猿はファンネーム
例の決闘の翌日、ネットはS級が見ず知らずのクソガキに敗北し土下座したという話題で持ちきりだった。
とある『潜行者』によるグループチャットではこんなやり取りをしているのであった。
匿名希望1:アレって合成とかフェイクじゃないの?
匿名希望3:管理局がそんな事するか?したとしても自分達の不利になる事はカットするくらいだろう
匿名希望2:というかこのガキ言葉遣いヤバくね。
匿名希望3:煽り散らしてイキッてるただのクソガキじゃん。
匿名希望4:だが、ガキはガキでもS級とやりあえるガキだ。
匿名希望1:そういえば、今日って無名の剣聖さんって来ないのかな。
匿名希望2:いつも神出鬼没だから分からん。
変態紳士:呼んだかな?
匿名希望3:お前じゃねー
匿名希望1:お前じゃねーよw
変態紳士:いつも思うが我輩の扱い雑じゃないかね。
匿名希望2:普段の行いがな。
変態紳士:そんな事より、見たかい?あのカナたんの【模倣】を
匿名希望3:キッショ、須藤管理官をそう呼ぶのお前くらいじゃね。
匿名希望1:まぁ、須藤管理官は日本に二人いるS級の一人だから、人気あるからね。
匿名希望3:知名度的な意味なら黒鉄の方が高いんだけどな。
匿名希望4:そもそも【模倣】だっけ?よくもそんな人の猿真似でS級なんていえたと思うけどな。
変態紳士:カナたんを馬鹿にするでない!
匿名希望3:実際、クソガキに煽られて馬鹿にされて土下座までさせられたんだけどなwww
匿名希望4:そもそも、アレってコピー出来てたのか?
匿名希望1:炎の剣が浮いてた奴ね。出たと思ったら荒ぶって消えたよ。
匿名希望2:えっ?それってつまりコピーしたものの使いこなせなかったって事?欠陥スキルやん!
匿名希望3:どっちが?
匿名希望2:コピーの方だが?相手のスキルに依存する以上癖があるスキルをいきなり使いこなせは無理があるだろ。
匿名希望4:だから、その程度のスキルでS級っておかしくないかと言っている。
変態紳士:それでも、カナたんは起源ダンジョンのボスと最前線で戦ってる。
匿名希望1:実力が本物なのは確か、アノ黒鉄すらタイマンで戦ったらどうなるか分からないとインタビューに答えてる。
匿名希望4:社交辞令ワロタwww
匿名希望2:それはそう、黒鉄ならきっと負けなかった。
変態紳士:それはどうかな?
匿名希望1:どういうこと?
変態紳士:よくよく考えてみてくれ。カナたんがコピーしたスキルは失敗に終わったが、アレはおそらくファンネルに間違いない。
匿名希望3:ファンネル!?
変態紳士:まさか、我輩がカナたんの言葉を一言一句間違えるはずがなかろう。
匿名希望4:キッショこいつ、何言ってんの?
匿名希望2:まぁ、こいつが気持ち悪いのは今に始まった事じゃない、とりあえず話だけ聞いてみよう。
変態紳士:【従魔剣】と言ってたから字面からあの剣を出して操るスキルじゃないかと予測する。
匿名希望1:えっ?それじゃあ何?あのクソガキはあの剣を操る事も出来たの!?
匿名希望4:完全に舐めプで草
無名の剣聖:なんだ、なんだ楽しそうじゃない。
匿名希望1:剣聖来た!!
匿名希望3:コレで勝つる!!
変態紳士:我輩との扱い違くない?
匿名希望2:剣聖は例の動画見た?
無名の剣聖:あー見た見た。なんかムカつくよね。
匿名希望3:剣聖さんもやっぱムカつきますよね。
無名の剣聖:流石に頭に来たね。
匿名希望4:分からせるつもりが、分からせられたみたいにならないでよ。
無名の剣聖:ああ、当然だ。
匿名希望1:でも剣聖ってA級じゃ・・・
無名の剣聖:ふっ、確かにAランクだが、俺こそが剣士最強、最強は二人もいらないだろ?
