天才ギャルは問題児
初配信から2日後、この日は真那華の登校日だった。
ダンジョンから解放されてからは初の登校となる。
学校名は杜乃宮学園、学科は潜行科、学年は二年生の編入になるが、真那華は東大を余裕で卒業できるだけの学力がある。
それでも、学園に通うのは潜行科にはダンジョン探索の実習と訓練があるからである。
最初のうちは期待に胸を膨らませてはいたが、配信でのあまりのレベルの低さにその期待は消え失せ、学園生活を楽しむ事にした。
彼女は杜乃宮学園潜行科二年B組学級委員長兼風紀委員会副委員長兼生徒会会計補佐、東城寺聖蘭は清廉潔白、品行方正の真面目が服を着て歩いてると言われる少女である。
「また、貴女達は校則違反の物を持ち込んで。化粧品とその香水は没収よ」
「ウッザ」
「私ら取り締まるならアソコの男子も取り締まりなよ」
女子生徒の二人は動画を見て盛り上がっている男子達に指をさす。
「はぁ、いいから没収ね」
「・・・・・・チッ」
「だから、ここは見つかるって言ったんだ」
聖蘭は化粧品等を没収すると動画で盛り上がってる男子生徒に注意しに行く。
「学校内での動画視聴、配信は禁止されてるはずよ。今すぐやめないなら端末を没収するけどいい?」
「分かった、分かったから没収は勘弁してくれ」
「チッ、良いところだったのによ」
「学園で一番うるせー奴に見つかっちまったな」
動画を見ていた男子生徒は蜘蛛の子を散らすようにその場から去って行った。
「そういえば、あの話聞いたか?」
「あの話と言われても分からんが」
「スキル研究局が今晩、例の事で記者会見をするらしい」
「まぁ、やってる事が国民全員騙してた訳だからな。でも、それ本当なのか? デマじゃなくて」
「むしろ、おかしかった事の全てがあの配信の後から出て来た数多の有志による検証動画で証明されてしまったんだ」
「スキル研究局って、国から多額の補助金受け取ってなかったか?」
「ああ、スキルの研究をする事によって、人間の新たな可能性を見出しダンジョン災害への対策が出来る事を名目に受け取ってたらしいが、設立47年で結果が出てない所を見ると」
「俺達の目から見れば結果は出てないが、身内同士では結果が出ているらしいぞ」
スキル研究局はいくつか研究成果を出してはいるが、真偽がはっきりしないような内容で、スキルの強弱は一種の個性で才能の差で決まると言っていたが、それは真那華の配信によって否定されてしまったのだ。
その他にも色々な論文があるがそのほとんどを真那華が否定していった事で、真那華が否定しなかった論文を検証する者が多く現れ、それが全くの根拠がない事が証明され、スキル研究局の評価が下がり何故か検証をしてない真那華が再評価されている。
「まぁ、たぶん否定してる奴はいたんだろうが握り潰されたんだろうな」
「その可能性はありそうだな。スキル研究局なんて利権の温床だろうし」
二人の会話は聖蘭にとっては耳の痛い話だった。
何故なら東城寺は四大家と呼ばれ、東城寺、西宮院、南場、北条の四家のうちの一つであり、スキル研究局に東城寺家は多額の研究投資をしているからである。
聖蘭は元々、東城寺とは縁遠い分家の中でも端の方の分家で本家との関わりは全くと言っていいほどないが、固有スキル【錬成鍛治】という謎のスキルの発現により、本家に迎え入れられたが、末家である聖蘭の立場はとても弱い。
スキル研究局の総力をあげて【錬成鍛治】を調査したが、いまだにその全容は把握しきれておらず、鍛冶というところから装備品を生み出せる能力だというのは分かっているが、鍛冶を試しにやらせてみても失敗ばかりで何の変化もなく珍しいというだけで役に立たないスキルという事で更に本家からの立場が悪くなり学園の寮に住んでいる。
