カステヘルミ様とロニア様は私の天使様 33
貴婦人たちの噂話は今日も楽しい ③ が令和8年4月1日に発売となります!!
御礼企画としてカステヘルミとロニアの帝国での物語を毎日掲載します。お話はどんどんと展開していくので、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです!!
「ロニア嬢が君を助けて、カステヘルミ嬢が君を匿ったということになるのですが」
ウィサーム殿下は私に向かって言いました。
「このことが世間に知られれば、君を誘拐したということで二人の身柄が拘束されるかもしれないのです」
食べ物も与えられず、庭に生えていた棗椰子の実を食べて凌いでいた私ですが、これでも名門と呼ばれるアクトゥムの正当なる娘ということになるので、
「外国人少女二人が皇子の婚約者を誘拐したということになれば、帝国とラハティ王国の間に亀裂を入れるきっかけにもなるわけです。そうなると本当に困る〜!」
そう言って顔をくちゃくちゃにしたウィサーム殿下は私の方を見つめながら言いました。
「帝国の建国当初から支え続けてきたと言われる由緒正しい家であればあるほど、鉄道事業や縫製事業については胡散臭いと考えて、相手にもして来なかったわけですが、実際に蒸気を使ったエネルギー革命が成功をすると、想像もつかないほどの金を生み出す未来が見えて来たわけです。蒸気を使ったエネルギー革命と言いますが、これには鉄の天才と呼ばれるイザベル女史の助力なくして成功など出来なかったと言えるでしょう。いやいや、今も新しい部品がどんどんと開発されているわけですから、鉄の天才の協力が無くてはエネルギー革命も頓挫してしまう。そこのところがアイツらには分からないんだ〜!」
殿下は苦虫でも噛んだような表情を浮かべます。
「こうして一歩も二歩も出遅れることになった名門一族たちは、初期から投資を行っていた新興貴族たちが気に食わない。彼らはあれよあれよという間に金を儲けていくわけですから、自分たちの利権にまで関わってくるのではないかと考える。そうしたら、貴女だったら何をすると考えますか?」
「えーっと」
「金を儲けて浮かれきっている愚か者がいるとするのなら、足を掬い上げて転がしてしまえば良いと考える。そうして、旨みがある産業については全てを奪い取れば良いだろう。人見知り過ぎて問題行動も多い鉄の天才ですが産業の根幹を支えていると言っても良いような人なので、彼女をまずは確保したいと考える。ちなみにイザベル女史の後見人となっているのは誰ですか?」
「カステヘルミ様です」
「そうです、ラハティ王国からやってきたまだ十三歳にしかならない少女です。この少女は皇帝のお気に入りとまで言われているので手が出しづらい状況ではありますが、彼女が決して言い逃れが出来ない状況に陥らせることが出来たなら、鉄の天才に言うことを聞かせることが出来るかもしれない!」
「それじゃあ、お二人が私を誘拐したということになれば?」
「すぐ様牢屋に入れてしまうでしょう、そうしてイザベル女史を誘拐する。誘拐したイザベル女史にはカステヘルミ嬢やロニア嬢の命を担保にして言うことを聞かせることが出来るでしょうからね」
「あのイザベル様をカステヘルミ様なしで有効活用など出来るのでしょうか?」
「イザベル女史の才能については彼らにとっても半信半疑なところもあるでしょうから、有効に使えればそれで良いし、最悪使えなければ殺してしまっても差し支えないと考えているでしょう」
「そうなったら色々と大変なことになると思うのですが?」
「イザベル女史は外国人の女性技師ですから、効率よく使えればそれで良し、使えなければ捨てるまで。その程度にしか考えていないでしょう」
ウィサーム殿下は真面目な顔で言いました。
「古から続く有力部族の方々は、巨大なる帝国が田舎国と蔑むラハティ王国と懇意にしていること自体が気に食わない。隙を見つけて両国を切り離し、エネルギー産業も、王国が開発した特殊な技術も自分たちで丸呑みにしたい。優秀な自分たちであれば今ある産業をもっと良くすることが出来るだろうと、安易に考えているのです」
「だったら・・どうしたら・・」
「貴女が誘拐されていたのだとアピールされては困るので、貴女には早急に小離宮を離れてもらうことにしたのです。今はまだ貴女は『グアラテム王の子孫かもしれない』という状況ですが、私のように『グアラテム王の子孫です』と、明確に証明出来れば、この状況を一変させることが出来るし、貴女は帝国で無敵の存在になれるのです」
