第4話 奴隷
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ものすごく嬉しかったです!
あと、本日2話目ですので、注意してください!
弓を持っていた生き物の首が宙を舞っているのを見て呆然としたが、生き物の首が落下して少しすると、現在の状況を理解した。
謎の人型の生き物が倒されたのだ。
張っていた糸が緩むように僕は気を緩めた。
だが、
「そこの君、大丈夫か?」
急に知らない男に声をかけられたことで、再び緊張した。
「ん? ゴブリンは討伐されたのだから、気を張ることはないぞ?」
男は不思議そうに言葉を発する。
僕はある言葉が気になった。
「ごぶ……り……ん?」
「ん? まさか……、君はゴブリンを知らないのか?!」
「っ!」
男は知らない言葉を聞いたような僕の反応を見て、驚いて大きな声を出す。
屋敷で怒鳴られてばかりだった僕は、大きな声に反応してビクッと身体を震わし、身体が硬直してしまう。
怒鳴られたあとは、決まって殴られたからだ。
そんな僕の反応を見て、男は怪訝な表情をする。
「どうした?」
「いえ……、何でもないです。それよりゴブリンというのは?」
僕は自分のことを探られたくないが為に、“ゴブリン”というものについて聞いた。
ゴブリンというのは余程有名な生き物のようで、僕の質問に男は驚きを越え呆れたような表情をする。
「本当に知らなかったのか……。ゴブリンというのは成人男性の腰ほどの背丈で濃い緑の魔物だ」
「ま、魔物?! さっきのが?!」
「ああ、魔物だ」
男は俺の様子を気にした風もなく、言葉を続ける。
「ゴブリンは1番有名な魔物だと思うんだがなぁ」
「そうなんですか?」
「ああ、そうだ。1番有名だ。有名であるのとゴブリンの習性のせいで魔物の中で1番の嫌われものだ」
「嫌われもの……」
嫌われものという言葉につい反応してしまう僕。
なぜ反応してしまったのかは分からない。
別に僕は奴隷だが、嫌われていたわけではないのだから。
ただ、その嫌われるというレベルにさえ到達していなかった、と感じてしまったのだ。
僕は、所有者を楽しませるおもちゃだったから。
すぐに暗い気持ちになる自分になる僕自身に少しうんざりしつつ、ゴブリンの嫌われる理由を聞いてみた。
「なぜ、ゴブリンが1番嫌われていると分かるんですか?」
「そりゃ、人族の女性を捕まえて子どもを産ませるからさ。まぁ、ゴブリンが醜悪な顔をしているからっていうのもあるな。まぁ、私は他にも嫌っている点があるが」
「そうなんですか……」
何となくは分かるが、僕には納得ができなかった。
子どもを産むのは、自分の同族を残すうえで重要なことだと思うからだ。
同族を、種を残そうと行動するのは間違っているのだろうか、と僕は疑問に思ってしまった。
その疑問が顔に出ていたのか、男が聞いてくる。
「嫌われる理由に納得できなかったのか?」
「え……、えぇ、まあ」
「おそらくだが、君は、“種を存続させるのは当たり前のことだ”と思ったのではないか?」
「そうですね……。そうです、僕はそのことだけでは1番というには理由が弱い気がしたんです」
「そうか。君は少し他人と考えがずれているかもしれないな。だが、私も最初にゴブリンの存在について知ったとき、同じことを思ったよ。同じような説明でゴブリンという存在そのものの醜さを語られたときはね……。だが、直接対峙した君なら嫌われるわけがわかるはずだ」
「それは……、わかりません」
「なぜだ、と問いたいが……、君のその姿を見れば、どのような立場であったか分かる。そして、どのような扱いであったかも……。だが、いまは聞かずにいよう」
「ありがとうございます」
男はどのような表情をしているのだろう。
誰にも興味の持てない僕には、見えていたとしても男の表情の意味が分からないだろう。
そんな俺の心の内など分からない男は言葉を続ける。
「ゴブリンが嫌われているのはな、人を、獲物を意味なく痛めつけるからだよ。醜悪な顔をさらに歪め、獲物を意味もなく痛めつけるさまは見ていて不快になる。それも生きたまま痛めつけて、獲物が痛みに叫ぶ様子に喜びを覚える……。そんな魔物だよ、ゴブリンは」
なるほど、と僕は思った。
まるで僕の豚主人のようだ、と思った。
さぞ、醜悪なのだろうなと簡単に想像できる。
