剣聖名誉猿になる
『バルムンク』での依頼を終えた翌日、真那華は一人C級ダンジョン『人喰いの森』で配信を行っている。
「はーい、お猿さん達。元気してたかなぁ。ウチはいつでも元気だよー」
真那華は一人配信の挨拶を済ませる。
「そういえば、『グラフェンナーワル』のレイピアが出来たんだけど受け取ってくれたかな?」
『受け取る?』
『管理局で受け取ったが』
『まさか、管理局の受け渡しサービスか』
『実際、装備系は宅配使えないからどうするんだろうと思ったけどそういう事か』
『名前とID番号分かれば送れるからな。応募要項に記入したじゃん』
ダンジョンの素材や装備類は宅配サービスで送るのを禁止しており、直接の受け渡しか管理局で出来る受け渡しサービスによる受け渡ししか出来ないのである。
その理由はダンジョン素材の中には危険物が存在し装備類は物によっては宅配業者の配送員が盗んで失踪した事案が多く寄せられた為である。
『俺も受け取ったが、これ低ランクは持っちゃ駄目だろ』
『そんな、強いの?』
『エネルギー溜まると突きでビーム撃てる』
『は?』
「だって、それ高品質の『蓄電結晶』で電気を溜めて『グラフェンナーワル』のツノの力で電撃を放てるウチとセイラちゃんの力作『ホワイトサンダー』だからね」
『どっかのお菓子っぽい名前だな』
『マナ様、お菓子好きそうだから』
「確かにウチは甘いお菓子は全般好きだけど、名前付けたのセイラちゃんだからねぇ。配信終わったら伝えておこうかな」
『やめてください』
『それだけは』
「でも、セイラちゃん曰く、ビームはそこまでの威力は出ないと言ってたんだけどなぁ。ウチも使った感覚的に初級と中級魔法の中間くらいの威力だなとは感じたよ」
真那華も実際に使っているのでその威力は知っている。
『いや、充分だから!』
『魔法使い泣かせにも程がある!』
『剣士が遠距離ってそれやると、魔法使いの存在が霞むんだよ!』
「え?でも、使用者のスキル構成に依存しない威力なんだよぉ」
『余計、質悪いわ!』
『通りで、E級の僕でもE級ダンジョンの怪物達を瞬殺出来た訳だ』
『やっぱり、これ低ランク帯の潜行者は持っちゃ駄目だろ。自分の実力と勘違いする連中が増えるぞ』
「うーん、確かにそうだけど耐性ある奴には全然効かないから、これで俺ツエーってなってるお猿さん達は、耐性持ちに当たれば痛い目みて多少学べば少しは、賢いお猿さんになるんじゃないかなぁ。それでも学ばない残念なお猿さんは身の程を弁えて動物園に永久就職すれば良いんじゃないのぉ。あ、もちろん飼育員さんとかじゃなくてお猿さんとしてね」
真那華は装備の優劣だけでは人は成長しない事は重々承知の為、今回は特訓を動画にしようと思った。
「装備の性能で俺ツエーってなるお猿さんは強い装備を使ってるんじゃなくて使われてるだけなんだよねぇ。結局、本人が強くならないと武器や防具の性能に遊ばれるだけ、ウチらが強くなる方法はスキルの育成、それだけかな。装備がいくら強くてもウチらが強くならなきゃ。その先はないからねー。だから、今回はいつもより退屈させちゃうけど特訓配信になっちゃうかなー♪」
『そういえば、いつもは剣持ってるのに今日は持ってないな』
『マナ様はステゴロもいけるから問題ないだろ』
『【従魔剣】もあるからな』
真那華は今回、剣を持参していない。
「特訓するスキルはずばり【感知】これをメインで使っていくよー♪」
『え?』
『正直、一番どうやって育成するのか分からないスキル筆頭なんだが?』
リスナーのコメントは困惑で溢れ返っている。
「ダンジョンに入った瞬間から【感知】を常に維持して維持しながら戦えば良いだけなんだけどなぁ。簡単でしょ」
『いや、【感知】ってかなり集中力使うから維持なんて』
『しかも、戦闘中も維持するって難しくないか?』
『本当、簡単とはよく言ってくれるよ!』
