猟犬VS剣聖
真那華は聖蘭が燐と交換するのにリスナー達を納得させるための秘策を用意していた。
「たまたま、さっき見かけてね。聖蘭ちゃんと模擬戦して欲しいと頼んだら二つ返事で引き受けてくれた。野良の剣聖、ミツルギだよ」
「まさか、更新手続きをしに来ただけなのにこんな大役を頼まれるとは思わなかったぞ。この御鶴城、師匠の頼みとあっては全身全霊お相手する」
「ミツルギさん!?」
まさか、真那華がミツルギに模擬戦の相手をさせるとは潤は予想してなかった。
「それで、見た感じどう?」
「脅威的な速度であるのは間違いない。俺も初見なら間違いなくやられている。しかし、やりようはいくらかありそうだ。むしろ、相手にとって不足なし、訓練の成果を見せるのにはちょうどいい相手だ」
真那華はミツルギに確認を取るとミツルギは快く承諾する。
「ミツルギさん、無理なら無理って言ってくれていいんだからね」
潤はミツルギが真那華に無理に付き合ってる気がした。
「いや、アレなら俺の特訓の成果をリスナー達に存分に見せられる。俺にメリットがないわけではない」
ミツルギは観戦席から演習場に飛び降りる。
「次は俺の相手をしろ」
「ミツルギさん!?」
聖蘭はいきなりの展開で意味が分からない。
「さて、急遽配信するがハロー俺の愛弟子諸君、これからとても重要なことを報告するぜ」
ミツルギはいきなり配信を開始する。
「明日行われる『深淵の樹海』攻略だが、S級潜行者黒鉄燐が急遽出られなくなり、セイラちゃんが指名された。これに納得出来ないリスナーやファンも多いと思うが、日本にはS級は二人しかいない。特に戦闘に特化してるのは黒鉄燐だけだ。緊急の出動があるのは致し方ない事・・・・・・そこでだ、俺が今からセイラちゃんと模擬戦をして俺が勝てばその『深淵の樹海』に挑むという栄誉をいただこうかと思う」
ミツルギは真那華に交換条件として『深淵の樹海』の挑戦権を提示した。
「なるほどね。これ、真那華の仕業でしょ。でも、何となく真那華の考えは分かるわ。燐さんはS級だしファンや支持してる人も多い、だからこそそれに足る実力を見せて反発する視聴者を黙らせろと言うわけね。確かにカナカナちゃんはヒーラーだし、勝ったところで納得出来ない層は多そうね」
聖蘭はこの状況を真那華が仕組んだことだと見抜きながら、その意図を予想する。
聖蘭自身も燐の代わりを務めるとなると自信はないが、それでも負けるつもりは一切ない。
だからこそ、燐のファンや支持する者を実力で黙らせる必要があるのだ。
「受けて立つわ。その戦い・・・・・・でも、その前に・・・・・・」
聖蘭は奏を抱え上げ観客席まで跳躍、真那華に気絶した奏を托す。
「一応、落下の衝撃は抑えたから真那華の拙い回復魔法で治療してあげて・・・・・・それと、後で憶えておきなさい」
「聖蘭ちゃん、お手柔らかにね」
聖蘭は真那華にこの件に関するお仕置きを考えている。
「待たせたわね。ミツルギさん」
「いや、流石にあのまま放置はしておけないからな。そりゃ、待つさ」
ミツルギは奏をこれから戦いが起こる場所に放置する方が問題だと思っている。
「それで、銃はいいのか?」
ミツルギは聖蘭に銃を使うか確認する。
「お言葉に甘えて一つ借りるわ。剣聖ミツルギ相手に武器無しは流石に厳しいからね。一応、チャンネル登録して見てるから知ってるけどまた強くなったそうじゃない」
「それはありがたい事ではあるが、俺は日々強くなっていってる。配信を見たからといって勝てると思わないことだ」
聖蘭が配信を見てることに感謝しつつもミツルギは油断はしないように告げる。
「それに俺ならなんとかその速さに対応は出来そうだ」
「【超反射】と【感知】の合わせ技でしょ。配信で見たから知ってるわ。確かにそうでもしないと厳しいかもね」
聖蘭はミツルギがどのような対策を立てるかは配信を見ていたので大体予想できた。
「でも、速いだけが猟犬ではないわ。使えるものは全て使い全身全霊で獲物を狩るといった行動原理が猟犬なの」
聖蘭は自分の型が速いだけじゃないことを話す。
「確かにな。お前、カナカナちゃんの一挙手一投足どこまで見えていた?」
「・・・・・・最初に幻魔法を使って来るところはもう一目で分かったわ。アレは流石に顔に出過ぎね。狙いが丸分かりだもの。飛び立とうとした瞬間もね」
聖蘭には奏の行動が見えていた。
「読み合いになると流石に分が悪そうだな」
「そうでもないわ。カナカナちゃんが分かり易すぎるだけなのもあるからね」
聖蘭にとって、奏の行動は非常に読みやすいのは顔に出易いところがあるのと視線の動きですぐに次の行動がある程度、読めてしまっているのである。
「さて、話しはこれくらいにして始めましょうか」
聖蘭は管理局員から模擬戦用の銃を受け取る。
「だな、流石にリスナーとギャラリーを待たせるのは気が引ける」
そして、二人が持ち場に着くと模擬戦開始のブザーが鳴る。
「!!」
ミツルギはバックステップで後ろに下がり、聖蘭の蹴りを避ける。
「うわっ!」
聖蘭は股下から銃での攻撃を行い、ミツルギは頬を掠める。
「随分とはしたない真似をするじゃないか!」
「配信で猿のカチューシャ付けてる貴方には言われたくないわ」
聖蘭はミツルギに言い返す。
「言ってろ【水月】」
ミツルギは居合と共に水の刃を放つ。