「貴方達、言葉を慎みなさい。スキル研究の大権威が、子供の戯言を鵜呑みにすると思うの?」
「うわ、出たよ。東城寺ってスキル研究局に多額の研究費を出していたな。この期に及んで庇い立てするなんて買収でもされたか?」
「されてないから!本家もきっと今回の件で混乱してるに決まってるわ。だから、予測だけでいい加減な事を言うのはやめて!」
聖蘭は東城寺家にとっても今回の件はいい加減な研究なので自業自得だと思ってるが東城寺家の立場上そんな事口が裂けても言えないのだ。
朝礼のチャイムが鳴ると生徒達は各教室に戻っていく。
「噂だが、このクラスに編入生が来るらしい」
「編入生!?この時期にか?」
「この学園の編入試験は難しいと聞いた事がある」
「先公達が話していたのを聞いたんだが管理局からの紹介だから編入試験は免除されてるらしい」
「はぁ!?管理局ご指名って事は相当のエリートじゃないか」
「誰だか知らんが、ここは実力社会なんだがな」
「そりゃ、そうだ。エリートだか誰だかしらねーが入ったからにはこの学園のルールを教えないとな」
教室は不穏な雰囲気に包まれる中、担任と一緒に小柄な少女がやって来る。
「え!?」
「ちょっ!!」
「ウキッ!!」
大半の生徒はその少女を見て驚いた。
何故なら、この少女は自分達と同世代とは思えない程幼い見た目をしているからである。
「ウチの名前は宗像真那華、配信では天才魔法剣士マナだよ。よっろしくねぇ」
「ほ、本物だ」
「まさか、同年齢だったなんて」
「クソッ、こんな事なら色紙買っとくんだった」
「サイン貰う気かよ」
「『グラフェンナーワル』と戦う配信見たぞ」
真那華の存在で教室内が騒めきだす。
「静かにな。宗像はこう見えてC級『潜行者』の資格を持っているが、実力だけならS級相当だ。一応本人に釘は刺してるが実力を試すような真似はするなよ」
担任の池口要がクラスメイトに注意する。
(釘を刺して大人しくなるようなタマか?)
(それで大人しくなるならスキル研に喧嘩売ってねーよ)
(この担任マナ様のこと分かってないウキー)
当然、配信を知ってる生徒は真那華がそんな簡単に大人しくするとは思ってない。
そして、中には心まで猿になりつつある者も現れていた。
「宗像、そこにある机がお前の席だ。席に着いたら出席を取るから早くしろよ」
宗像は窓側の席に座る聖蘭の隣の席に腰掛けた。
「これからよろしくぅ⭐︎」
「よろしくお願いします」
聖蘭は淡々と真那華の挨拶に答える。
一限目は数学で真那華は15分くらい授業を聞いていたが、既に知ってる内容の為飽きて寝てしまっていた。
隣に座る聖蘭は真那華の肩を叩いて起こす。
「うん?」
「授業中に居眠りしない!」
「あー、ウチって天才だから既に知ってて飽きちゃったんだよね」
「だからと言って寝ないで!他の生徒に良くないでしょ」
「そうはいってもねぇ。睡眠欲には勝てないよ。あーダンジョン行きたいよぅ」
真那華の頭には授業の事よりダンジョンを攻略する事しかない。
それでも、聖蘭は真那華に注意する。
「流石に委員長でもアレは荷が重いだろ」
「実際、何回か先公に指名された時は完璧に答えてたからな。本当に天才なのかもしれん」
「まぁ、頭も良くて『潜行者』としても優秀なのは認めるけど性格が終わってるからな」
「ある意味良いコンビなのかもしれない」
「次の授業は訓練か、不安しかない」
「同じく」
次の授業は潜行者訓練だが、一部の生徒は一抹の不安を感じた。
訓練の内容は徒手の組み手だった。
真那華は訓練の様子を見ながら欠伸をしている。
「うーん、ウチは【武術】のスキルあるから良いけどない人にとっては意味ない訓練だよねぇ」
「でも、やらないよりはいいでしょ!」
