プロローグ 主人公視点
今、僕の意識は朦朧としている。
これまでの無茶が祟ったのだろうか。
身体が熱い。
息が苦しい。
目に映る全てがぼやけている。
何故だろう……。
昔の出来事やそのとき感じた感情を振り返るように夢をみる。
もう死ぬのだろう……。
その夢を見ることを抵抗せずに受け入れる。
僕は、偉い貴族さまの奴隷だった。
どれくらい偉いのかは、分からない。
物心がつき、意識がはっきりとした頃には、奴隷仲間のいる小屋にいた。
5歳ぐらいまでは、同じ奴隷の人たちの中で育てられたようだ。
その頃に、僕は外を見たくて奴隷仲間に内緒で小屋から出た。
そして、偶然にもご主人さまである貴族様に僕の存在が知られた。
誰が僕の存在なんかをご主人さまの耳に入れたのか分からない。
ご主人さまの性格を鑑みると、僕の存在を知ったときは、余程醜い表情をしていただろうと想像できる。
そして、ご主人さまの元へ連れていかれた。
そのとき、僕は言ってしまった。
「この太ってるおじさん、誰?」
と。
そのあとは、ご主人さまに殴られ蹴られた。
最初は凄く痛くて泣き叫んでいた。
それでも容赦なく殴られ、いつの間にか声も出なくなり、痛みも感じなくなった。
その後に意識がなくなり、気付いた時には奴隷仲間がいるところにいた。
それからの日々は、地獄だった。
八歳ごろまで、ご主人さまがイラついたときのストレスを発散するおもちゃのように扱われた。
ある時は、殴られ。ある時は、蹴られ。ある時は剣で刺された。
最終的には気絶して、奴隷仲間の住む場所に連れていかれ、回復を待つ。
傷がふさがり、体力が回復したら、ご主人さまのおもちゃにされる。
そんな生活が続いた。
十歳を過ぎたころには、水汲みなどの雑用をこなすようになった。
奴隷の仲間は、僕以外に4人ほどいた。
女2人、男2人だ。
男たちは水を汲んだり、風呂を沸かしたり、ご主人さまの馬たちの世話をする。
そして、たまにご主人さまやその部下におもちゃにされる。
女2人は一日ごとに交代で、夜にご主人さまの部屋に呼ばれていた。
彼女たちは、性奴隷というモノらしい。
他にも空いている時間には、掃除や洗濯などをしているようだ。
男の奴隷の中で、ご主人さまのお気に入りは僕のようだ。
他の男たちよりも頻繁に呼び出される。
泣き叫ぶ声や表情が良いらしい。
ただ十歳にもなると、殴る蹴るで泣き叫ぶことはなかった。
そこで、ようやく僕は魔法というものを知った。
ご主人さまが魔法を使ったからだ。
奴隷のみんなも魔法を使っていたようだが、ご主人さまの命令で僕には、意図的に知られないようにしていたらしい。
なぜ魔法を隠していたのか分からなかった。
僕は、魔法の存在に目を輝かせ、すぐにその目の輝きを失った。
僕が魔法を使えるというわけではないのだから当然だ。
それに魔法はご主人さまが僕たち奴隷で遊ぶために使うモノなのだ。
僕のようなものが使えるはずがない。
初めて見た魔法は、ご主人さまの前に突き出した手の前に出来た火の玉。いわゆるファイアーボールだ。
これまでに殴られてきた衝撃よりも強い衝撃が僕を襲った。
そして、これまで感じたことのない熱さを未だに覚えている。
何の熱さだったかは、分からない。
「魔法を覚えてやる」という熱意の熱さだったのか、皮膚の感じる直接的な熱さだったか。
それも今では、どうでもいい代物だ。
何故なら、15歳になった僕は、こうやって今までの記憶を抵抗できずに夢として見ているのだから。
結局、僕は魔法を覚えられなかったし、ご主人さまの暴力がなくなることはなかった。
こんなゴミクズみたいな人生認めたくない…
せっかく生きているんだ。
どれだけ惨めで、辛くて、情けないと感じることがあっても俺は生きているんだ。
死にたくない。
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
こんなにも死にたくないと感じたことがあっただろうか。
ご主人さまに遊ばれているときは、どれだけ逃げたいと、死にたいと思ったか。
それでも、今の僕は死にたくないという気持ち一色。
意識もはっきりしてないというのに生にしがみつこうとするなんて、なんて自分は醜いのかな。
そして、本当の限界が来た。
僕は、ゆっくりと目を閉じていく。
どんな意味があったのか自分には分からないが、自然と涙がこぼれた。
ぼんやりとしていた視界が暗くなった。
そして、僕は意識を手放した。




