犬と鳥の戯れ
燐が急遽、ダンジョン攻略に参加出来なくなり、その代わりに聖蘭が参加することとなった。
そして、聖蘭はダンジョン攻略後、真那華に模擬戦を挑むことを告げた。
「それは構わないけどどうして?」
「私は知りたいの。今の私ならどこまであなたに通用するかをね」
聖蘭は特訓の成果を真那華と模擬戦をする事で知りたかった。
そんな時にチームルームにもう一人部屋に入る。
「燐ちゃんが出れなくなったと聞いたけど、まさかマナのペットが代わりなの?」
そこに来たのはカナカナチャンネルの配信者、奏だった。
「ああ、真那華から話は聞いてるわ。ピーチクパーチクうるさい鳥みたいな女だとね。確かに配信とはキャラが違うわね。真那華とあまり変わらないクソガキじゃない」
聖蘭は奏に言い返す。
「マナと違って少し圧があるけど奏負けないよ。流石、SNSで猟犬と言われるだけはあるね」
「それ、確かに私よ。でも、犬は好きよ特に大型犬はね」
聖蘭は奏の挑発に乗らない。
「やっほー、カナカナちゃん」
「マナ!一体どういうことよ!!なんで、燐ちゃんの代役があなたの所の番犬なのよ!」
「それはウチもさっき初めて知ったんだよ。燐ちゃんが聖蘭ちゃんを推薦したみたいなんだよね」
奏は潤から燐の代役が聖蘭になった事を伝えられていたが、真那華はさっき知ったばかりなのである。
「燐ちゃんの推薦?だってセイラってB・・・・・・え?」
奏の目の前に聖蘭はドヤ顔で資格証を突き付ける。
「え!?えーーーーー!!A級!?は?なんで?」
奏は聖蘭のA級の資格証を突き付けられ訳が分からなかった。
「それ、僕のお姉ちゃんの入れ知恵みたい」
「燐ちゃんが!?」
奏はまさか燐が聖蘭に協力してたとは思わなかった。
「でもでも、燐ちゃんの代わりが務まるかなー」
奏は燐と一緒に戦った事で燐の戦いを高く評価しているので、聖蘭にその代わりが務まるとは思わなかった。
「疑うなら、模擬戦してもいいわよ。その代わり銃は使わないけど」
「は?あなたの戦い方はマナの過去の配信見たけど銃ありきでしょ!流石にそれは奏を舐め過ぎ!」
奏は真那華と一緒と戦うにあたって真那華の過去配信を見て勉強していたので、奏は当然ながら聖蘭の戦い方も知っている。
奏の中で聖蘭は銃主体の戦闘スタイルだということを知ってるのである。
「そういえば、飛べるんだってね。いいわよ。空中に逃げても、私はそれでも勝てるから猟犬の戦い方を見せてやるわ!」
「受けて立つよ!その代わり負けたら奏の作って欲しい装備の素材はセイラが用意してね!」
奏はちゃっかり自分の要求を勝った時の条件に加える。
「構わないわ。その代わり、もし私が勝ったら奏にも配信で私の宣伝に協力してもらうわよ!」
聖蘭は宣伝という名の注意事項を伝えるために真那華だけじゃなく奏も活用したいのである。
「いいよ!言ったからね。後になって無かったことにしないでよね!」
(奏、その言葉を言うのは君になりそうなんだよね。その人、僕達の面子で一番喧嘩売っちゃいけない人なんだよ。それにたぶんあのグローブ・・・・・・)
調子に乗ってる奏とは逆に潤は知っている。
聖蘭は真那華より戦闘においては容赦がないこと、そして聖蘭のグローブはただ単に壁に貼り付く用途で作った訳ではないことに気付いていた。
「それなら、管理局の演習場借りないとね。手続きしてくるよー」
真那華もノリノリで手続きで部屋を出ていく。
そして、潤は黙って奏の肩にぽんっと手を乗せる。
「忠告しとくけどまともに空中に逃げられると思わない方がいい。模擬戦で何回か戦ってるから知ってるけど聖蘭は真那華みたいに優しくはないからね。喧嘩を売るなら真那華か僕の方がまだ良かったと後悔するよ」
「え?」
潤はそっと奏に喧嘩を売る相手を間違えた事をそっと告げる。
それは今の聖蘭は銃だけではなく拳と足を使って来る事を奏は知らないからであると同時にあの変幻自在な不規則な動きに対応出来るとは思っていないからである。
今の聖蘭を相手取るのは真那華でさえ厳しいと潤は思っている。
