新たなS級潜行者
その日、雑務課にあるチームルームにいる真那華達の元に承が帰って来た。
「ただいま。これ、お土産だ」
「おかえり、兄ぃ・・・・・・わぁ、東京ばななだ!ありがとう、兄ぃ」
承は真那華がこれが好きなのを憶えていたのでお土産はこれにした。
「それとミミックを生け取りにしたから後で倒してくれ、俺がやると抹消しかねん。欲しがってただろ。こいつの素材」
承は『屍の館』で生け取りにしたミミックを自分が倒すと素材すら残らない可能性があるため、真那華に倒して欲しかったのである。
「ん?なんのこと?ちょっと待って思い出すから・・・・・・あー!!まさか、そんなだいぶ前の話し憶えているなんてびっくりだよー、兄ぃに言われてやっと思い出した。『ミミックボックス』がやっと作れるんだね」
真那華はあまりにも昔の話しの為、承に言われるまで忘れていた。
「・・・・・・聖蘭が真那華のお兄ちゃんが好きな理由が分かった気がするよ。しっかりしてそうだもんね」
「そうそう、約束はしっかり守ってくれそう・・・・・・てっ、違うから!人として尊敬してるだけだと何度言えば分かるのよ!」
潤は承を見て聖蘭が好意を寄せる理由を理解した上で、話を聖蘭に振ると聖蘭はうっかり口を滑らせてしまう。
「あんたが、燐さんの妹か」
「お姉ちゃんがお世話になってます。僕は黒鉄潤です」
「いや、それはお互い様だから気にしなくてもいい。燐さんにはだいぶ無茶をさせてしまったからな。むしろ、世話になったのは俺の方だ」
(これ本当に真那華のお兄ちゃん?真那華とは正反対の性格なんだけど・・・・・・いや、待ってこの人!!筋肉の声が!!)
潤は承と真那華が本当に兄妹か疑いたくなったがそれ以上の衝撃があった。
「もしかして、だいぶ鍛えていらっしゃいます?」
「あんたも相当の努力と研鑽を積んでるようだ。その姿勢の良さだけでも分かる。体幹もしっかりと鍛え抜かれている」
「僕も貴方のようにしっかりと筋肉を鍛えてるお父さん以外の潜行者に初めて会いました」
潤からして見ると、筋肉を鍛えてる潜行者の方が珍しいのだ。
「確かに魔力による身体強化がある事は理解している。長い時間ダンジョンに囚われた事で俺は一つの真理に辿り着いた。最終的に頼りになるのは結局こいつだということにな。筋肉と努力は裏切らない。それに魔力による身体強化では賄えないものも筋力なら賄えるからな」
「え?そうなんですか?」
「え!?そうなの!!」
潤ですら知らない事実に真那華まで反応する。
「体幹やバランス感覚というのは魔力による身体強化の対象外なんだ。これに気付ける者は極少数、あんたの親父さんはこの魔力による身体強化の欠陥に気付いたかは分からないが筋肉を鍛えるのは間違いじゃない。特にあんたのようなタンクにはな」
承は真那華と違いスキルには恵まれ無かった為、筋肉を鍛えていた事でこの欠陥に気付く事が出来たのである。
「え?兄ぃ、それなんでウチに教えてくれなかったの?」
「だって、お前は聴く耳持たなかっただろ。だから、話す必要性を感じなかっただけだ」
承が話さなかったのは完全に真那華の自業自得であった。
「そういえば、兄ぃは休日はジムに行ってたね。ウチも通おうかな」
「え!?ジムって駅前の?」
真那華の発言に潤は素早く食いつく。
「仙台駅近くにある潜行者限定のトレーニング施設『マッスルモンスター』ってところだな」
「そこって、最新鋭のトレーニングマシーンやプール、サウナが完全完備されてるVIP御用達のジムじゃん!!」
潤はあまりの衝撃に敬語を忘れてしまった。
「うわっ!!会費高っ!?」
真那華はスマホで調べたら、あまりの会費の高さに驚く。
「あ、でも今の僕なら入れそう」
「確かに入れなくはないけど、筋肉にそこまでお金かけたくないかなー」
潤は既に会員になる気満々だが、真那華はそこまで筋肉に執着するほど、お金をかけたくなかった。
「そうか、聖蘭からこの前聞いたんだが、お前達二人がかりでも潤を突破出来ないらしいな。しかも、突破出来ないからって俺の技である【貫穿発勁】まで使って、後方の相手を狙って勝ったとも聞いてるが?らしくないぞ」
「・・・・・・ウチが弱いとでもいうつもり?」
「そうは言ってない。俺の知ってる真那華はそんなつまらない奴ではないんだけどな。いつからそんな臆病になった?お前は頭がいい。だから、俺達には見えないものまで見えてしまう。分からないことでも分かってしまう。それがお前の決定的な弱点であり、天才故の弱さだ」
承は真那華の弱点を唯一知る存在で、真那華の弱点とは、天才故にどうしても勝てない相手だと気付いた瞬間に諦めてしまうことである。
それはどれだけ手を尽くしても勝てない事が分かってしまうからだ。
「兄ぃって時々意地悪だよね。仕方ないから付き合ってあげるから感謝してよ」
承は奏にやったように真那華を焚き付けたのである。
(うん、この人確かに真那華のお兄ちゃんだね。真那華の扱いが上手すぎるよ。ん?そういえば体幹とバランス感覚は魔力での強化は対象外って言ってたよね。・・・・・・【聖蘭】のアレって、もしかして・・・・・・僕のせい!?)
