カステヘルミ様とロニア様は私の天使様 32
貴婦人たちの噂話は今日も楽しい ③ が令和8年4月1日に発売となります!!
御礼企画としてカステヘルミとロニアの帝国での物語を毎日掲載します。お話はどんどんと展開していくので、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです!!
ザーフィラ妃の母親は支配家系と呼ばれるハシーフ家の第一夫人になるのだが、
「弟子が描いていようがレオナルディの作品に変わりはないのよ!」
ロニアの耳を引っ張りながらカステヘルミの前まで移動をしてくると、
「田舎者の異国の娘が生意気なのよ!」
と、二人に向かって怒鳴りつけて来たのだが、
「大丈夫ですよ!間違いなくサインはレオナルディでしたから!」
ロニアが尚も続けようとするので、
「もうやめて〜!」
カステヘルミは慌ててロニアの口を塞いだのだった。
カステヘルミとしては同じ工房に勤めているのだから、それはもう工房の主人が描いたってことで良いじゃないかと思うのだ。
今回、翠玉の間には十枚の絵画が並べられることになったのだが、集まった貴婦人たちは家の威信をかけて絵画を用意したに違いない。
この十枚の絵画の中でロニアが認めたのは、老婦人が用意したランベルティーニの作品になるのだが、そこが妃殿下の母親には気に食わない。
「はあ〜、もうどうでもいい〜、絵画には関わりたくない〜」
昔の誰かが描いた作品をどうのこうのと論じ合う時間があるのだったら、鉄について語りたい。鉄の天才イザベルの補佐をし過ぎてすっかり鉄色に染まり上がってしまったカステヘルミが職人のおじさんたちのことを恋しく思っていると、
『お茶会の会場にご案内いたします』
と、宮女の一人がラハティ語で声をかけてきたのだ。
新興貴族を取りまとめるファティマ妃が国際的だという評判が立っているので、自分だって国際的なのだとザーフィラ妃は主張をしたいのだろうが、
『ちょっと気分が悪いので、絵画の鑑定も終わったことですし、もう帰ろうかと思うのですが?』
カステヘルミが宮女にラハティ語で訴えると、宮女は笑顔のまま反応をしない。
『もう帰ってもいいですか?』
『それではご案内いたします』
問答無用で案内をしようとする宮女の前でカステヘルミが大きなため息を吐く。
『いや、本当に凄いですよ。流石は名門家が集めた絵画、どれも逸品ばかりで、もう少し眺めていたいなあ〜』
耳を引っ張られたことなどまるで気にしていないロニアは、並べられた絵画の方が気になって仕方がないらしい。
『ロニア、貴女って』
『なんですか?カステヘルミ様?』
『メンタル強いわ〜』
カステヘルミは思わず感心した声を上げたのだった。
集められた絵画の中に偽物がなかったのは良かった。
もし偽物が混ざっていれば、
「これは贋作です!」
と、ロニアが何の忖度もせずに言い出すのは目に見えていたから、偽物が混ざっていなくて良かったのだが、
「それにしても本物だけ集めて、何故、あえてロニアに鑑定をさせたのかしら?」
そこのところがカステヘルミには分からない。
ファティマ妃に泣きつかれた皇帝陛下は偽物かもしれない絵画を真珠宮に集めてロニアに鑑定をさせたのだが、その大部分が贋作だったという話は聞いている。
ファティマ妃の懇意にする貴族たちは絵画が本物か偽物かも見抜くことが出来ないマヌケ揃いで、見る目がある自分たち名門家は本物しか手に入れないと主張したかっただけなのか?
