スロープ族との邂逅
禍津玄龍は承に対する恐怖により、部屋の隅でガタガタ震えているのを承は意に介さず、話しを続ける。
「そういえば、聖蘭に紹介したい奴がいる」
承はスキルで開けた空間から普通の狼より一回り大きい銀と白の毛が混じった狼が現れる。
「俺がダンジョンで知り合ったスロープ族の族長のヴァリタスだ」
承は簡単な狼の姿をしたヴァリタスを紹介する。
「え?本当にダンジョンの外だと動物の姿なの?兄ぃがこっそり買ったペットじゃなくて?」
真那華はあまりの獣の姿に本当にダンジョンにいた獣人だということが疑わしかった。
「この小娘、好き勝手なことを言ってくれるな。我はお主には用はない。用があるのは我等を導く神のみ」
「え?今、誰が喋ったの?」
真那華はまさか、目の前の狼であるヴァリタスが話してるとは思ってすらいない。
「・・・・・・真那華、話してるのはそのヴァリタスという狼よ。私が【魔狼憑依】を宿した人間、東城寺聖蘭よろしくね」
聖蘭は目の前の狼が話してることを理解し、挨拶する。
「・・・・・・ああ、なんと神々しい!!このお方が我等の神!!この日を何度待ち侘び・・・・・・夢見たことか・・・・・・ッ」
ヴァリタスは瞳から涙を流し喜んでいる。
「聖蘭ちゃんって神々しいかなー。潤ちゃんはどう思う?」
「たぶん、彼等にはそう見えてるんだよ。僕も聖蘭は神々しいとは、真逆の存在だと思う」
真那華と潤は聖蘭に神々しさを感じたことはなかった。
「お主ら、我等の神を愚弄するか!いくら恩義ある承殿の知り合いでも容赦せんぞ!」
スロープ族にとって聖蘭は神なのでそれを愚弄する相手には一切の容赦はしない。
「ププッ・・・・・・その姿で何が出来るのかな?ダンジョン内では確かに厄介だけど、今はただの獣じゃん!」
真那華はスロープ族は獣の姿だから調子に乗っている。
「・・・・・・承殿、我はここまで我等と我が神を愚弄されて我慢ならない。この小娘に噛みついていいか?」
「それはやめておいた方がいい。それをやったら俺もあんたらを容赦しないからだ」
ヴァリタスの発言に対して承は警告する。
「真那華も挑発するような真似はやめてくれ。せっかくの友好関係を壊したくはない」
それと同時に挑発する真那華を注意する。
「やっと、安寧の地にいれる時が来たというのにそれは勘弁して欲しい」
「だって、先に噛み付いて来たのそっちじゃん」
真那華と潤はただ、聖蘭が神々しいか話していただけである。
「それは分かるが、彼等にとっては聖蘭が神なんだ。彼等がそう見えてるならいいだろ。外野が口出しする事ではない」
「口出しはするよ。聖蘭ちゃんはウチの大事な友達なんだから。本人が望まない事をさせたいと思う?」
真那華は聖蘭を茶化したりしてるが、これを聖蘭が望んでるとは思っていない。
「・・・・・・まぁ、俺もこれは強引だと思っていた。だから、聖蘭がどうしたいか聞こうとしたら、お前ときたら・・・・・・」
承も元々は聖蘭本人が望まないことをさせる事には反対ではあるが、ヴァリタス達の悲願であることも無視出来なかった。
だからこそ、その答えを聖蘭に委ねる事にしたのである。
それが、彼等の神である聖蘭の答えなら蔑ろにはしないだろうという考えが承にあったからである。
「なんだ、結局考えてることは一緒なんじゃん」
「そりゃそうだ。お前が先走り過ぎるだけだ」
真那華と承は過程が違うだけで、考え方は似ているところが多い。
「それで、聖蘭はどうするんだ?」
承は聖蘭にどうしたいか尋ねる。
「え?ちなみに神になると私はどうなるの?」
聖蘭はまずそこから気になった。
「全ての障害から我々がお守りします」
「その姿で?どうやって、私を守るの?」
聖蘭は当然、そんな疑問を持つ。
「それは・・・・・・」
ヴァリタスはその質問に対して言葉が詰まる。
「私には真那華や潤という心強い味方がいるんだけど、あなた達にその代わりを務められるの?」
「・・・・・・うぐ、逆に我等が神は何を望むんですか?」
ヴァリタスは聖蘭が自分達に何を望むか知りたかった。
「そうね。さっき、やっと安寧の地にいられると言っていたわね」
「それがどうかしましたか?」
「その貴方達が手に入れた安寧を守りなさい。私ではなく、自分達の幸せのために生きなさい」
聖蘭は彼等を神という存在で縛りたくなかっただからこその答えだった。
「御意、それが我等の神のお望みならば我々もそうさせていただきます」
ヴァリタスはそういうと承が開けた空間の中に消えた。
「なんか凄く潔くない」
「それが聖蘭の望みならそれを叶えるのが彼等の望みだということだろう。だが、これこそ彼等にとって最も必要なことなのだろうな」
真那華はヴァリタスのあまりの潔さに拍子抜けしたが、承は今までダンジョンに閉じ込められてたからこそ必要なことだと思っている。
