カステヘルミ様とロニア様は私の天使様 39
貴婦人たちの噂話は今日も楽しい ③ が令和8年4月1日に発売となります!!
御礼企画としてカステヘルミとロニアの帝国での物語を毎日掲載します。お話はどんどんと展開していくので、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです!!
マウザの死はアタファにショックを与えたけれど、
「どうしよう……どうしたら良いのかしら?」
母の骸を前にして、アタファは両手の拳を握り締めた。
屋敷を管理するのは第一夫人の役割であり、子供や使用人は夫人の支配下に置かれることになる。
第一夫人は生殺与奪の権利を持っているため、使用人たちが傅くように仕えるのは当たり前。唯一の女主人であるマウザが義娘となるダラールのことを疎ましく思っていたからこそ、使用人たちはダラールに食事も与えず、足をひっかけては転ばして、高らかに笑い声をあげていたのだ。
「どうしよう・・お母様が死んでしまったのだもの」
多くの部族を従える帝国は氏族社会を尊重する。帝国では殺人に対しての処罰を法律で決めているのだが、家の中で起きたことであれば長老の判断で処分をされることが多いのだ。
マウザが死んだのはヌールハーンの暴力が原因だったとしても、カーズィムが真摯に対応するとは思えない。
「ヌールハーンはお母様のことを、お父様を亡くしたショックで食事も喉を通らなくなったのだと言って、病に臥したまま亡くなったのだと言い出すに決まっているわ!」
それが貴婦人たちのやり方でもあるのだが、
「これじゃあ、私もいずれは殺されるってことかしら?」
アタファの身震いは止まらなくなる。
その数日後、マウザの死が明らかとなり、第四夫人の葬儀がとり行われることになったのだが、ヌールハーンも使用人たちも、娘であるアタファのことを探そうとはしなかった。
流行病に罹ったからと言ってヌールハーンは棺の蓋に釘を打ち付けてしまったし、バッサムを殺した犯人かもしれないという噂が巷に流れているだけあって、マウザの両親以外に葬儀に現れる者はいなかった。
マウザの家は商家を営んでいるのだが、カーズィムがアクトゥムの主となってからは名家の庇護が届かなくなってしまったのだ。そこで、マウザを憐れに思うのなら今まで通り旨みがある仕事を回して欲しいと訴えたところ、けんもほろろに断られて肩を落としながら帰ろうとしていたところで、
「お祖父様!お祖母様!」
生垣の横から顔を出したアタファが自分の祖父母に声をかけたのだ。
「お母様を殺したのはヌールハーンなんです!」
アタファは髪をざんばらに切られた状態で、いつから着ているのかも分からないほど衣服も垢じみたものになっている。まともに食事を与えられていないのか顔もげっそりとやつれていたのだが、慌てたように周囲を見回した祖母は、
「アタファ、貴女はこの家で生かして貰えているだけ有難いと思いなさい」
と言って小銭が入った袋をアタファに押し付けた。
「このままでは私は殺されてしまいます!」
「それも仕方がないことよ」
祖母は周囲を見回しながら言い出した。
「ヌールハーン様が気に入らないとなったら、周囲の対応は厳しいものになるのです。あなたは愛想を振りまくのだけは得意だったでしょう? カーズィム様に愛想を振りまいて、気に入られるしか生きる道はないのよ」
「おばあさま!どうか私を連れて行ってください!お願いします!」
「まあ!それは無理よ!」
祖父母は冷めた目でアタファを見下ろした。
「あなたを連れて行ったことがヌールハーン様にバレたら、我が家は取り潰されてしまうもの!」
「ただでさえ我が家は厳しい状況だというのに、お前に構っている暇などないわ!」
母方の一族にそっぽを向かれることになったアタファは、唯一の希望を失うことになったのだった。
バッサムが生きていた時に、あれだけ自分のことを甘やかしてくれたカーズィムや祖父母はもういない。自分が兄に変わって主になったとなれば、アタファもマウザも、彼にとっては用済みでしかないのだ。それはアブデル皇子にとっても、ザーフィラ第二妃にしても同じなのだろう。皇子はその後、アタファのことについては言及しなかったようだが、
「あれだけ私のことを可愛いと言ってくれたのに……」
誰も彼もがアタファにそっぽを向き、居ない者として扱うのだ。
***
誰かが泣いていた。身も世もなく泣きじゃくっているのが見えるのだけど、ちっとも心が動かされないのは何故だろう?なんで泣いているのだろうかと疑問にも思わないし、可哀想だとも思えない。ただ、ただ、あなたの自業自得でしょう?という思いが浮かんでは消えていくだけで、
「あなたもそんな風に泣くことがあるのね」