「さて、真那華がせっかく場を整えてくれるみたいだし、宣伝で何を言うか考えておかないといけないわね」
「もう勝った気でいる!?何なのこの余裕は・・・・・・」
「ああ、やっぱりね」
聖蘭は既に勝った後のことを考えており、奏は聖蘭の謎の余裕に戸惑う。
潤は聖蘭が勝った後のことを考えてる時に負けたことがない事を知っているため、聖蘭にとって奏は鴨がネギを背負ってやって来たようなものなのである。
模擬戦が行われる演習場のギャラリーは真那華が大声で手続きをした結果、『深淵の樹海』に出る潜行者という話題もあり多くの人が集まっている。
「アレってカナカナちゃんじゃね」
「その相手ってセイラちゃん!?」
「カナカナちゃんが勝てるような相手じゃないって!!」
「いや、なんかセイラちゃんおかしくないか?」
ギャラリーが聖蘭の違和感に気付く。
「模擬戦用の銃がない!」
「いや、確かにないが。何だよあの格好・・・・・・」
「正に美だな」
「眼福眼福」
ギャラリーの一部は聖蘭の格好を邪な目で見ている。
「でも、セイラちゃんって銃がないと戦えないんじゃないか?」
「いくら相手がカナカナちゃんだからって舐め過ぎだろ」
「カナカナちゃん飛べるからな。銃がないともう勝負にならないだろ」
誰もが聖蘭に勝ち目がないということを口走る。
「分かってねえな。師匠の相方が何も考えずに銃を手放すとは思えないんだよな。しかも、あのスーツの素材に気付かない方がどうかしている」
聖蘭を擁護するのは御鶴城誠である。
「これ、俺としてはどっちを応援すればいいんだ?」
カナカナちゃんが模擬戦を行うと聞き即行で仕事を終わらせた南場穣治ことジョージは自分の立場的にどちらを応援すればいいか分からなくなっていた。
「やっぱり、銃がないあなたなんて全然怖くないよね。牙を折られた獣みたいな」
奏は聖蘭を挑発する。
「爪を折られようが牙を折られようが、構いやしないわ。獣はそれで止まらないから獣なのよ」
聖蘭にとって奏のそれは何の挑発にもなっていなかった。
「あなたこそ、ピーチクパーチク囀るだけじゃなく、その足りない頭でどうするか考えた方がいいんじゃない?」
聖蘭も負けじと奏を挑発する。
「カッチーン、絶対に奏を舐めた事を後悔させてやるんだからね!」
「やってみなさい。やれるものならだけどね」
聖蘭は欠伸を噛み殺しながら告げる。
「今、欠伸噛み殺したでしょ!!絶対に後悔させてやるんだからー!」
奏は聖蘭の欠伸を噛み殺すという挑発的行為にかなりムキになっている。
そして、模擬戦が開始を合図するブザーが鳴る。
「狡いとか言わないでよ。【イリュージョン】」
奏は模擬戦が始める前にヘイローにストックした【イリュージョン】を発動する。
「へぇ、それがどうしたの?」
「へ?うわっ!!」
聖蘭は既に奏の裏に周り膝カックンをして奏が転びそうになっている。
「え?今!?」
「・・・・・・その場に残像残すってどんだけ速いの」
真那華ですらその速度に目が追いついておらず、潤もまさか残像が残るほど速いとは思ってなかった。
「今、一瞬で後ろに回った!?」
「距離を詰めるなら分かる。あの一瞬で後ろを取ったのか!!」
「地上でも人間の動きやめ始めてないか?」
ギャラリー達は既に何が起こったかすらはっきりと分かっておらず、分かるのは一瞬で奏の背後を取った事実である。
「よかったわね。銃がなくて、あったら今ので終わってたわ」
「だからって、舐め過ぎだよ!奏が飛べる事忘れてない?」
奏は翼を出して空中に逃げようとする。
「そう、でも私にはそれ見えてるからもう遅いわ」
「!?!?」
聖蘭が奏に向かって手をかざすと奏は聖蘭の手の平、正確にはグローブに引っ張られる。
「やっぱりね。薄々感じてはいたんだよ」
潤は聖蘭がグローブに施した能力がそんな壁や天井に貼り付くだけのお遊び程度で済ませるとは思わなかったのだ。
「ふーん、『超重鉱石』の引力の力を引き出して、逃げられないようにしてるわけね」
真那華は聖蘭が『超重鉱石』の力を用いてる事を理解した。
