理不尽ってこういう事
真那華の兄、宗像承は成績優秀な妹と比べると平凡ではあるが努力の結果、倍率の高い大学に入学、夏休み中に実家にいた時に大災害に巻き込まれた。
ダンジョン内ではスキルに恵まれた真那華に対し、【闘気】、【武術】、【感知】、【空間操作】というスキルのみで固有スキルである【空間操作】も扱いが難しいスキルでものを収納するくらいしか使い道がなかった。
「ここで終わるなら兄ぃは、ウチの知ってる兄ぃじゃないもん!」
自分自身の力のなさに自身に失望したが、真那華の言葉が彼の心に火をつけた。
「この先にボスがいるのか」
真那華が一層の怪物を撃退しながら突き進みボス部屋前まで辿り着く。
「兄ぃ、本当はウチが、ウチが、やりたいけど、約束だからねぇ。ねぇ、ボスだけ倒す為にもう一度入っていいのかなぁ」
「管理局の許可が出ればな。とりあえず落ち着け」
妹はどうしてもボスと戦いたかったが、真那華のみの試験ではない為、ボス戦を承に譲ったのである。
「何度も言うけど一瞬で終わらせちゃ駄目だからね。カメラの向こうも困惑しちゃうから」
「1%だったか?まったく難しい事を言ってくれる」
「せめて、欠片でもいいから素材は残せるようになってから言って欲しいよね?」
アレだけ煽り散らかしてた真那華も呆れ気味にツッコミを入れる。
「遂にボス戦か、早かった凄く早かった」
『潜行者』達が最初に攻略した時はほぼ半日を費やした。
しかし、真那華は寄り道しながらで一時間半くらいでボス部屋前に辿り着いた上に全然疲弊してる様子すらない。
「あのボスは『ウォーリアウッドゴーレム』我々が何度も何度も辛酸を舐めさせられた怪物だ!」
それは約32年前、五度目のボス部屋に到達した時だった。
当時の『潜行者』一行は選抜の選りすぐりのメンバーで、その時は国を挙げての大勝負だった。
『ウォーリアウッドゴーレム』は高い耐久力と他の怪物にはない再生能力を持っている怪物でまともなダメージを与えてもゆっくりではあるが徐々に回復し元に戻ってしまう。
動きがそこまで速くないのがせめてもの救いだが、一撃一撃に致命傷クラスの攻撃力がある。
再生能力の回復力と回復速度を上回る攻撃を与え続けるしか勝機はなく、倒すのには苦戦を強いられた。
一層のボスとの戦いは時間と火力との勝負で、真那華はその二つを両立出来るので当時に真那華がいれば苦戦はしなかったと北条は思っていた。
しかし、そこで前に出たのは北条の予想を裏切り、承だった。
「まさか、ここで出て来るなんて、私としては精神衛生上助かりますが」
須藤は真那華が怪物を煽る度に暴れるので、椅子に縛られ拘束されている。
「俺はよく分からんが彼は強いのか?」
須藤は既に承の実力を理解したのかと北条は察した。
「いえ、分かる訳ないじゃないですか、彼がやってたのは妹のサポートだけですよ。確かにサポーターとしてはかなり優秀な部類ですが強いかは分からないです」
須藤は承のサポートとしての能力は認めているがだからといって強いとは思っていない。
「さて、始まりますよ」
承の目の前に現れたのは巨大な杖を持つ木の巨像だった。
木の巨像が杖を振るうと周囲の樹々から複数のツルの槍が放たれる。
「・・・・・・え?」
困惑したのはその場で戦ってる承や真那華ではなくモニターを見ている北条だった。
「北条さん、アレってどう見ても『ウォーリアウッドゴーレム』じゃありませんよね!」
当然、須藤は目の前のモニター越しで戦っている怪物は『ウォーリアウッドゴーレム』ではない事に気付く。
「レアエネミー・・・・・・他のダンジョンでもボスのレアエネミーは確認されているが、これは想定外だ」
レアエネミーは当然、該当の階層にいる怪物より能力が高く危険度は跳ね上がる。
それはボスにも該当するが、ボスのレアエネミーが出現するには条件が決まっており、条件を満たさなければ出ない事は周知の事実であった。
「おそらく、『ビッグモス』か『シェルダーブル』もしくはその両方の討伐が条件になってたんでしょうね」
須藤は冷静に分析するが、目の前で起きてるイレギュラーは北条にとって本意ではない。
その不規則なツルの槍を回避のみで凌いでるのが異常なのだ。
巻き添えを食ってる真那華は、剣と【従魔剣】で凌いでる。
「兄ぃ、ウチの事はいいから回避に専念して」
真那華でさえ剣と【従魔剣】で凌いでいるが、承は身一つで回避している。
それは承には見えているからである。
数秒先の未来が見えてるので避けられる。
【感知】を極限まで高めた結果、少し先の未来すら感知できるようになった【未来感知】に極限化した。
承はそのスキルを使い、先の未来を知り避けてるだけなのである。
杖で植物を操り攻撃する木の巨像『ウィザードウッドゴーレム』は避け続ける承に絶対に避けられない全方位からのツルの槍で攻撃した。
「それも見えてたんだが」
当然、その槍は承を貫いているが承は血を流さないどころか怯みもしない。
まるで承のいる場所のみすり抜けるかのようにツルの槍は貫通しているのだ。
【空間操作】、その扱いの難しさは極めた承が一番知っている。
ミスれば身体の一部を失うか死、その恐怖を克服して初めて使いこなし極める事が出来る。
承は冷静かつ慎重だが、その裏には恐怖をものともしない狂気を秘めている。
承の【空間操作】も極限まで極めたことで【空間支配】に極限化し、彼の理不尽かつ無敵に一役買っており、【未来感知】と組み合わせる事で攻撃に合わせて空間を捻じ曲げ回避するという離れ技を可能にしてしまった。