真那華の言う【感知】の常時使用は慣れてない人からすれば難しいのである。
真那華が【感知】を特訓に選んだ理由が承の行ってるダンジョンに深い理由がある。
それは承が行ってるみたいなダンジョンがまた現れた時、なるべく犠牲者を出さない為に【感知】を選んだ。
真那華と承は知能を持つ怪物を相手取る場合【感知】の常時使用は必須技能だと考えている。
これが出来ないと今回、承達が受けた襲撃のような事が起これば一瞬でパーティの全滅は確定する。
「まぁまぁ、落ち着いてくれないかなぁ。今回は特別にお猿さんでも分かるように解説するからさ。一言で【感知】と言っても大きく分けて五つの傾向に分かられるんだよ。その一つが皆が無意識下で使ってる危険感知だね。これは気配や音で感知するタイプだから、【隠密】とかには反応しない事の方が多いかな」
『解説始まった』
『ぶっちゃけ【感知】の能力ってそういう能力だという認識だったからな』
「そして、二つ目、索敵感知。周囲の敵の気配を感知することが出来るけど、これも【隠密】を使われたら感知するのは困難なんだよね。だけどこれくらいはお猿さん達なら出来て当然だよねー」
真那華にとって【感知】を使うならここまでは出来て当然だと思ってる。
『最近出来るようになったんだが』
『え?僕猿以下って事?』
「うんうん、猿以下でも練習すればこれくらいまでは普通に出来るようになるよ。三つ目は魔力感知、その名の通り気配だけじゃなく魔力を感知する。でもこれは魔法系のスキルを持っていて魔力への理解が深くないと体得は難しいんだよね。でも、一番の利点は感知するのが気配じゃなく魔力だという事、【隠密】では気配や音は消せるけど魔法の痕跡や自身が持つ魔力は消せないって事なんだー、ちなみにウチはこの傾向が強いかなー♪」
真那華の【感知】はマルチではあるが、魔力感知が必ずかかる為、魔力感知の傾向が強いのだ。
『それは初めて知った』
『魔法使いやってる奴がたまに魔力が見えてるのって【感知】の影響だったのか!』
「それはただ無意識的に見えてるだけだね。でも、それで見えてるならすぐに【感知】でも感じ取れるようになるねぇ。さて、次は地形感知って奴で周囲の地形を感知し認識する事が出来るけど、これはあまり使う事はないから説明は省くよ」
真那華も使えない事はないが、屋内ダンジョンで壁の向こうがどうなってるか知りたい時に便利程度の認識しかない。
「そして、最後が最も難易度が高い【動作感知】相手の動きを先読み出来るんだぁ。最も高い集中力と精度、高い成長度の【感知】が要求される高等技能、それが【動作感知】だよ。ウチでも成功率四割くらいしかないんだよね」
『【感知】って極めるとそんな事も出来たの?』
『そもそも、その域に達する事が出来るかどうか』
『マナ様クラスで四割だぞ』
『でも、近距離のアタッカーやタンクやってる奴は欲しくはあるな』
『実際、怪しいとこあるけどミツルギが実践して出来てた事があるからなぁ。嘘とは言い切れないのがなんとも』
『そういや、ミツルギの奴、猿のカチューシャ付けてマナ様の筆頭猿を自認してたな』
『むしろ、猿になってから驚くほど強くなってる。次のS級候補とも言われてるな』
『というか【感知】と固有スキルの【超反射】で似たような事してないか?』
ミツルギはどういう訳か真那華が、なしにした罰ゲームをむしろノリノリでやっており、真那華の筆頭猿を自認している。
「昨日ちょっと見たけどたぶんあれは見えてるんだよね。でも、まさかあそこまで嬉々として猿のカチューシャを付けて配信する所に敬意を感じたから名誉猿としてチャンネル登録とSNSでフォロー付けたんだよねぇ」
真那華はたまにミツルギの動画を見て成長をチェックしており、決闘をした頃よりも強くなっていて関心していた。
『だから、ミツルギSNSであんな嬉しそうだったのか』
