兄の日常1
宗像承は真那華を見送ると就職の面接に出かける。
面接の場所は管理局雑務課、主な仕事は管理局の雑務で施設の清掃、荷物の受け取り、人員補給、基本的に管理局の局員がやらないもしくは控える作業を行う為、仕事自体は一日では片付けられない量ある。
その為、最低限のノルマがあり、それさえ果たしてしまえば、仕事は自分の好きなタイミングで出来るのでわりかし自由である。
管理局雑務課に求められるのは臨機応変にこなせる作業スキルである。
北条は旧知の仲である南場穣治に承を紹介し南場が了承を出したので面接となった。
「昨日はいきなり電話してすいません」
「いや、ちょうどいいタイミングだった。でも、本当に良かったのか?管理局の雑務課なんて割の合わない仕事で」
北条は彩海との会話で部屋を出た時に来た電話だったのでタイミングが良かった。
「南場は元々、スキル研究局にいたんだが色々揉めて最終的に左遷されてここに来た」
南場穣治はスキル研究局の元専務で、スキル研究局が研究費の横流しや賄賂、研究成果のでっち上げ等数えきれない不正を正そうとしたが、それを揉み消され逆に名誉毀損で言われのない罪を被せられ賠償金のあげく左遷され雑務課にいる。
「あの男は研究局で唯一、研究局が出すスキル研究の成果に疑問を抱いていた。そして、あの男は唯一スキルが成長することに気付いたが、誰にも相手にされなかった。当時俺も半信半疑だったが承達の話しで確信に変わった。南場は正しかったとな」
南場は独自の方法でスキルが成長する可能性を見つけたがスキル研究局が、その情報は何の根拠もないデマであると拡散し、広まる前に潰したのだった。
「だから、北条さんは俺に会わせたい奴がいるなんて言ったんだな」
「奴もお前の話しをしたら興味を持ってくれてな。今も独自の方法でスキル研究を続けている。もし何か困ったら奴を頼れ、おそらくお前ら兄妹にとって一番信頼できる男だ」
北条は四大家を信頼していない、特に西宮院は『魔鉱洞窟』というダンジョンを独占し、稀少な魔鉱を使い自分のギルドに還元している。
東城寺は政治に大きく関わっており、少なくともその影響力は西宮院に並ぶ。
その中で、南場は過去程の力や勢いは既になくなっており、南場穣治は当主だが本人のやる気はない。
その理由が、年に一回ある四大家の会談に出席するのが面倒なので、取り潰すなら取り潰して欲しいとすら思ってる。
というより推し活で忙しいのである。
南場はそんな四大家の中でも異端と言われているのと同時に独自のパイプを持っている。
北条をもってしても未だに謎の多い人物である。
「どうしてそう言い切れる?」
「正直言って、真那華の嬢ちゃんはやり過ぎだ。四大家が本気になったらいくら嬢ちゃんが強いといっても簡単に潰される。だからこそ後ろ盾があれば心強いと思ってな」
北条としてもこの兄妹には大人しく暮らして欲しいところだが、兄はともかく妹には止まる為のブレーキが存在しない為、何かしらの後ろ盾が必要だと感じたのだ。
「アンタはダメなのか?」
「俺は北条と縁は切れてるから、何かあった時に力にはなれない。まぁ、そもそもあのろくでなしに助けを求める気は最初からない」
北条家は主に潜行者の教育機関に力を入れているところで、スキルを伸ばす事より昔馴染みの根性論が優先されており、それが嫌で北条誠一は北条家との縁を切ったのだ。
「まぁ、信頼出来るかどうかは会えば分かる」
管理局雑務課は管理局敷地内の外れにあり、地下が休憩室とシャワールームになっている。
「・・・・・・やっぱり【四属性魔術】が産廃だという俺の理論は正しかったか。実際、スキル自体のパラメータと属性ごとのパラメータは有る前提で論文書いたら、アイツら使える魔法の強さには個人差があると言って聞きやしねぇ。まったく、とんでもねぇのが出て来たな」
ボサボサの白髪混じりの髪をかき分けながら、南場は真那華の切り抜き動画を見ながら過去に書いた論文と見比べていた。
「ジョージ課長、北条様がお見えになりました」
雑務課の職員が南場に北条と承が来た事を告げる。
「ようやく来たか、待ち侘びてたところだ。接客室へ案内してくれ」
「かしこまりました」
雑務課の職員は承達を接客室へ案内する。
承達はしばらく待つと管理局の制服をかなり着崩しただらしない格好の中年男性が入って来た。
「悪い、悪い、探しものしてたら遅くなっちまった」
南場は埃まみれのファイルと書類を持って来ていた。
「よう、南場こいつが例の」
「ああ、見ただけで分かる。一体どこで見つけたこんな化物」
南場は一目見ただけで承がただ者ではない事を感じる。