「そういえば【魔狼憑依】について聞きそびれたわ」
「それは俺が聞いてるから問題ない」
聖蘭は【魔狼憑依】について聞きそびれた事を後悔していたが、そこは承が聞いていた。
「一つが飛躍的な運動能力の上昇、特に敏捷性が上がる。二つが【獣気】を扱える。こいつは武器に纏わせる事が出来ない代わりに手に爪を鋭利にするイメージで纏わせると爪による斬撃ができるらしい。やろうと思えば足でもできるらしい」
「本当に獣みたいな能力なんだね」
真那華は承の説明でまさか本当に獣のような力だとは思っていなかった。
「三つ目は真那華には伝えたが【遁術】そして、最後の一つが【完全憑依】、【獣気】を完全に扱えるようになって初めて扱える力でどうなるかは伝承でしか伝わっておらず、その力は大地を切り裂き、天を揺るがし、理を噛み砕くとされている」
「それは確かに、神様と崇めたくもなるね」
「でも、それだと聖蘭ちゃんのあの人間離れした動きが説明出来ないよね」
真那華は承の説明だけでは、聖蘭のあの人間離れした動きの説明が出来ないのであった。
「たぶんアレは、【魔狼憑依】含む様々な要因が上手く合わさり噛み合った結果できるようになった可能性があるな。流石にアレばかりは俺も分からない」
承からみても、どうしてあんな離れ技が出来るのか分からないのである。
「そういえば、野性的な勘が増す事もあるからその影響で【感知】の精度が上がるかもしれないとも言ってたな」
「ちなみにそれでレア素材とか分かるかな?」
真那華のもう一つの疑問は聖蘭のセルフスキル【レアハンター】である。
「それは難しいんじゃないか?出来ないと断定できないところが苦しいところだが、俺は知らない」
それについては承ですら分からなかった。
「うん、やっぱり聖蘭ちゃんが一番おかしいんだね」
「誰がおかしいのよ!」
聖蘭はこれでも、この面子の中ではまともだと思っている。
「そうだね。それは間違ってないかな。流石の僕もレアを感じ取った時の君にはドン引きだよ」
「筋肉と会話出来る貴女にだけには言われたくなかったわ」
聖蘭は筋肉と意思疎通する潤にだけは、言われたくないことだった。
その頃、東京の管理局で保護され観察処分を受けている仲間達の元にヴァリタスは戻った。
「我等の神、聖蘭様の望み、それはこの安寧の地で幸せにすごすこと。聖蘭様は自分の幸せよりも我等の幸せを優先してくれた。なんと尊いことだろう!我はこれほど我等の神に仕えて感激した事はない。だからこそ、我等はまずこの地球について知り、我等の神のお力になるのだ!我等にとっての幸せは我等の神の幸せなのだから!」
「そうだ!」
「聖蘭様、ばんざーい!」
「ばんざーい!」
スロープ族達は歓声に包まれるが、側から見れば、動物達が集まって吠えてるようにしか見えないのである。
聖蘭は一つ勘違いをしていた。
それは彼等にとっての幸せというのは、神である聖蘭の幸せということなのだ。
だからこそ、ヴァリタスはその言葉に感銘を受け潔く引き下がったのである。
彼等はまず、地球を知る事で聖蘭の力になろうとしていた。
そして、そのスロープ族の扱いは管理局の上層部は慎重だった。
それは初の異世界の住人の交流なのと同時に彼等の動物形態が、他の動物と区別が付かないからである。
大きな違いは、スキルの有無、それだけである。
見た目で判断するのは困難を極めるのだ。
「それで、伊達局長・・・・・・スロープ族の件はどうするんですか?」
管理局東京支部の支部長が局長である伊達政斗にスロープ族をどうするか幾たび繰り返された議題が上がる。
「まだ、公に出す情報ではない。まず、彼等から話しを聞き、親睦を深めてから公表の流れを取ろうと思う。こればかりは慎重に話を進めていかなければ、彼等に対するいらぬ誤解を生みかねない」
伊達政斗は、一貫してこの答えを曲げないのである。
「それは分かりますが、もし誰かの口から漏れでもしたら、我々管理局の信用問題に関わりますよ」
支部長は管理局が異世界の住人と結託して何かを企んでいるというデマを流されることを警戒しているのである。
「確かにいつまでも黙秘を貫くなど難しいのは、分かっている。だからこそ、この会議はそのリスクが少ない者のみで行っているのだ」
伊達もこの件に関しては頭を悩ませているのである。
「それに、彼等のおかげで我々も知り得ないことも知れた。これは歴史的快挙でもある。不安要素もいくつかあったが、これなら来週の頭には公表出来そうだ」
「それは私が思ったより、早く公表できそうで良かったです」
スロープ族の持ち込んだ情報は人類にとって有益な情報と同時に厄介な情報も孕んではいたが、スロープ族に関してはもう少し交流してから公開したかったのである。




