カステヘルミ様とロニア様は私の天使様 31
貴婦人たちの噂話は今日も楽しい ③ が令和8年4月1日に発売となります!!
御礼企画としてカステヘルミとロニアの帝国での物語を毎日掲載します。お話はどんどんと展開していくので、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです!!
複数の国家、複数の有力部族を支配下に置いている帝国を統治するのは皇帝陛下だ。
帝国の建国当初から支え続けてきた有力部族は、それぞれの文化を守り続けているため、尊き方が開く集まりに始めて参加をする場合は正装をすることで相手への敬意を示す必要がある。
そのため、カステヘルミとロニアは鯨髭と針金でスカートをドーム状に大きく膨らませた、フリンジや刺繍を施した豪華なドレスを着て第二妃のお茶会に参加をすることになったのだが、
「このドレスで帝国式のお茶会に参加が出来るものなのでしょうか?」
カステヘルミのドレスを借りているロニアが不安そうに声を上げた。
帝国では『誰もが大地に膝を突き、平等であることを表す』ため、ラハティ王国のようにテーブルと椅子を用意してお茶を飲むようなことはせず、豪華な絨毯を何枚も重ねた床に複数のクッションを利用しながら座るスタイルになるので、
「このクリノリンドレスで床に座ることが出来るのでしょうか?」
スカートをしきりに気にするロニアに対して、
「ギリいけるように調整をしてあるのよ」
と、カステヘルミは言い出した。
スカートの中はトリノリンと呼ばれる鳥籠のようなもので膨らませているのだが、
「ギリギリ床に座っても大丈夫なようにスカートを作っているから大丈夫」
カステヘルミはロニア見つめながら言い出した。
「それよりも私は貴女の方が心配なのよ」
子守唄代わりに画家のゴシップを聞きながら育ったロニアは、絵画を見るとその画家のゴシップが滲み出ているように見えると言うのだが、
「「「「どうしてそんなことが可能なのか分からない!」」」」
と、美術界の重鎮たちが言うほどで、どういう原理で偽物と本物を見抜いているのかが謎なのだ。
「そうは言ってもいつかは失敗するだろう」
女にだらしない画家が確かに多いかもしれないが、中には品行方正な画家だっているのだ。目の前に置いた絵画からゴシップが滲み出ているように見えると言うのなら、ゴシップとは無縁の画家の作品なら本領を発揮することが出来ないのではないだろうか?そう、誰もが考えていたのだが、
「あ・・これは偽物ですね!」
ゴシップとは無縁の画家の作品でもロニア・ルオッカは言い当てた。
彼女がどうやって本物と偽物を見抜いているのかは分からないが、とにかく彼女は当ててくる。しかも忖度なく、
「これは偽物です!」
と、言ってしまうため、メンツを丸潰れにされる貴族が増加中。
プライドが高い帝国貴族は、偽物と本物を見極めることが出来ずに贋作を購入したのだと指摘されるのが許せないのだ。
「ロニア、たとえ偽物を見つけたとしても、一旦、立ち止まって口を閉じてちょうだい」
「はーい!カステヘルミ様!」
「すぐに『これは贋作です!』と言い出すことだけはやめてちょうだい」
「はーい!カステヘルミ様!」
今代の皇帝は文芸復興を目指した文化運動に力を入れている。趣味や好みで美術品を収集する貴族も多いのだが、有名芸術家の作品をコレクションすることで社会的承認を得ようと考える人が多いのもまた事実なのだ。
「あ・・偽物です!」
と、うっかり指摘すれば、自分が贋作を購入するという失敗を犯したとは認めたくない貴婦人たちがどういった手で出てくるのかが読みづらい。
孫を心配したロニアの祖父は所有する絵画の中でも虎の子と言われる四百年前に活躍した有名画家アッバッティーニの作品『春雷』を第二妃へのプレゼントとして慌てて用意した。これには皇帝が手に入れられなかった名画をプレゼントするから孫のある程度の粗相はご容赦くださいという意味が込められているのだが、
「まあ・・」
美しく着飾った迫力ある美人の第二妃は、
「案の定、絵画をプレゼントしてくれたのね」
と言って、ロニアがプレゼントした絵画はすぐさま宮女が片付けてしまったのだった。
十号サイズのアッバッティーニの作品は世界に十点しかないと言われるものなので、客人として訪れた貴婦人たちにまずは自慢をすると思いきや、
「「・・・」」
一切、その場で鑑賞されることなく持って行かれてしまったので、アッバッティーニの説明をする気満々だったロニアの気勢は早速削がれる形になったものの、
「ロニア・ルオッカ、貴女は真珠宮で絵画の鑑定をしていたのでしょう?」
裾の長い豪奢なレヘンガ(スカート)を三人の宮女に整えさせながら、
「まずは私の客人たちが持ち寄った絵画を鑑定して欲しいのだけれど、出来るかしら?」
と、ザーフィラ妃がロニアに問いかける。
「鑑定できます!」
どうしてそこまで自信を持って答えられるのか、カステヘルミにはちっとも分からない。ロニアは鼻息を荒くしながら絵画が用意された翠玉の間と呼ばれる見事なタイル細工が施された部屋に案内されたのだが、彼女の顔に不安の色は見られない。
今回、ロニアの鑑定力に皇帝陛下が目をつけたことになり、美術界の重鎮たちは大きな焦りを感じているだろう。自分たちよりもまず先に、
「ロニア・ルオッカに鑑定を行わせることにする」
などと言われるようになったら、完全に面子が潰されることになるからだ。
今回、ロニアに絵画を鑑定させることによって、何かを仕掛けようと考えているのか?それとも、所有する絵画が贋作かもしれないと不安がる貴婦人たちの心を軽くしたいと考えただけなのか?