「避けてもいいけど、それじゃ芸がないわね【爪刃手刀】」
聖蘭は爪のオーラの手刀でミツルギの水の刃を切り裂く。
「出鱈目過ぎるだろ。流石は師匠の相棒だけのことはあるな」
「それはどうも」
「なら、これはどうだ!!【豪雨】」
ミツルギは連続の突きにより無数の水の刃を放つ。
「真那華が剣を二つに分けて凌いだ奴ね。受けて立つわ!」
聖蘭はこの技を真那華が凌いだ時のことを憶えていた。
「なっ!?」
「うんうん、流石聖蘭ちゃんだね。ここまで【反重鉱石】の力を使いこなせるなんてやるねー」
聖蘭はグローブの手の甲に備わる斥力の力でミツルギの無数の刃を全て受け流している。
「セイラちゃんって銃だけじゃなかったのか?」
「というか、どうなってんだよ。ミツルギの放つ刃が全てセイラちゃんから逸れていくんだが・・・・・・」
「・・・・・・カナカナちゃんが飛ぶ直前で止められてたけど、あの力ってまさか引力と斥力か?」
ギャラリーの一人がその違和感に気付く。
「そうか!『枯れ鉱山』にあった未知の素材を使ってるのか!だが、引力の力は何の素材だ?」
「『超重鉱石』だ!アレは引力を持つが故に地球の重力に引っ張られるから重く感じるとこの前、配信でマナ様が言ってた」
「つまり、さっきカナカナちゃんがぶっ飛んでいったのは」
「カナカナちゃんが一生懸命羽ばたいて離れようとしてたから、斥力で引き離す力で速度が制御出来なくて吹っ飛んだといったところか」
ギャラリー達は奏が聖蘭に吹っ飛ばされた絡繰に気付き始める。
「詰まるところあのグローブ一つで引力と斥力を制御してるのか?」
「セイラちゃんは素材さえあればとんでもない装備作れるからな。セイラちゃんのオーダーメイドの装備が欲しくて今は県外だけじゃなく、外国からも客が来るらしい」
「やっぱり【錬成鍛治】が今まで埋もれてたのってスキル研究局の陰謀という噂は本当なのかもしれないな」
どういう訳か、【錬成鍛治】が埋もれていた理由がスキル研究局の利権を脅かし兼ねないので、世間に出ないようにしていたという噂が、スキル研究局解体後から語られるようになったのである。
「確かに素材の性能を引き出せるっていうのは凄まじい能力だからな。しかも、そのおかげで今まで需要がなかった【錬金術】を持つ潜行者が必要とされてるらしいからな」
「『バルムンク』が募集をかけてるのと潜行科がある一部の学校では【錬金術】に力を入れ始めてるからな」
北条宗継の影響により潜行科がある一部の学校が【錬金術】にも力を入れるようになり二年の後期から選べる選択科目の一つに取り入れられた。
「やっぱり、『ホワイトサンダー』を作った職人だけはあるな。それも、素材の力を引き出した装備品だな」
「私としてはここまで便利に作るつもりはなかったのよ。この『キャッチアンドリリース』略して『C&R』はただ新しく出来るようになった抽出を試すために実験的に作ったら思いのほかいい出来になっちゃっただけだから」
聖蘭は【錬成鍛治】で新たな力である抽出が出来るようになり、それを試すためにこのグローブ『C&R』を作っただけだったのである。
抽出とは大量の最高品質の素材が必要になるが、必要な要素のみを抽出して装備品に取り入れるという力である。
デメリットは量が欲しい要素によっては変わって来るが必ず最高品質の素材が必要な事、そして信じられない程の量を要求されるため、コスパは最悪で割にあってないというのが聖蘭の最初抱いた感想だったが、『超重鉱石』のように明らかに大き過ぎるデメリットがある場合は使っても問題ないくらいの感想に変わった。
「まぁ、でもここまで使えるなら通常装備にしても問題なさそうね」
「俺やカナカナちゃんを使って試したのか?」
「自分の命を預ける装備品なのよ。それはもちろん確認はするわ。カナカナちゃんは試す以前の問題だけどね。あんだけイキったんだからもう少しは粘って欲しかったわ」
聖蘭はグローブを試すことも兼ねてカナカナちゃんと模擬戦をしたが、試す以前の問題だったので少しは粘って欲しかったと思っている。
「それはヒーラーにとって酷な希望だな」
「カナカナちゃんは完全に私の事を舐めてたから分からせただけよ」
聖蘭は奏に舐められてることは言葉の節々に感じてはいたので分からせることにしたのだ。
「まったく、舐めるにしても相手は選ぶべきだろ。こいつはどう考えても師匠より喧嘩売っちゃいけない相手だろうが」
ミツルギから見ても聖蘭は真那華と比べて容赦がないように見えている。
「俺も気をつけねぇとな」
「そうね、油断してるとどこから噛み付かれるか分かったものじゃないものね」
「!?!?うぐっ!!」
ミツルギは聖蘭の攻撃するタイミングを見誤り貫手が鳩尾にめり込む。
「何今の!?」
真那華は聖蘭が一瞬でミツルギに距離を詰めミツルギがガードしようとした瞬間にバックステップしたと同時に再び一瞬で距離を詰めタイミングをずらしガラ空きの鳩尾に貫手を放ったのである。
「真那華、これが聖蘭の特訓の成果だよ。加速、減速、停止、左右、前方、後方、上を変幻自在に移動して相手を翻弄する戦い方が出来るようになってるんだよ」
潤は映像を見たから知っているが、聖蘭は相手がガードするタイミングをずらす事でガラ空きの部分を攻撃しているのだ。
それは動作感知と併用する事で可能にした聖蘭の特訓の成果である。