「ああ、悪い。俺は南場穣治部下や同僚からはジョージと呼ばれてる。俺の【感知】は魔力と属性による偏りが分かる。はっきり言って俺の【感知】は戦闘向きじゃなくて研究よりだからな」
南場は【感知】を使用して承の力を測った。
「俺は宗像承、もしも何かあったらアンタを頼れと北条さんに言われた」
「どちらかというとあの嬢ちゃんがだろう?」
「それを言われると耳が痛い」
「まぁ、とりあえず、これに目を通してくれないか?」
「これは?」
承の目の前に昔南場が書いたがスキル研究局に突き返された論文があった。
「俺がスキル研究局にいたころの論文だ。ろくに評価もされなかったが、お前さんの客観的な感想を聞きたい」
承は全ての論文に目を通すといくつか自分でも分からないヶ所が何ヶ所か出て来たがだいたい理解出来た。
「一つお伺いしたいんだが、あんたどこまで知っている?」
「それを言うって事はおおかた当たりなんだろう?」
「正直、驚いた。いくつか俺達も検証してなくて分からないとこがあったが、おおかた俺達が検証した奴は検証方法こそ違うが、ほぼ同じ結果が出てる。特に【四属性魔術】については完璧だった」
承が論文を読んだ感想は正にダンジョンに囚われていた際の検証実験とほぼ同じ結果だった。
「どこまで知ってると言ったな。おそらく、お前さん達の知らない事も有るかもしれない」
「確かにな。でも一番目を引かれたのはこの後天的にスキルを増やせるかって奴だな」
「あー、それね。スキル研究局が今も躍起になって取り組んでる研究だけど、出来てたら今頃その話題で持ちきりだっただろうな」
「一つ心当たりが有る」
「ほう、それは一体どういうものだ?」
承は真那華が持つ【技能研究】というスキルを話そうとしたが真那華の許可なしに話せる事ではないのでそれとは別に心当たりがある事を話す。
「これはここだけの秘密にしといて欲しい。この件は真那華も知り得ない所だからな」
承は虚空から古びた羊皮紙を取り出した。
「・・・・・・ちょっと待て。見ただけでヤバい代物だと分かるぞ。これどこで手に入れた?」
南場は冷や汗を流しながらその羊皮紙を見ている。
「これは俺達がダンジョンに囚われていた時に俺が偶々見つけたお宝だ」
正確にはダンジョンの怪物が落としたものであるがお宝に代わりない。
「あぁ、その件は北条から聞いてる。まぁ、俺みたいな変わり者じゃなけりゃ誰も信じなかっただろう。その力は人の身では到底辿り着けない力だからな。それがより確信に変わったよ」
「おそらく、その羊皮紙は使える者が使えばスキルを獲得出来る」
「その根拠は?」
「この羊皮紙、実は二枚あって片方はどういう訳か読めたんだ。読んだら消えてスキルになった。妹には黙ってるがな。俺はこれを修得スキルと呼んでいる。ちなみに修得したのは【治癒功】というスキルだ」
【治癒功】は自分にしか使えない【闘気】を使用する回復スキルである。
「おそらく、この羊皮紙に書いてある文字が読める事が条件になっている」
「まぁ、見たことない文字だが、その時はどうして読めたんだ?」
「見たら頭の中で理解出来た。そういう感じだ」
承は読もうとして読んだ訳じゃなく文字を見た時に頭が文字を勝手に理解してしまったのである。
「いくつか確認したいが、コレはもうコレしかないのか?そして、どうやって手に入れた?」
「それで最後だ。とある怪物が落としたのを偶々拾った」
「その怪物というのは?」
「他の怪物達と違い俺達、人間のように考える知能を持つ怪物がいた。あの見た目は俺達の世界ではゴブリンというんだろうな」
兄妹がダンジョンで見た光景、それは無限に繰り返される知能を持つ怪物同士の戦争だった。
それに巻き込まれ、承も真那華も何度となく死にかけている。
前回の試験で戦った怪物達以上の戦闘力と知能、スキルを持っており、承も真那華も強くならなければ生き残れない世界に身を置いていた。
「・・・・・・北条、こいつら俺が面倒見ることにした。まさか、ここまで面白い奴らだとは思わなかった。コレが事実なら奴等に一泡吹かせられるかもしれねぇ」
南場の言う奴等とは四大家とスキル研究局の事を言っている。
「とりあえず合格だ。とりあえず制服とか必要なもん用意するから仕事は来週から来てくれ」
南場はそう言うと部屋から出ていく。
「で、会ってみた感想は?」
「少なくとも俺達の味方である事は確信した」
すれ違いざまに南場はこっそりと承に耳打ちで自分の所有する全てのスキルを告げたのだ。
【槍術】、【感知】、【四属性魔術】、【治癒魔術】、【結界魔術】、【式神】信憑性はともかく自分のスキルを開示するこれが南場としての誠意だと承は受け取った。