「でも、あの鉱石って重いんだよね。どうやって聖蘭はその問題点を解決したの?」
潤は『超重鉱石』が重い事を当然知っており、軽量化を気にしていた聖蘭がそれを気にしないわけがないと思っている。
「たぶん、【錬成鍛治】が成長して新たなことが出来るようになったのかも。【錬金術】ではあんなこと出来ないからね」
真那華は【錬金術】に詳しいため、【錬金術】では出来ない事を聖蘭がやってる事に気付いた。
「なんで!?どうして、思ったように飛べないの?」
奏は何が起きてるか分かっていない。
「あなた、私のことを牙の折れた獣と言ってたけど、翼があっても飛べないあなたは凄く滑稽よ」
「奏分かったよ!セイラ!一体、奏に何をした!」
「さぁ?それはあなたの足りない頭で考えなさい」
奏は聖蘭が何かをしている事は理解したが何をしているか理解していないので聖蘭に挑発される。
「え?どうなってるの?」
「カナカナちゃんの飛行を聖蘭ちゃんが止めてる」
「は?どうやって止められるんだよ!!」
「たぶん、手をかざしてるからあのグローブに仕掛けがありそうなんだよな」
ギャラリー達ですら聖蘭が何をしているのかは理解していない。
「・・・・・・流石にカナカナちゃんじゃ、聖蘭嬢は相手が悪すぎる。聖蘭嬢、なんつーもん作ってんだ」
ジョージは【感知】により聖蘭がやってることを理解する。
「奏、飛びたいなら飛ばせてあげるけどどうする?」
「え?本当?」
「ええ、いいわよ。上手く飛べるならだけど」
聖蘭は奏にかざした手の平を裏返し手の甲を向ける。
「うわあああ!!」
奏は飛行はできたが天井に激突して落下し、気を失う。
落下する寸前で聖蘭は手の甲に備わる斥力の力により衝撃を抑えた。
「今のは『反重鉱石』の斥力だね。手の平では引力、手の甲では斥力を放つなんてとんでもないの作ったね」
真那華は聖蘭が『反重鉱石』を使った事は話していたので分かっていたが、どう使うかは分かってなかった。
「今のは自滅!?」
「今、セイラちゃんは触れてなかったよな」
「勝手に吹っ飛んでいったように見えたが?」
ギャラリー達には、奏が勝手に天井に激突したようにしか見えてなかった。
「・・・・・・本当、分かってないと意味が分からないよね。僕も事前にある程度知ってたから分かったけど言われてなかったら奏が勝手に自滅したとしか見えないからね」
潤が見ても分からなければ奏が自滅したようにしか見えないのである。
「やっぱり、聖蘭ちゃんが相手だと奏ちゃんでは相手が悪いよね」
「その割には止めなかったよね」
真那華は既に結果は見えていたが、止めなかった理由を潤は尋ねる。
「流石にウチの相棒を馬鹿にされるのはウチが馬鹿にされる以上に許せなかったからね」
真那華はただ単に聖蘭を馬鹿にするのが許せなかったのである。
「でも、あのスピードと模擬戦するのかー。ウチでもあのスピードをなんとかしない限り、なかなか厳しいと思うよ。それに聖蘭ちゃん、今回は銃すら使わなかったんだからね」
真那華は聖蘭の速さをどうにかしないと厳しそうだと考えている。
「でも、聖蘭かなり反応が早かったよね。飛びたつ瞬間に封じてなかった?」
「前よりも動作感知の精度が上がってるね。ウチでも四割くらいなのに」
真那華は潤の質問に答える。
「言ってなかったけど、動作感知同士がぶつかり会うと精度が高い方が有利なんだよね。潤ちゃんはやっと一割くらい使えるようになったんだっけ?」
「僕にもあった方がいい技能だと思って練習したけど、確かに高等技術と言われるだけあって簡単じゃないのは分かってるよ。アレは相当積んでるね」
潤は動作感知を練習しているが、その難易度の高さを知っているため、聖蘭がかなり鍛えて来てる事が分かった。
「でも、お姉ちゃんから聖蘭ちゃんに変更ってリスナーさん反発しないかな。それだけが心配なんだよね」
潤は燐の活躍を期待するリスナー達が、聖蘭に変わったことによる心配をしている。
「うん、だからこんな時のために助っ人を呼んで来たよ」
「助っ人?」
潤は真那華の言う助っ人が分からなかった。