自分たちは凄いのだと主張したいだけの集まりだったら何の問題もないのだが、皇位継承争いが今まさに起きている時だけに、
「とりあえず鑑定が終わって良かった〜!私、頑張りましたよね〜!」
ロニアはすっかり一仕事終えた様子で気が抜けているだけに、カステヘルミはますます気を抜くことは出来ないのだ。
蒼玉の間から大理石が敷き詰められた純白のサロンへと移動をしたカステヘルミとロニアは、ザーフィラ妃とその母親から一番離れた場所に座ろうとしていたところ、
「お二人はこちらの方にお座りになって」
と、先ほどの老夫人が声をかけてきたのだった。
「そのようなドレスでは座るのも大変でしょう?中のトリノリンが折れて足に突き刺さっても大変だわ」
罵倒されるのも覚悟の上でやって来たカステヘルミとロニアが老婦人の配慮に感動をしていると、
「今日は皇都で人気の菓子職人を招いて用意して貰ったの」
宮女たちがフードドームで覆われた銀盆を運び込んできた。
帝国式なので皆が床に車座となり、最上座にはザーフィラ妃と母親が並んで座っている。
中央に十のフードドームが並べられると、宮女たちが一斉にドーム状の蓋を外していく。真紅の薔薇の飴細工が現れ、色とりどりのケーキとチョコレート菓子を前にして貴婦人たちのため息がこぼれ落ちる。
帝国式のお茶会ではまず一杯目に珈琲が用意されるので、カステヘルミとロニアの前に置かれた器にも珈琲が注がれていく。
今の所、貴婦人たちは和気藹々と噂話に花を咲かせており・・
「ねえ、アクトゥム家の奥方の話を聞きました?」
「ええ、本当に驚いたのだけれど」
「まさかあんなことを企むなんてねえ!ヌールハーン様も外に追い出すことをせずに家に置いておくだなんて」
「なかなか出来ないことよ」
「あの方は慈悲深い方だから」
貴婦人たちはアクトゥム家のお家騒動が気になって仕方がないらしい。
「それにしてもダラールは何処に行ってしまったのかしら」
チョコレート菓子を摘んでいたザーフィラ妃がカステヘルミの方を見ながら、
「翡翠宮で行われた宴を最後に姿を消してしまったのだけれど、陛下から小離宮を与えられているカステヘルミ嬢は何かしらの話を聞いてはいないのかしら?」
と、問いかけてくる。
「いいえ、私は何も聞いてはおりません」
外国人であるカステヘルミやロニアがダラールに関わっているからこそ未だに行方不明のまま見つからないのではないのかと考えて、探りを入れているのだろうか?
それとも名門家が偽物を買うことなどないのだと周囲に喧伝したかっただけなのか?
「アブデル殿下も自分の婚約者が居なくなったのだもの」
そこでカステヘルミの隣に座る老婦人が言い出した。
「さぞや心配をされていることでしょう?陛下は殿下の婚約を解消する判断を下されましたから、妃殿下のご心痛お察し申し上げますわ」
次の皇帝になるかもしれない皇子にたった一人の婚約者もいない状態になったことを再確認するようなことを言い出したため、貴婦人たちは揃って興奮の声を上げ始めた。
「それでは新しい婚約者を見つけませんと!」
「私の姪がとても優秀な娘で!」
「私の娘が殿下とちょうど同じ歳で!」
「あなたのところは婚約者が決まっていたでしょう?」
「まさか!とんでもない!結婚をする相手など誰も決まっていませんわよ!」
「嘘おっしゃい!この前、貴女のところのご令嬢が港の近くで婚約者とデートしているのを見たわよ?」
「他人の空似ということもありますでしょう?そろそろ老眼で周りをきちんと見回すことも出来なくなっているのでは?」
「なんですって〜!」
お茶会に不穏な空気が流れ出す中、
「珈琲はもう結構」
ザーフィラ妃の母親が宮女を呼び止めて言い出した。
「客人が土産として持って来た紅茶があったでしょう?それを持って来てくれないかしら?」
アブデル殿下の婚約者を誰にするかということで話がヒートアップする中、最上座にティーポットが運ばれてくる。
「カステヘルミ様、貴女が好んで飲むのがマラニャ産のバニラビーンズ味の紅茶だと聞いてはいたのだけれど、お土産で持って来てくれたと聞いた時から飲んでみたいと思っていたのよ」
「えっと〜」
カステヘルミは紅茶など手土産にしていない。
飲食出来るものは何かしらイチャモンをつけられそうなので、東大陸から渡ってきた高級石鹸を手土産として渡しているのだが、
「私も飲んでみたいです!」
末席に座る夫人がニコニコ笑いながら言い出した。
「バニラビーンズ味だなんてとっても興味がありますもの!」
宮女は末席に座る夫人の前にティーカップとソーサーを差し出すと、夫人はチラリとカステヘルミを見ながらニタリと笑う。そうして一気に紅茶を呑み干すと、
「グフッ」
青紫色に顔色を変えて口の端から真っ赤な血が流れ出した。
「グフッ・・ゲホゲホゲホゲホ・・」
夫人はカステヘルミが用意したという紅茶に言いがかりや難癖をつけるつもりでいたのだろうが、声の代わりに真っ赤な血の泡が口から溢れ出すと、
「グァアアアア」
口をぱくぱくと開けた夫人は心底驚いたような様子で最上座を見ると、ばたりとその場に倒れ込んでしまったのだった。
貴婦人たちの噂話は今日も楽しい ③ が令和8年4月1日に発売となります!!現在掲載中のロニアとカステヘルミの五年後の物語が3巻のお話となりますので、合わせて読んでも面白い!!掲載中のお話もどんどんと展開していくので、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです!!
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