画架に置かれた十枚の絵画が並べられている。
翠玉の間で待ちかまえていた貴婦人たちは皆、家名を背負ってここに立っていると言えるだろう。
「はあ〜、本当に大丈夫なのかしら〜」
この中に贋作があれば、ロニアはその場でこれが贋作だと言い出すだろう。
そうしたら貴婦人たちはロニアのことを嘘つきだと騒ぎ出し、第二妃は自分に対する不敬だと断じて牢屋に放り込むということも十分にあり得るのだ。
「ロニア、お願いよお〜」
カステヘルミは絵画を見て回るロニアの背中を祈るような思いで見つめていた。
猪突猛進になったら周りが見えなくなるけれど、
「今だけは周りをきちんと見てちょうだい〜」
胸の前で指を組み、祈る思いでロニアの背中を追い続けていたカステヘルミは、いつの間にか息を止めていたようで、
「この中には偽物はありません!」
ロニアが笑顔で答えた時には、思いっきり息を吸い込み、吐き出した。
「流石は名門と呼ばれる方々のコレクションですね!ランベルティーニの初期の作品にここで出会えるとは思いもしませんでした!」
ロニアは並べられた絵画の中で一番サイズが小さい絵画の前で興奮の声を上げていたのだが、
「それはそうでしょね」
一番、年を召した貴婦人が扇子を扇ぎながら、
「世界に五枚しかない名画と言われているものだもの、皇帝陛下すら手に入れることが出来ない逸品よ!」
鼻高々の様子で言い出した。
「まあ!流石は見る目がない田舎娘だわね!」
ザーフィラ妃に並ぶほど豪奢に着飾った夫人が、ロニアの耳をグイッと掴むと言い出した。
「私が持って来たレオナルディの作品の良さに気が付かないだなんて!知識不足にも程があるのではなくて?」
「えーっと、その絵画はほとんど弟子が描いているようなものなんです。レオナルディは自分の工房を持っていたのですが、後半、多忙過ぎて絵画は弟子に任せることが多かったんです!」
やめて〜!と、カステヘルミは心の中で叫んでいた。
ロニアの耳を引っ張っているのはザーフィラ妃の母に違いないのだ。
「サインは本物のレオナルディですし、この絵画に関わったカザーレ、チェーザリの二人は後に工房から独立して大成しているので何の問題もないんです!ただ、ただ、サインは間違いなくレオナルディのもので!」
もう、やめて〜!と、カステヘルミが心の中で叫んでいると、翠玉の間に扇子を折りたたむパチリッという音が響き渡った。
「絵画が全て本物だということが分かって本当に良かったわ!」
ザーフィラ妃はそう言ってにこりと笑うと言い出した。
「私、喉が渇いてしまったのだけれど、皆様はどうかしら?」
すると賛同するように貴婦人たちが騒ぎ出す。
「確かに喉が渇きましたわね」
「今日は乾燥をしていますもの」
「妃殿下が用意されるお菓子はいつでも最高級の物ですものね」
「とっても楽しみだわ〜」
絵画の鑑定が終わっても、カステヘルミは生きた心地がしなかった。
次はお茶会、ロニアのことを考えるとカステヘルミはちっとも気が抜けないのだ。
貴婦人たちの噂話は今日も楽しい ③ が令和8年4月1日に発売となります!!現在掲載中のロニアとカステヘルミの五年後の物語が3巻のお話となりますので、合わせて読んでも面白い!!掲載中のお話もどんどんと展開していくので、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです!!
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