「無敵の存在ですか?」
「そうですよ」
「それでは、ウィサーム殿下もまた、無敵ということになるんですか?」
「そうです、無敵ですよ」
「それじゃあ、次の皇帝の地位にはウィサーム殿下が?」
「それは無理です、だって私には貴女と同じく母方の一族の後ろ盾というものがありませんからね」
皇帝になることは出来ないけれど無敵な力。
それってどんな力なのかちっとも分からないのですが、私は殿下と共に車と機関車と馬車とラクダを乗り継いで、バヌー・ハヌランの地まで移動することになりました。
バヌー・ハヌランは鉄鋼が採掘される鉱山もあるアルラカマ山脈と海に挟まれた広大な砂丘が広がる地域であり、ハヌラン族が代々治めていた領域だと言われています。
昔はもうちょっと緑豊かな場所だったらしいのですが、雨が降らない乾季が何年も続くことによってオアシスが次々と枯れることになり、深刻な水不足が鉱山経営に暗雲をもたらしているのだそうです。
「いや、まあ、そうは言っても今年は結構、雨が降っているんですけどね」
と、砂漠地帯を案内してくれたナージフさんは言いました。
「今が雨の月ということもあるんですけど、ここ八年の間で一番、雨が降っていると言っても良いでしょう」
温暖な帝国では年の半分が夏(雨季)、冬(寒期)で分けられおり、そのうちのひと月が『雨の月』と呼ばれるほど雨が多いんです。
「ナージフ氏は生き残ったハヌラン族であり、神職でもあるため、一族が巡礼をしていた祠の位置も十分に理解している方でもあるのです」
「それではもしかして」
「そうです、貴女には雨の月の間、聖地巡礼を行なってもらうことになります」
こうして私は不毛の地をラクダに乗って巡礼することになったのですが、
「またこうして巡礼が行えるようになるなんて!」
ラクダを用意したハヌラン族の方々が泣いて喜んでいる姿を見ていると、私は行きたくありませんなんて言える訳がないのです。
ちなみにハヌラン族は巫女となる一族の直系の女性が長の座につくことが決められており、長の婿が妻を支えることで一族を従えていたのですが、私の祖母の代に私の祖父が女に溺れて祖母が邪魔になり、祖母を殺してしまったというんですね。
本物の巫女は祖母ではなく自分が愛した女性だ!と、宣言して一族をまとめようとしたのですが、あっという間に隣国ディルイーヤの兵士に滅ぼされてしまったというんですね。ディルイーヤは鉱山もあるアルラカマ山脈を我が物にしようとしたわけですが、帝国軍が出張って来て追い払ったのだそうで、
「その時に、貴女のお母様は貴女のお父様と出会い、お二人は夫婦となって皇都へと移動して行ってしまったのです」
と、私も知らなかった真実をナージフさんは教えてくれたのでした。
こうして和やかな雰囲気のまま祠を三つ巡ることになったのですが、そこで皇都からの伝令がやって来て、
「すみません、私は皇都に帰らなくてはならなくなってしまいました」
と、ウィサーム殿下が言い出しました。
「どうやらカステヘルミ嬢とロニア嬢が捕まってしまったようで、私が帰らなければ二人は死刑になるかもしれないと言うのです」
「死刑!」
なんでお二人が死刑にならなければならないのでしょう?
「ザーフィラ妃の術中にまんまと嵌ったみたいなのですが、ダラール嬢、貴女はこのまま祠の巡礼を続けても良いですし、私と一緒に皇都に帰っても良いですし」
「帰るに決まっているじゃないですか!」
私は殿下の胸ぐらを掴みながら訴えましたとも。
「カステヘルミ様とロニア様は私にとって天使様も同然なのですよ!そんなお二人が窮地に陥っていると言うのに!呑気にラクダに乗って巡礼なんかしている場合じゃありません!」
「ダラール嬢にとってカステヘルミ嬢とロニア嬢は天使様なのですか?それでは私は何になるのでしょうか?大天使様?それとも神の御使い?」
「今はそんな冗談を聞いている場合じゃないんです!さっさと皇都目指して出発しましょう!」
砂漠という過酷な環境で巡礼を続けていただけあって、私の殿下に対する扱いはかなり雑になっております。
貴婦人たちの噂話は今日も楽しい ③ が令和8年4月1日に発売となります!!現在掲載中のロニアとカステヘルミの五年後の物語が3巻のお話となりますので、合わせて読んでも面白い!!掲載中のお話もどんどんと展開していくので、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです!!
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