重たい雰囲気が流れる中、男の雰囲気が急に変わる。
「あぁ! すまない! 君のケガの手当てをしていなかった!」
どうやら僕の傷のことを思い出したらしい。
だが、よく知りもしない相手の言葉など信じられない。
だから、僕は断ることにした。
「い、いえ、これぐらい平気ですから……」
「平気なものか! 太ももを貫通してしまっていたじゃないか!」
むぅ、なかなかにしつこいな……。
そもそもどうやって治療するのか……。
一般的に太ももは腕より太いから、出血量も多いのに。
「でも、治療する手立てが……」
「それもそうだが……。では、私が街に連れていくから治療を受けよう」
「そんな……。僕には支払える対価がないです……」
「そんなもの私が出す!」
この男は、どうしてここまで食い下がるのか。
ええい、仕方ない。この男について行くしかないか、と決めた。
だが、念のために念押ししておくか……。
「いいのでしょうか…」
「いいに決まっているだろう!」
ここまで言うなら、ついて行くか…
でも、僕は元奴隷だ。
来ている物や僕のガリガリの身体を見れば、一瞬でばれる。
この男はそのことを考えているのだろうか。
「ですが、僕はこのような身ですので……。あなたにお返しができません」
僕の言葉に少し考えていたのか、男は僕を見て、言った。
「そうか……。なら、私と来るか?」
「あなたとですか?」
「そうだ。奴隷は拾われた者の所有物になる決まりだからな。私の証言次第で君はもう私のものになる」
「そん、な……」
その言葉に僕は絶望した。
奴隷の僕が何処かの街に入るのはどうすればいいのか、というのを考えなかったわけではない……。
ただ、後回しにしていた。
ようやく自由の身になれたという事実が僕の思考を阻害していた。
なんて甘い見通しをしているというのか、僕は。
そして僕は逃げようか、と考えていた。
そんな時に男は、僕の反応を見ても言葉を続けた。
「罪を犯して奴隷になった者は別だが、それ以外の奴隷なら主人が出す条件を達成すれば、解放できる決まりになっているのだが……。君の反応だと知らなかったようだね」
男は、優しそうな雰囲気を出しながら言った。
僕は驚いた。
奴隷の身から解放されるなど知らなかったのだから。
さらに、男は続ける。
「もし、私が条件を出すならば……。そうだな……、君が上級の冒険者になり、上級向けの依頼を1つ達成すること。そして、君が条件を達成するまでの収入は全て渡すこと。の2つにしようと思うんだが、どうだい? 才能と運がなければ、上級冒険者など到底なれはせず奴隷のままだが、上級にさえなれば自由の身だよ?」
もし僕自身に力がなければ、一生この男の奴隷だということは分かった。
でも、僕はこの男について行くしか街に入ることが出来ないこともわかっていた。
だから、僕は頷くしかなかった。
「そうか。ならついて来なさい。私が君を一人前の冒険者にしてみせよう」
「え?」
僕は驚いてしまった。
男の奴隷になるのだから、君などと呼ばれるとは思っていなかったからだ。
それにもっと罵られると思っていた。
丁寧な言葉など貰えないと思っていた。
男は不思議そうに言葉を続ける。
「なにか驚くことでもあったかな? とりあえず君の生きるための資金などは私が保障する。冒険者としてのノウハウも教えよう。君が一人で生きられるように」
僕は思わず男の顔を見た。
男の言葉にこれまで感じたことのない優しさを感じたからだ。
そのとき、僕は初めて他人を認識した。
男は大きかった。
僕の頭1つ分高い背丈に、僕とは比較にならないほどの逞しい身体。
腕でさえ僕の太もも以上に太く、筋肉がつまっている。
僕は男から絶大な安心感を得た。
体躯の逞しさから物理的にも守られている気分になるが、それ以上に表情が優しかった。
哀れみも侮蔑も感じない優しい瞳、僕を安心させるためか緩く弧を描く口もと。
身体の大きさも相まって怖く見える顔だが、僕には優しい印象しか与えなかった。
だから、僕は素直に懇願しようと思った。
他人の傷にしつこい程に心配してくれるこの優しい男に、僕の人生を賭けてみよう。
これでどうしようもない人だったら、僕自身が人を見る目がなかったのだと諦めよう。
その覚悟のままに、僕は一言言った。
「よろしくお願いします、ご主人さま」




