表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/12

第3話 裏の顔

あれから、一ヶ月が経った。



 業務にも少しずつ慣れ、


 私は鍵を持つことになった。



 師長室に呼ばれる。



「よく一ヶ月頑張ったね」



 師長は鍵を机に置いた。



「今日から鍵は渡すけど、施錠確認だけは絶対に忘れないように」



「あと、鍵は自己管理だから、なくさないようにね」



「なくしたら全部交換になるから、百万円以上かかるよ」



「……個人負担ですか?」



 思わず聞き返してしまった。



「まあ、今まで紛失した人はいないけどね」



「心配なら病院預かりでもいいよ」



「預かりでお願いします」



 私は、なくさない自信がなかった。



 師長は少し驚いた顔をした。



「珍しいね。みんな面倒くさがって持って帰るけど」



「君は慎重なんだね」



「いえ、なくしたら周りに迷惑をかけるので」



「分かりました。じゃあ出勤と退勤のとき、守衛に渡すよう伝えておくね」



「ありがとうございます」



 私は立ち上がった。



「ああ、それと」



 師長が思い出したように言った。



「まだプリセプターを決めてなかったね」



「相沢さんでいいかな。優秀だし」



 一瞬、言葉に詰まった。



 相沢は優秀だった。



 けれど、


 担当になるのは危険な気がした。



「……すみません」



「できれば、一番長く勤めている人にお願いしたいです」



 師長は少し考えた。



「そうか。相沢は優秀だけど、まだ三年目だったね」



「分かりました。その件はまた相談して決めるね」



「お願いします」



 詰所に戻ると、


 相沢が近づいてきた。



「どうだった?」



「鍵を渡されて、頑張れと言われました」



「それだけ?」



 何かを探るような目だった。



「プリセプターの件は、後日決めるそうです」



 自分が希望を出したことは言わなかった。



「ふーん」



 相沢は少しだけ残念そうな顔をした。



「まあ、これで自由に動けるようになったね」



「期待してるよ」



 そのとき、岡田が相沢に耳打ちをした。



「また、あいつか」



 相沢は小さくため息をついた。



「分かった。処置室に連れてきて」



 そして、私の方を見た。



「今からシーツ交換だから、病棟の方お願い」



「こっちは私と岡田さんでやるから」



「分かりました」



 私は病棟へ向かった。



 シーツ交換をしていると、


 別のスタッフに声をかけられた。



「シーツ足りないから、倉庫から五セット持ってきて」



 私は詰所の横にある倉庫へ向かった。



 その途中だった。



 相沢の声が聞こえた。



 処置室の裏に、少しだけ中が見える隙間があった。



 私は、足を止めた。



「何回言っても分からないね」



 相沢の声は低かった。



「あれだけ水を飲むなって言ったよね」



「一日で三キロ増えてるんだけど」



 相手は患者だった。



「少し飲んだだけです」



「少しじゃないでしょう」



「三キロ増えてるのは事実なの」



「三リットルは飲んでるよね?」



「ごめんなさい……」



「何回同じことを言わせるの」



 相沢はため息をついた。



「もう保護室だから」



「嫌です……行きたくない……」



「どれくらい入るかな」



 相沢は少し笑った。



「半年?」



「一年?」



「それとも――」



 次の瞬間、


 患者が飛びかかった。



 けれど、それは予想されていたようだった。



 すぐに数人のスタッフが患者を押さえつける。



 臀部に注射。



「鎮静済み」



 相沢は冷静に言った。



 そのまま携帯を取り出す。



「先生ですか」



「粗暴行為があったので、セレアキ各1A筋注しました」



「体重三キロアップで水中毒リスクも高いので、隔離指示お願いします」



「時間は十時でいいですか?」



 少し間があった。



「分かりました。カルテ持っていきます」



 通話を切ると、


 相沢は岡田にカルテを渡した。



「隔離の三号室入れて」



「私物は後でいいから」



 指示は早かった。


 無駄もなかった。



 そして最後に、


 相沢は小さく言った。



「ちょっと一服してくる」



 私は急いで倉庫へ向かった。



 シーツを抱えながら、


 さっきの光景を思い出す。



 やはり、あの人は危険だ。



 人によって、


 態度を変えている。



 完璧なほどに。



 あの人は、患者を見ていない。



 見ているのは、


 “どう動かせば自分の思い通りになるか”だけだった。

「表の顔と裏の顔。どちらが本当なのかは、まだ分かりません。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