけたのだ。
「お前が呪うから!お前が呪うから!」
この時、ザーフィラ妃の紹介ということでカーズィムはアハリ族の族長の娘を第四夫人として娶ることになり、第四夫人の為に屋敷を一部壊して新妻のための新居を建てることが決定したのだ。
大部族であるアハリの娘が輿入れすることにより、ヌールハーンは元より第二夫人、第三夫人も屋敷の隅へと追いやられることになるのだが、
「お前の所為だ! お前の所為だ!」
ヌールハーンに激しい折檻を受けるアタファには何が自分の所為なのかがちっとも分からない。
庭の木々が腐ったのが自分の所為なのか、それとも棗椰子の実や柘榴が腐り落ちたのが自分の所為なのか。アタファがあの時、バッサムに部屋を壊されている時に抵抗さえしなければ、黙ってバッサムの言うことだけを聞いていれば、カーズィムがアクトゥムの主になることもなく、ヌールハーンが嵐のような暴力を振るうこともなかったかもしれないのに。
ヌールハーンに殴り飛ばされたアタファが地面に転がる石に頭を打ちつけて真っ赤な血を飛び散らしていると、
「ヌールハーン様!大変です!」
家令のハリドが慌てた様子でやって来るなり言い出した。
「皇帝陛下からの勅命により!今から家族全員で皇宮に参内せねばなりません!」
この時、ヌールハーンは血まみれのアタファの胸ぐらを掴んでいたのだが、
「まさか、アタファも連れて行かなければならないってわけじゃないわよね?」
ヌールハーンの問いに、
「連れて行かなければなりません」
ハリドはヌールハーンにも理解できるように噛み砕くようにして答えた。
「バッサム様の娘であるアタファ様はカーズィム様の養子として皇宮に届け出を出されておりますので、勅命により参内しなければなりません!」
「嘘でしょう!冗談じゃないわよ!」
ヌールハーンが胸ぐらを掴んでいた手を離すと、血まみれのアタファが狂ったように笑い出す。
「あはははっはっははは!」
ヌールハーンがゾッとしながら笑い続けるアタファを見ると、アタファはふらつきながら言い出した。
「皇帝陛下の前であんたからどれだけ虐待を受けたかを詳細に言ってやるわよ!そしたらあんたは終わり!第一夫人として二度とふんぞりかえれないようにしてやるわ!」
「この小娘が!」
ヌールハーンが再びアタファを殴りつけようとすると、その腕を掴んで止めたハリドが必死に声を上げた。
「奥様!時間がないのです!」
確かにハリドが言う通り時間はない。
「この娘は病に罹ったということにして」
「無理です!皇帝陛下直々の勅命なのですよ!」
ヌールハーンは生唾を呑み込んだ。
髪の毛はザンバラに切り刻まれ、何日も入浴をせずにいた所為でありえないほど垢じみているアタファはどこからどう見ても、皇帝の前に出しても大丈夫なようには見えないのだ。
貴婦人たちの噂話は今日も楽しい ③ が令和8年4月1日に発売となります!!現在掲載中のロニアとカステヘルミの五年後の物語が3巻のお話となりますので、合わせて読んでも面白い!!掲載中のお話もどんどんと展開していくので、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです!!
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