「もう、終わりにしよう」
承は空間移動で『ウィザードウッドゴーレム』の目の前に立つとデコピンを当てると同時に『ウィザードウッドゴーレム』は粉々に砕けた後、散り散りになり、素粒子になるまで分解され消滅したが、杖の先端に付いていた茶色い宝石だけはかろうじて残った。
「やはり、加減が難しいな」
承は力の加減を調整したが真那華のいう1%という調整が上手くいかず少し不満であった。
「アレで当たらないなんて本当に理不尽でふざけてるけど、約束通り素材は残ったから良しとしようかな」
当然、真那華はあの程度で兄が死ぬとは思っていない。
兄は最強ではなく理不尽で無敵なので、真那華は最強でいられると思っているからだ。
「・・・・・・今、何が起きた」
北条はモニターの先で何が起きたのか分からなかった。
ツルの槍が承を貫いたと思ったらその瞬間、怪物が消滅していたのだ。
頭が理解に追いつかないのである。
強いとか弱いとかの次元ではなく、その力はあまりにも理不尽であった。
(やはり、ただの【空間操作】のスキルでは無さそうですね。あの状況であんなスキルの使い方をするなんて一種の狂気ですよ)
須藤はあの行為が一歩間違えれば承もただでは済まない事を理解しており、その行為を迷わずやる事への狂気を感じていた。
【空間操作】は扱い難いスキルかつ扱いを間違えれば死に直結するスキルであり、誰もが使いこなすのを諦め荷物を入れるのに留めておくのが精一杯である。
「妹は腹が立つ程に無茶苦茶でしたが、兄はそれを余裕で超える理不尽です。あんな事、誰もしませんし出来ませんよ」
そもそもあの縦横無尽の不規則な攻撃を避け切る事すら難しいのである。
「それで、気は済みましたか?」
「あぁ、間違いなく彼も合格だ」
ダンジョンから出ると真那華と承が帰還すると北条のいる管理課に呼び戻される。
「これはもう疑いようもない。二人共合格だ」
北条は戻って来た二人に資格証を渡すと同時に書類を渡す。
「資格証は分かるがこれは?」
「俺から推薦で『潜行者』が通う学校に妹を学校の生徒として編入させるからその為の資料だ。流石にその歳でダンジョンに入り浸りは健全ではないからね。それと必要なら君には就職の斡旋はさせてもらうよ」
北条は承に書類の説明をした。
「ウチは天才で最強だからいらないんだけど」
「いや、『潜行者』としての実力は分かったけど学業は疎かにしてはいけないよ」
北条は学業の大切さを真那華に諭す。
「兄ぃはどうするの?」
「俺は仕事でも探す事にするさ。せっかく、就職の斡旋をしてくれるらしいしな」
そう話しながら承は戦利品を虚空から取り出す。
「ありがたく思いなさい。本来ならウチらのものとなるこの宝玉と『シェルダーブル』の角は譲ってあげるんだから。忘れないよう感謝する事ね!」
真那華は怪物を倒した成果を取られるのは気に食わなかったが、お金がない事には何も出来ないので素直に従った。
「北条さん、やはりそのクソガキを即刻再教育するべきでは?」
須藤は完全に真那華にムカついていた。
「それと今回はこちらに完全に落ち度があった。まさか、ボスのレアエネミーが出現するなんてイレギュラーが発生するとは」
「北条さんが気にする事ではない。今度は真那華が挑めるように便宜を図ってくれれば構わない」
この兄はやはり妹に激甘だった。
「ぜ、善処しよう」
今回は特別調査として起源ダンジョンを利用できたが起源ダンジョンを利用するにはS級の『潜行者』の同行と管理課の許可が必要となる。
「今回が特例なだけで普段はS級の『潜行者』が同行しないと入れません」
須藤は今回が特例で普通は入れない事を説明する。
「基本的にはE級からのスタートなんだけど君達のような『潜行者』を腐らせるのは問題だと思って無理を言ってC級からのスタートにしたよ」
北条はだいぶ無茶を言って二人をC級にしたが、その苦労を二人は知らない。
「それにこれはマナー違反だという事は重々承知で聞くが、承といったか?君のスキルは一体どうなっているんだ?」
北条は真那華のスキルも気になったがそれ以上に承のスキルが一番気になった。
「俺が持っていたのは【闘気】、【武術】、【感知】、【空間操作】それだけだ」
当然、北条はその全てのスキルを知ってはいる。
【空間操作】以外は『潜行者』にとって必須級とも言えるスキルなので特別凄い事はない。
だが、熟練度が桁違いなのだ。
「どうやら、俺達とこの世界の人達はスキルの認知に大きな差があるみたいだ」
承は北条達の様子を見て、スキルの認知度の違いを見抜く。
「認知の違い?何を言っているんだ?」
「なら、分かってる事を話してくれないか?」
「知ってるも何もスキルはあの大災害の後に人々が得た恩恵であり力、俺達は一般スキルまたは基礎スキル、魔法を使うのに必須となる魔法スキル、個人が固有に持つ固有スキルこれが一般常識だろ」
「「ハァ」」
その答えに対して二人は大きな溜息を漏らす。
「ここまで、スキルについての認知に差があるなんてふっしぎー。だから、あの程度でボロボロのボロ雑巾にされちゃうんだね。弱々ー」
真那華は煽り散らかす。
「煽るな煽るな。それなら説明できるな」
「あったりまえじゃん。ウチ天才よ」
承は真那華の煽りを抑えつつそこまで言うからには分かるんだろという意味を込めて真那華に説明を頼んだ。




