悪役令嬢は、自立したいです。
思わぬ反響にとても驚いております、作者のこてとです。たくさんの方に読んでいただき、本当の本当に嬉しいです。ジャンル別ランキングで2位にまでなってしまい、作者は震えております。。。
至らぬところはたくさんあるかと思いますが、頑張って書いていこうと思うので、どうぞよろしくお願いします!
「信じられないです!ギルバート様があんなことをするなんて」
頬を膨らませ、拳を握った手を大きく振りながら屋敷の廊下を歩いているのは、猫耳侍女のコアです。背の高い私と違って、小柄なコアがそうしているのはとっても可愛らしいです。羨ましい。因みに私は日本の単位にして、170センチ程の背丈です。
「仮にもギルバート様はこの国、グレアノラの第二王子なんですよ。あまりにも責任感に欠けています!」
そうなんです、なんとギルバート様はこの国の王子なのです。さすが乙女ゲームというべきか、設定が高いです。
のこのこと後からついていくと、振り返ったコアにキッと睨まれました。
「シャーロット様は、あれを見て何も思わないのですか!」
「一緒にお弁当を食べていただけでしょう」
「分別のある殿方は、婚約者以外の令嬢の手から食べ物を食べません」
ふん、と鼻を鳴らしてコアは腕を組みます。コアの言うことももっともですが、ギルバート様は攻略対象の内の一人。レティシアにいずれ恋心を抱くのは必然なのです。あっ、ちょっと涙が出てきました。いけないいけない。
元々第二王子のギルバート・ライオンハート様と伯爵令嬢の私が婚約関係を結んだのは、王家のライオンハート家と、後ろ盾となっている伯爵家のクリアミスト家との結びつきを強固にするための政略結婚が目的。ギルバート様はとても良い方でしたし、結婚するのに不満は全くありませんでしたが、自分の命を投げ出してまで結婚しようとは思いません。相手がレティシアならば、家同士の政略結婚も結局は果たされるでしょうし、迷惑はかけないでしょう。
というわけで結論。さっさとギルバート様とも、レティシアとも、その他の攻略対象とも縁を切って、平穏に過ごす方法を考えましょう。
そのためには、そうですね、まずはこの屋敷を出るのが良いでしょう。
「さぁ、これから忙しくなりますよ」
安心させるようにコアに微笑みかけます。コアは瞬きをした後、何かに閃いたようにポンと手を打ちました。
「暗殺計画を立てるんですね!」
私は自分の顔を平手で思いっきり叩きました。
もちろん忙しくなるのは暗殺計画を立てるためでも何でもなく、屋敷を出る準備のためです。
まずは一人で生きていく力をつけていくことが大事でしょう。レティシアのルートが確定するまでは結婚のことはあまり考えない方が賢明だと思うので、自立する術を身に着けます。あとはお父様の説得です。お父様がギルバート様との婚約を推しに推しまくってようやく成立した婚約です。屋敷を出るなんて言ったら婚約はどうするんだと詰め寄られること間違いないでしょう。
まぁ、お父様の説得は、おいおい考えていくとして、問題は自立です。できることからやっていこうと思います。
今まではそれこそ侍女達に全てを任せっきりでしたが、前世では着替えも支度も自分でやっていたことを思い出すと、何だか恥ずかしくなってきました。せめて最低限の支度だけでも自分でやることにしましょう。死ぬルートは避けられたとしても、平民落ちくらいは十分あり得ます。そうなった時に侍女達に見捨てられて困らないよう、やっておいて損はないはずです。
と思って翌朝ドレスに自分で袖を通していたら、部屋に入ってきたコアに「私はもういらないのですね!解雇なのですね!!」と泣き叫ばれ、私の肩を両の手で掴み、「何が悪かったのですか!?私何でも直します!シャーロット様のお傍を離れたくないです!どうか、どうか解雇だけは!!」とひたすら首を折らんばかりに揺さぶるコアの誤解を解くのに丸一時間費やしました。この件はちょっと保留になりそうです。
