表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/12

第4話 白天使

 師長室に呼ばれた。



「前にプリセプターの話をしたよね」



 師長は書類を見ながら続けた。



「君の病棟にも長く勤めている人はいるけど、教育を任せるなら白石さんが一番だと思ってね」



「だから、病棟異動をお願いした」



「私がですか?」



「いや、君じゃないよ」



 師長は少し笑った。



「白石さんに閉鎖病棟へ来てもらうことにした」



「君との相性もいいと思う」



「挨拶は、異動してきたときでいいかな」



「はい、分かりました」



 詰所に戻ると、


 また相沢が近づいてきた。



 私は聞かれる前に言った。



「プリセプターは白石さんに決まりました」



 一瞬だけ、


 相沢の表情が止まった。



 けれど、すぐに笑顔に戻る。



「ああ、そうなんだ」



「よかったね」



 それだけ言って、


 相沢はその場を離れた。



 あっさりしすぎていた。



 何だろう、この胸騒ぎは。



 何かを仕掛けてくるのか。


 それとも、相手が白石というベテランだから、


 警戒しているのか。



 分からない。



 けれど、


 相沢が何かを考えていることだけは分かった。



 それから数日後、


 白石が閉鎖病棟へ異動してきた。



「今日から神谷くんのプリセプターとして入る白石さんです」



 師長が詰所で紹介する。



「知っている人も多いと思うけど、白石さんは四十年近く勤めている定年目前の大ベテランです」



「みんな、気を引き締めて業務に当たるように」



「定年目前は余計ですよ」



 白石は穏やかに笑った。



「みなさん、よろしくお願いします」



 詰所の空気が少し和らいだ。



「白石さん、神谷です。よろしくお願いします」



 深く頭を下げる。



「そんなにかしこまらなくていいよ」



「先輩も後輩も、同じ看護師なんだから」



「それに、閉鎖病棟は久しぶりだから、逆に色々教えてね」



 穏やかな口調だった。



 閉鎖病棟に入ると、


 多くの患者が白石に気づいた。



「白石さん、久しぶり」



「元気だった?」



「戻ってきたんだ」



 次々と声が飛ぶ。



 相沢のときとは違った。



 病棟の空気そのものが、


 少し柔らかくなった気がした。



 そのときだった。



 病棟の奥から怒鳴り声が聞こえた。



 患者同士が口論になっていた。



 私が止めに入ろうとすると、


 白石が手で制した。



「大丈夫」



 そう言って、一人で二人の間に入る。



 二人は白石に気づくと、


 自分に非はないと一斉に言い始めた。



 白石は、静かに二人を見た。



「今から一人ずつ話を聞くから」



「まず、斉藤さん」



「こちらに来てください」



「中村さんは、ベッドのところで待っていてください」



「ちゃんと後で話を聞くから」



 驚くことに、


 それまで興奮していた二人は、


 白石の言葉に従った。



 白石は、それぞれの話を丁寧に聞いた。



 最後には、


 二人に握手までさせていた。



「悪かった」



「こっちこそ」



 そう言って、


 二人は元の場所へ戻っていく。



 私は、その光景を見ていた。



 こんな関わり方もあるのか。



 そう思った。



 白石は、こちらを見た。



「薬に頼るだけが看護じゃないよ」



 まるで、


 私の考えていたことを見透かしているようだった。



 その場には、


 怒鳴り声も、


 注射も、


 保護室も必要なかった。

「白石の存在が、神谷にとって唯一の救いでした。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