『まさか、見られてたなんてな。最近時々一瞬だけ怪物の先の動きが見えるのはそういう事だったのか』
『まさかの本人登場!』
『いや、いるだろ。名誉猿だぞ』
『え?という事は・・・・・・』
『こんな形だが、また俺がマナ師匠の正しさを証明してしまったという訳だ』
『いつの間にか弟子にまでなってるー!』
『本人は別に教えを乞われてやってる訳じゃないんだけどな』
まさかのミツルギの登場でコメント欄が騒然となる。
「うんうん、証人もいる所で今回はその中で索敵感知を鍛える為に常時【感知】を使っていくよ」
『いや、『人喰いの森』って【隠密】持ちの怪物が多い事で有名なんだが、自分で【感知】出来ないって言ってただろう?』
「うーん、ウチは困難と言っただけで出来ないとは言ってないんだけどなぁ。もしかしてぇ、お猿さんの頭で勝手に脳内変換されちゃったのかなぁ、困難と出来ないはそもそも意味が違うよねぇ。もういっそ小学生からやり直した方が良いんじゃないかなぁ。まぁ、お猿さんが通える小学校が有ればの話しなんだけどー」
『流石の煽り』
『むしろ、待ってたまである』
『もはや、言われたくてやってるだろ』
真那華の煽りはもはや配信内の一種の芸と化していた。
「そうだ、せっかくだから【隠密】がどういうスキルか説明しちゃうよー♪【隠密】は気配と音を消すスキルと言われてるけど、その精度はやっぱり熟練者ほど高くてね。成長度が低いとあまり意味のないスキルではあるかなぁ。でも、過小評価は出来なくてね。魔力感知は考えないものとして弱点は見つかったらしばらく効果を失うことと姿自体は隠せないというだけ、この問題さえ解決できればかなり厄介なスキルなんだよねー」
それは正に現在、承達が挑んだダンジョンに出現した獣人の事である。
「もし、そうなったらお猿さん達ならどうするかな?」
真那華はリスナー達へ質問を投げかける。
『ん?それって見つからないから効果を失う欠点もなくなってないか?』
『そもそも、姿が見えれば対応は出来るが見えてないと無理だろ』
『そもそも、姿を消す方法も【幻魔術】を使えば出来なくもないが、【幻魔術】は時間制限あるし、その度に掛け直す手間があるから現実的ではないんだっけ』
『そんな怪物がいたら対処出来ないだろ』
『【感知】だろ。それしかない【隠密】は使用者の熟練度が高ければ精度が高くなるなら、それを上回る【感知】の熟練度があれば対策出来るんじゃないか』
『それだ!!』
『流石、名誉猿なだけはある』
名誉猿ことミツルギは【感知】をかなり鍛えていたので導かれる答えだった。
「正解、流石ミツルギ君ね。その辺のお猿さんとは訳が違うよ。これは今後に期待かな」
『マナ様が名前を呼んだ!?』
『これ本人絶対嬉しい奴だろ』
『大ファンだからな』
『今頃喜びで発狂してそうだな』
その頃、御鶴城は感極まり過ぎて過呼吸に陥っていた。
「そう、正解はミツルギ君の言った通りなんだよねぇ。【隠密】を上回る成長度の【感知】になるとそれより成長度の低い【隠密】は簡単に【感知】出来るようになるんだよねぇ。ここまで来れば特訓にこの場所を選んだ理由も分かったでしょ」
『まさか、【感知】を鍛える方法って』
『たぶん、【隠密】を見破れるようになるまで【感知】するという事だ』
『【感知】を常時使えるようにするのとどういう関係が?』
「理由は簡単、不意を突かれてもすぐに対応できるからだね。それと【感知】が低いと【隠密】は見つからない。でも、最初はそれで対応するだけで充分、段々と見えてくるんだよねぇ怪物の動きがさ」
その時、背後に迫る草に擬態した怪物が真那華の裏拳で倒される。
「こんな風にね」
『こんな風と言われてもな』
『やっぱり、ワンパンかよ』
『まったく参考にならん』
コメント欄は真那華の強さでは参考にすらならないというコメントで溢れ、真那華の特訓配信が始まるのだった。