匿名希望2:あ、駄目っぽい
そんなやり取りを剣聖こと、御鶴城誠がしていた。
職業はダンジョン配信、趣味は釣り、登山、彼女募集中のアラサー独身男性である。
(見れば分かる。確かにこの小娘は強い。高い熟練度の【剣術】だ。俺もそれなりには鍛えたつもりだがアレは俺でも防げない。だが、剣士最強は二人もいらない)
御鶴城は筋トレをしながらいずれ戦うであろうクソガキに思いを馳せていた。
その頃、真那華は承と一緒に部屋に必要な備品の買い出しをしていた。
「兄ぃ、こっちこっち」
「まったく、落ち着け」
「兄ぃ、このコップ可愛くない?」
真那華は久々のショッピングに心躍らせる。
「ねぇねぇ、アレって試験の時使ったカメラだよね」
真那華の指差す先には試験の時に使ったものより高性能な追従カメラがあった。
「そういえば、ダンジョン配信に興味がありそうだったな」
「うん、今なら歌って戦えるアイドル目指せそうじゃん」
真那華は例の大災害がなければアイドルになりたいと親と話していた。
親からすればもっと安定した職について欲しかったみたいだが、今となってはもう話すことすら叶わない。
それならせめて、夢を叶えてやるのが兄の務めであった。
「昔からアイドルになりたいと言っていたな。今でも変わらないのか?」
「うん、でもダンジョン探索も好きだから『潜行者』になりながらアイドルを目指すなら配信してトップを目指さないと駄目だね」
「そうか、なら頑張らないとな」
承はその追従カメラを手に取る。
「うん」
真那華は承に笑顔で答える。
帰宅後、晩御飯はジビエ料理とほんの気持ちばかりの野菜料理である。
「そういえば、怪物のお肉って美味しいのにどうして誰も食べないんだろうね」
「まぁ、普通は食べようとしないんじゃないか。俺たちみたいにダンジョンに囚われたりしない限りは」
この『モスボア』の肉は臭みがなく爽やかな味わいである。
「まぁ、ウチらも確かに最初は抵抗あったからね。分からなくはないかもねー」
実は怪物の食材には微量ではあるが魔力を活性化させ増幅させる効果がある。
しかし、その効果を発揮するには継続して食べなければならないのだ。
その事実については二人も知らないのである。
「そうそう、チャンネル作ったんだけどコレどうよ」
二人で契約したスマホは同じものの色違いで、真那華はスカイブルー、承はシルバーである。
そのスマホの画面に自分のチャンネルを映す。
『天才魔法剣士マナの攻略部屋』
そこには派手なデザインのバナーが出て来てコレは本当にダンジョンの攻略動画なのか疑問で風俗のチャンネルと言われてしまえばそれまでのデザインをしている。
そして、アイコンは可愛い猿である。
「派手だな」
「そう?これでも抑えたつもりだよ」
真那華はSNSに配信の予定を送信する。
その日は明日の朝で起源ダンジョンではないが、C級のダンジョンである。
その為、真那華は少し不満そうでもあった。
「明日の配信は食材集めと料理にするね」
だからこそ、真那華は食材として美味しそうな怪物が出るダンジョンを厳選した。
自宅から電車で約50分、『水泡の湖』というダンジョンで魚系の怪物が出るダンジョンである。
空中に水泡が浮かんでおり、その中を魚系の怪物が泳いでいるダンジョンである。
真那華はこのダンジョンに棲息するレアエネミーが目的であった。
翌日、真那華はダンジョンに入り配信を開始する。
「猿の皆様、ご機嫌いかが?初めまして天才系配信者マナだよー」
真那華は始めの挨拶を始める。
「今回の配信はウチがどういう『潜行者』か分かってもらう事も兼ねて、この『水泡の湖』のレアエネミー、『ボルテックロブスタ』を倒して料理して食べる。出るまで狩るだけ耐久だよー。出なきゃボス倒して何度でも挑戦、ね、簡単でしょ」
真那華は簡単な説明をすると怪物狩りを開始した。
匿名希望2:大変な事になった。
匿名希望1:どした、話聞こうか?
匿名希望2:ダンジョン専門の動画配信サイト『DanTube』の『天才魔法剣士マナの攻略部屋』を見てみろ
匿名希望4:ふぁ!?
匿名希望3:嘘だろ。
匿名希望1:え、あのクソガキじゃん!
匿名希望4:なんか、『ボルテックロブスタ』出るまで耐久なんて馬鹿な事始めたけど?
匿名希望2:いや、食べる事にまずつっこめよ!
匿名希望1:しかも、そのレアエネミーって『水泡の湖』にしか出ない激レアのエネミーじゃなかった?
匿名希望3:レアなだけで別段いい素材を落とす訳でも無いから誰も狙わないしね。
匿名希望4:そもそもダンジョンの怪物って食えるの?
匿名希望1:そもそも誰もあんなグロいの食べようなんて思わんだろ。
匿名希望4:それもそうだよな。でも、今回狩りに行くのってよくよく考えたらエビだよな。
匿名希望3:惑わされるな匿名4!!『ボルテックロブスタ』はエビじゃない!エビであってたまるか!
匿名希望2:発見情報が少ないからハッキリとは言えんが銀色の甲殻に金の触角、複眼レンズのような眼、しまいにはハサミから電撃を放つらしい。
匿名希望4:今、画像見たけど完全ロボットじゃん。騙されるところだった。
匿名希望1:このクソガキはそれを食おうとしてるの?
変態紳士:盛り上がってるね。どしたの
匿名希望2:出たな変態
変態紳士:『ボルテックロブスタ』の話ししてる?言いにくいけどアレロボじゃなくエビだぞ。
匿名希望4:どっちを信じればいいんだーーー!
そして、波瀾万丈な初配信が始まった。