ここでまたしても聖蘭は真那華に突っかかる。
「ダンジョンや怪物、スキルの事を何も分かってない連中がやったらこうなるのも無理ないかー、生徒達が時間の無駄で可哀想ー、ダンジョン潜った方が絶対訓練になるよ」
ここぞとばかりに真那華は煽る。
「真那華さん!いい加減にして!」
聖蘭は流石に怒鳴らざるを得なかった。
「ふーん、その台詞はダンジョンに片足突っ込んだ後に言うべきじゃない?」
「!!」
聖蘭を含む大半の生徒はダンジョンに潜った事がなく、訓練で十分だと考えている。
逆にダンジョンに入れる極少数は学園の訓練には懐疑的であった。
「なんで、分かるかって?分かるよ雰囲気でね。グラムジャムンよりも甘いんだよね。聖蘭ちゃんのダンジョンに対する認識がさ。いくら簡単なダンジョンでも死ぬ時は死ぬよ人間なんて、死なないようにする為にスキルを鍛えて生存率を上げようとするのに元からないスキルを鍛えても上がる生存率は雀の涙程度なのどうして分からないかなぁ。実際に怪物と対峙した事無いから分からないんだろうね」
真那華は聖蘭をはじめダンジョンに潜った事のない者に現実を突きつける。
「一度でも立ち会った事のある人間ならお猿さんでもない限り分かるはずなんだけどなぁ。こんな訓練無駄だってさ」
「真那華さん!せ、先生からも何か言って下さい!」
このやり取りの間に、「また、猿煽りしてるな」、「むしろ、ご褒美まであるな」、「逆に猿好きだろ。チャンネルのアイコン猿だし」、「委員長痛いとこ突かれてるな」、「ダッサ、最後は先公頼りかよ」と生徒達が話している。
「・・・・・・あのな宗像、言いたい事は分かる。でもな、そういう授業内容になってるんだ」
「ふーん、そういう事なら仕方ないよね。それじゃあ一番効率のいい訓練をすれば良いよね」
真那華は腕のストレッチをしながら答える。
「【武術】のスキル持ちは全員ウチが相手するね。ウチが面倒見てあげる♡」
「そんな勝手な・・・・・・」
当然、聖蘭は突っかかる。
「分かった。だが、ちゃんと加減しろよ」
「ハーイ♡」
聖蘭の反対も虚しく真那華による【武術】スキルの訓練もとい特訓が始まった。
そして残った生徒はそれぞれ二人一組を作り訓練を開始する。
(なんで、先生まで宗像さんの肩を持つの?どう考えても我儘じゃない)
聖蘭は学級委員長として真那華の好き勝手を容認するわけにはいかなかった。
それ以上にダンジョンに潜った事がない事が聖蘭にとってはかなりのコンプレックスなのだ、そこを突かれて大人しくしていられるはずがない。
潜行者資格の試験は十五歳以上から受けられる。
基本的に求められるのは戦闘技能と判断能力を総合した実力を見て合否が決定される。
真那華や承のような例外は除き潜行者試験は年に二回あり、聖蘭は今まで受けてきて全て不合格だったのである。
その理由は簡単で、試験官が毎回東城寺家の息のかかった者なのだ。
東城寺家は当主とその妻、兄が二人と姉が一人いる、兄二人が後継争いをしており、どちらが先に多くの実績を出すか争っている。
その為、妹二人には余計な事をさせぬように次男が試験官を買収し、長男が妹達を利用しないようにしているのだ。
聖蘭にとっては他人事ではなく、どちらが後継に就くと同時に聖蘭は実家という檻に閉じ込められるのは確定している。
特に次男は稀少なスキルは遺伝するという根拠も何もない迷信を信じ込んでおり、聖蘭ではなく聖蘭から産まれてくる子供に期待しているのだ。
そうすると、遠い親戚で血縁関係が薄い自分は後継者となったどちらかと結婚する事は必然である。
よく分からない稀少スキルは当てに出来ない、だからこそ己の価値を聖蘭は示す為に潜行者資格は必要なのだ。