聖蘭は潤と一緒に筋トレをする時に体幹も一緒に鍛えていたので、その影響で人間離れした動きを可能にしてしまったと潤は思いこんでいるが、それも一つの要因となっている。
「そうだ、言うのを忘れてたが・・・・・・」
承は真那華達に資格証を見せる。
「え、S級!!マジで!?」
「流石、承さんです。私も負けていられません」
「お姉ちゃんも同じように見せてくれたなー」
三人は承のS級昇格にそれぞれ反応する。
「今は様々な問題が重なってそれどころではないが、管理局が落ち着いてから新しいS級として全国に正式発表されるらしい」
承はその事に関してうんざりしたように話す。
「さて、それよりも先に約束を果たそうか」
「約束?なんのこと?」
真那華は承のいう約束が多過ぎてどれか分からないのである。
「真那華が戦いたがっていた『ウィザードウッドゴーレム』に挑める話しだ」
「・・・・・・そうか!!兄ぃがS級になった事であと二人A級以上がいれば挑めるんだね!」
真那華は承の話しで全て理解するが、聖蘭と潤はなんの事かさっぱり分からないのである。
「というか、この話は二人には分からないよね。『深淵の樹海』の一層ボスって知ってるかな?」
「『ウォーリアウッドゴーレム』だね。お姉ちゃんは攻撃は遅くて避けやすいけど、耐久力と自然回復が鬱陶しい相手だと言ってたね」
燐は『ウォーリアウッドゴーレム』との戦いを経験しており、その話しを潤は聞いてるので当然知っている。
「私も知ってるわ。でも、『ウィザードウッドゴーレム』というのは聞いたことないけど」
聖蘭の義父は最初に『ウォーリアウッドゴーレム』を倒すための討伐隊にいたために知っているが『ウィザードウッドゴーレム』というのは知らなかった。
「だってそれ、レアエネミーだからね。ウチらは逆に『ウォーリアウッドゴーレム』の方を知らないんだよね」
「「は?」」
聖蘭と潤は何言ってんだこいつという顔をしている。
「あのダンジョンのボスにレアエネミーがいるなんて聞いたことないけど」
「S級ダンジョンのレアエネミーのボスなんて絶対ヤバいでしょ」
潤と聖蘭はそのボスを想像すらしたくなかった。
「確かに、それは管理局の一部しか知らない情報だからな。アレは『ウォーリアウッドゴーレム』と同じ扱いに出来ないという事で上の連中が情報の開示を渋ってるらしい」
承からしてもいい加減に開示して欲しいところもあった。
「ちなみに面子は既に決めてある。真那華、お前は再戦を挑みたがっていたからな。それとここにはいないが、燐さんだ。これも話したら本人がやる気を出してしまってな。あとは潤・・・・・・あんたは燐さんきっての希望だ。嫌なら拒否して構わない。それとこいつもここにはいないが奏だ。真那華より有能だという事を俺に示すそうだ。聖蘭はB級だと聞いたから今回はお留守番だ。悪いな。その代わり、珍しい素材を持って来てやる」
「承さん・・・・・・」
聖蘭は承の気遣いにときめいている。
「ねぇ、真那華・・・・・・真那華のお兄ちゃんのアレってワザとやってんの?狙ってやってんの?」
「兄ぃに他意はないんだよ。本当に悪いと思っていて、それに対してどうするか考えてるだけなんだよね。ウチも兄ぃがこんなに聖蘭ちゃん特効だとは考えもしてなかったよ」
「いや、どう考えても聖蘭はああいう誠実そうな人は好みでしょ」
真那華はまさか聖蘭が兄である承にここまで好意的になるとは考えてもいなかったが、聖蘭の性格を理解する潤は普通にストライクゾーンだと思っている。
「そういえば、奏ってまさかカナカナチャンネルの配信者?ジョージが夢中になってるし、聖蘭ちゃんも知ってたみたいだし気になったから見てみたんだよね」
真那華はカナカナチャンネルを承が帰って来る前に風呂に入りながら見ていた。
「まさか、あそこまでヒーラーの扱いが悪いとは思わなかったよ。あれじゃあ確かに誰も潜行者なんてやりたがらないね。それなら将来が約束されてる医療関係に行くのも分かる気がしたよ。でも、なんでウチより有能だという事を兄ぃに示したがってんのかな?」
「燐さんと須藤さん曰く、弟子の意地って奴らしい」
「兄ぃ、弟子取ったの!?しかも、アイドル潜行配信者の!?」
真那華はまさか実の兄が弟子を取るとは想像してなかった。