と、泣いている人に向かって呟いてしまう。泣いている姿はおぼろげとなって顔の形も良く分からないけれど、その涙はきっと大地を潤してくれるだろう。
この夢に意味なんてものはないだろうけど、ただ、ただ、大地は潤い美しい花が咲くに違いないのだと、そんなことを考えていたら・・
「ダラール様、ダラール様」
テラスでお茶をしていた私は、いつの間にかうたた寝をしていたようで、
「そんなところで寝ていると風邪をひいてしまいますよ」
と、ウィサーム殿下の直属の部下であるマシド様が声をかけてきたの。
帝都の近郊に位置する中継都市と呼ばれる街に私は滞在しているのだけれど、殿下が万事整えてくれたおかげで何不自由ない生活を送っているの。
護衛の皆さんが多すぎてたまに鬱陶しくなることもあるんだけど、許容範囲だと言えるでしょう。
「ウィサーム殿下からのお手紙でございます」
「毎日、毎日、送って来なくても良いのだけれど」
「それが殿下のお心でございますから」
帝都にひと足さきに向かった殿下は毎日、報告という名の日記のような手紙を送ってくるのだけれど、とにもかくにも手紙の内容が長いのよ。
「それから今日はダラール様が喜ぶような情報が一つございます」
「何かしら?」
「ひと月ほど身柄を拘束されることになったカステヘルミ様とロニア様が解放されることになりました」
「本当に?」
私は肯定するように何度も頷くマシド様を見上げると、大きなため息を吐き出したの。
カステヘルミ様とロニア様はザーフィラ妃のお茶会に参加をした先で、貴婦人に毒を盛ったという疑いをかけられ、身柄を拘束されることになったのよ。
カステヘルミ様がお土産として用意した紅茶に毒が含まれていたとして、第二妃様が被害にあうこところだったと大騒ぎになったみたいなの。
カステヘルミ様が与えられていた小離宮をザーフィラ妃は勝手に入り込んで毒物はないかと調べ始めたそうなんだけど、
「小離宮に貴女がいるものだと考えたザーフィラ妃が、人を送り込むきっかけを作ったのでしょうね」
というのがウィサーム殿下の意見なの。
小離宮では鉄の天才と呼ばれるイザベル様の研究資料があるはずなので、それも手中に収めようと考えたのでしょうが、小離宮は私の痕跡どころかイザベル様も消えて、も抜けのから状態だったというの。
ロニア様のお祖父様が経営する画廊も閉じられ、肝心のお祖父様は船に乗って帝国を出発してしまった後だったそうで、
「あの小娘たちは私を殺そうと周到に計画していたということね!今すぐ私の手で責め立てて!全てを明らかにしてしまわないと!」
と言ってザーフィラ様は大騒ぎをしたみたいなの。
毒入り紅茶を用意したのはザーフィラ妃に間違いないんだけど、翠玉宮で行われたことなので証明のしようもないのよね。カステヘルミ様がお気に入りの紅茶を土産として持参して、その紅茶の中に毒が入っていたんだと言っているんだけど、
「カステヘルミ嬢とロニア嬢は尖塔のてっぺんに閉じ込めてしまったのだもの、尖塔は陛下の直轄になるので陛下が罪を詳らかにしてくださるでしょう?」
と、ファティマ妃が言い出したらしいわ。
ファティマ妃が後宮を管理することになっているけれど、妃たちが与えられた宮を管理するのはそれぞれの妃になる。
翠玉宮の中で起こった犯罪を秘密裏に処理をするのであれば、ファティマ妃も手出しが出来なかったけれど、二人が尖塔に運ばれたことで罪人の扱いは皇帝陛下に一任されたことになる。
ザーフィラ妃は外国人の二人がとんでもない犯罪を犯したのだと主張して、帝国とラハティ王国の間に亀裂を生じさせている間に鉄の天才と呼ばれるイザベル様を手中に収めようと考えたのでしょうけれど、カステヘルミ様とファティマ様が先手を打ったのでしょうね。
「それで?お二人が解放されたんだから、誰が毒を用意したのか判明したということなのかしら?」
「毒については証拠集めをしている段階ですね」
「それじゃあ、どうしてお二人は解放されたの?」
「雨ですよ」
マシドはシトシトと雨が降るのを眺めながら、
「雨とウィサーム殿下の話術によって、お二人は解放されることになったのです」
と、よく分からないことを言い出したのよ。
貴婦人たちの噂話は今日も楽しい ③ が令和8年4月1日に発売となります!!現在掲載中のロニアとカステヘルミの五年後の物語が3巻のお話となりますので、合わせて読んでも面白い!!掲載中のお話もどんどんと展開していくので、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです!!
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