あと、問題になってくるのは食事です。屋敷を出てどこに行くかは決まっていないですが、どこに行くにしろ料理はできた方が良いでしょう。今は料理長がいて献立から料理まで作ってくれるから良いものの、自炊が全くできないというのは考えものです。特訓です。
早速屋敷の料理長に頼んで基礎から教えてもらうことにしました。前世の記憶はまだかなり朧気ですが、お恥ずかしながら、私はほとんど自炊をせず、ほぼ毎日カップラーメン生活だったようです。だから料理の知識は限りなくゼロに近いです。とほほ。
でもわからないですよ?もしかしたら今までやっていなかっただけで、秘めたる才能が眠っているかもしれません。今日もオムレツを教えられた通りに作ったところ、味見した料理長は涙を流していました。料理長を泣かせるなんてなかなかだと思うのです。少しばかり形がオムレツに見えなかったのは残念ですが。いつか家族やお世話になっている侍女に振舞う最初の料理はオムレツにすると言ったところ、肩をポンポン叩かれました。きっと料理長なりの激励なのでしょう。絶対に期待に応えてみせますとも。私は固く拳を握ります。
家事もやっておくに越したことはないでしょう。コアにばれたらまた「解雇!!解雇!!!」となるのは目に見えていたので、こっそりとお掃除用具を借りて目立たないように自分の部屋を掃除します。もう既に侍女達によって掃除されてピカピカなのでやることがあまりないですが、それでもその上から掃除をします。今も雑巾がけをしていますが、前世で小学生の時に大掃除で開催された雑巾がけレースを思い出して、なかなか楽しいです。
「シャーロットー、何してるのー?」
ふわふわした声の主を見ると、精霊が一人、置いてあったバケツをつんつんしていました。
そう、この世界には精霊がいるのです。
姿は人間を手乗りサイズにしたような感じですが、人間よりも顔のパーツが単純で、ぽけーっとした印象を受けます。
「お掃除ですわ。私は働き者になるのです」
胸を張って答えると、精霊は「おぉー」と声をあげました。
「シャーロット頑張るの、手伝うー!」
「みんなー」と精霊が呼びかけると、どこからともなく精霊がわらわらと大集合してきました。皆で整列して「せーの」で雑巾を押しています。私が掃除をしているのは部屋を綺麗にするためではなく、自立準備のためなのですが、可愛いのでしばらく見ていることにしましょう。
普通、精霊は滅多に人前に姿を現さないものなのですが、どういう訳か、私はかなり彼らに好かれているようです。幼い頃から私の遊び相手は精霊達です。
そしてこの世界では、どれだけ精霊に好かれるかによって魔法の使える幅、使える強さが決まります。
今考えてみると「グレアノラの乙女」では、確かシャーロットは魔法を使ってレティシアをいじめていました。攻略対象のいる舞踏会直前にレティシアを部屋に閉じ込めて魔法でカギを開けなくしたり、レティシアを透明状態にして周りから認識されないようにしたり、終盤の方になると馬車に轢かれるように仕向けたりと直接危害を加えるようなこともしていました。普通にひどい。まぁでも全部攻略対象に気づかれて魔法を解除されるんですけどね。
そんな訳で私は一般的なレベルよりもかなり高い魔法を使えます。レティシアを私から守る攻略対象達には負けますが……。
「シャーロット、最近料理もしてるー!僕見た!」
精霊の内一人がトトトとこちらに駆けてきました。
「そうなのー?」
「シャーロット頑張りやさーん!」
「すごーい!」
口々に褒められると、悪い気はしません。全て自分が死なないためなんですけどね。
「シャーロット好きー!私たちも手伝うー!料理もするー!」
そんな訳で次回の料理講座では精霊達も付いてきたのですが、具材をフライパンで炒めている段階で、精霊達の力が強すぎて、厨房が爆発しました。料理長泣いていました。これから先は精霊達は厨房に連れて行かない方が良さそうです。
まだ何もしていませんが、Twitterのアカウントを作りましたので、良かったらフォローお願いします(*ˊ˘ˋ*)
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