「成り行きでそうなった。その実力は期待してくれて構わない。本人はB級だと思ってた昇級が燐さんと須藤さんの推薦もあって一気にA級になったんだ。須藤さんが知ってたんだが、特例中の特例らしくS級三人の推薦とそれなりの実績が必要だという話しだ」
「三人という事はまさか、兄ぃも?」
真那華は三人のS級と聞いて気付いた。
「ただでさえヒーラーは少ないんだ。アレを腐らせておく方がどうかしている。それと真那華!あの円環、チャクラムじゃなかったぞ!」
承は当然の判断だと思っていると同時に奏の頭に浮いてる円環の件について話しが聞きたかった。
「え!!まさか、あの天使の族長が落とした輪っかのこと?アレってチャクラムじゃなかったの?ウチなんかやっちゃった?」
「最新のカナカナチャンネルはチェックしているか?確か昨日、配信してたはずだぞ」
承がそういうと聖蘭が確認する。
「・・・・・・え?飛んでる!?飛行系のスキルってあったとか聞いたことないわよ!」
聖蘭が驚くその視線の先にはリスナーやファンに向けて奏が【聖気】の翼で飛べる証明をする配信動画だった。
「これって、まさか!!天使の翼!!なんで!どうなってるの!?あ、あの頭の上にあるのって・・・・・・天使の族長の輪っかーー!!」
その動画を見て一番動揺してるのは真那華だった。
「僕の知る限りだけど飛行できるスキルは存在しないはずだよ」
「落ち着くのよ。こんな時のために承さんがいるんじゃない」
潤も飛行できるスキルは聞いたこともなく、聖蘭は承なら何か知ってる事を確信して頼る。
「兄ぃ、これってどういう事?ウチらが持っても何も起こらなかったよね」
当然、真那華にも承は詰め寄られる。
「アレをスキルと言っていいのか微妙なラインだが【聖気】というスキルを拡張させるのがあの円環の力、俺と真那華が触れて反応がなかったのは【聖気】がないからだ。その拡張機能によって翼を出したり、投擲武器を生み出してるな」
承は三人に説明する。
「・・・・・・兄ぃ、ウチの予想だけどさ。これだけじゃないでしょ。兄ぃの弟子って時点でこの程度なわけないもん」
真那華は理不尽かつ無敵を誇る兄の弟子がこの程度だとは思えなかった。
「さあな、それは当日実際に見てくれ。さて、俺からも聞きたいんだが、それはなんだ?」
承は部屋の隅にいる禍津玄龍を指を差す。
「あれ?いつもなら僕の頭の上か周囲を浮いてるのに」
あの日、潤との最適化が済んだ禍津玄龍は潤の周囲を浮いてるか頭の上で休憩していたりしていたが、今に限っては部屋の隅で何かに怯えたように震えているのだ。
「アレは禍津玄龍という潤ちゃんの盾だね」
「まさか、あの結晶を使ったのか!」
真那華の説明とこの状況を見て承は察した。
「それは私が説明します。潤に頼まれてた盾を作ってた時、最後の工程でその結晶を使ったらアレになったんです」
その禍津玄龍を生み出した聖蘭が承に説明する。
「盾を生き物に変えるか・・・・・・やはり、眷属・・・・・・いや、代行者といえど権能の力か」
承はヴァリタスの言っていた言い方に言い直し権能の力の凄まじさを再認識する。
「ウチもまさかこうなるとは完全に想定外だったよ。でも、潤ちゃんが念じるとしっかりと盾になるんだよ」
「うん、流石にそれは僕が説明したかったかな。でも、なんで今日に限って・・・・・・」
潤達は禍津玄龍が部屋の隅で何に怯えてるか考える。
「「「あっ!」」」
その理由が三人同時に気付いた。
「そりゃ、確かに怖いよね。魂にまで刻まれる恐怖って・・・・・・確かにアレだけ何回も何回も消し飛ばされたらね」
「どう考えても、アレがトラウマになってるわね」
「真那華も大概無茶苦茶だけど、真那華のお兄ちゃんは最早訳が分からないよね。真那華が理不尽という理由がよく分かったよ。権能の力を恐怖させるって、真那華ですら真似出来ないと思う」
禍津玄龍が部屋の隅にいるのは承による手加減の練習による一方的な攻撃と再生の繰り返しをされた事によって、魂にその恐怖を刻まれた結果、禍津玄龍は承に怯えているのである。
「・・・・・・奴等にも恐怖という感情があったんだな」
承はこれに関しては初めて知った事だが、それは承が禍津に芽生えさせた感情だという事には気付きすらしない。
そして、その恐怖ではあったが感情を与えるという行為により他の様々な感情を刺激させ芽生えさせ心を生み出した事で禍津玄龍が生き物になった要因になっている事はここにいる誰も知らない。




