3.おかしい試練
凄惨な自動車爆発現場を無責任にも放置して、俺たちがやってきたのは町外れにある廃工場だった。
ドラマなんかで悪役のマフィアのような奴らと人質がいてそこに主人公の刑事が突入して銃撃戦を繰り広げて、って感じのことが行われそうな建物である。
実をいうと子供の時ここで遊んでたんだよな。
近所の友達たちと学校が終わったらここに集まってかくれんぼしたりちょっとしたゲームとかお菓子とか持ち込んだりして気分的には秘密基地みたいな感じで遊んでいた。
今の子供がこんな廃工場で遊ぶのだろうか。
まあ見るからに危なそうだから親には止められるだろうな。
俺も止められていたけど。
ここに来るのは久しぶりだけど本当に懐かしい。
「なんか辛気臭い場所ね。ちょっとそこらの壁でも爆破して明るくしてやろうかしら」
お願いです、俺の思い出の場所を破壊するのはやめてください。
なんでこいつはそんなに爆破したがるんだ。
というかいったいどれだけ爆薬(か何か)を持っているんだ。
こいつらの世界ではそんなにそんな物騒な代物が簡単に手に入るのか。
そう考えるとこっちの世界の方が平和なのかもしれんな。
平和万歳!
と、そんなこと思っていてもこいつにはどうでもいいことなんだろう。
そもそもなんで廃工場なんだ。
もちろん連れてきたのはエイラである。
まあ試練を受けるというのであればそれらしい場所と言われたらそうかもしれん。
これで連れて行かれたのがレースやピンク色にあふれたケーキ屋さんとかおばあちゃんがやってる駄菓子屋とかだったら困るところなんだが。
「こんな所に試練なんて用意されてるのか?」
「もちろん、とっておきのものを用意してるから期待しておいて」
そんなとっておきはいらん。
期待と言うよりもむしろ不安なんではないか普通は。
ああ、せめて五体満足に帰れることを望むよ。
廃工場の中は大きな箱やらドラム缶、クレーンなどが放置されており中もだいたい子供の頃見たときと一緒だった。
あの頃はあのドラム缶の中に入って隠れたりそこらじゅうを走り回ってたりしてたんだよな。
そんな昔を思い出させる風景の中に一カ所見覚えのないものがあった。
それはどこからどう見ても鉄板だった。
広間の中央にどーんと置かれた鉄板。
その異様さは後から置かれたものであるということがまるわかりであった。
「エイラ、説明しろ。この鉄板はなんだ」
「お、早速気づいたみたいね。そう今回はこの鉄板が試練の舞台となるのよ。さて、準備するからちょっと待ってて」
エイラは鉄板の下をのぞき込んだ。
その下には炭らしきものが置いてあって丁度野外でバーベキューをするかのような作りになってるらしい。
エイラが炭に火をつけると鉄板は熱せられてみるみるうちに陽炎が立つくらいの温度となった。
「お前舞台って言ったがまさかこの上で裸足になって踊れとか土下座しろとか言うんじゃないだろうな」
「いやー、それもおもしろそうなんだけど今回は違うわ」
今おもしろそうとか言ったな?
おもしろそうで試練とやらをさせられても困る。
「それで陽介はこれをつけてほしいの」
その手に持っていたのはこの工場内にあるクレーンにつながっているフック。
エイラはおもむろに俺のズボンのベルトにフックをかけるとクレーンの操作板をいじくる。
廃工場なのにどうしてだろう。クレーンが作動してそこについているワイヤーを巻きとり始めた。
するとどうなるかというとフックをかけられた俺の体は持ち上がって宙ぶらりんの状態になるんだなこれが。
「おい、エイラ何しやがる!」
「はいはい、これも試練だから我慢我慢」
エイラは持っていた鞄から発泡スチロール製の白いトレーを取り出す。
そのトレーには肉が入っていた。
見るからにスーパーで買ってきたやつだ。ご丁寧にも値札がついている。その上3割引のシールまでついてやがる。
パックを破り肉を焼けた鉄板の上に並べる。
当たり前だが辺りには肉の焼けるいい匂いがする。
「さあ陽介、この肉を食べるのよ!」
何がやりたいかさっぱりわからん。
これはギャグとして笑った方がいいのだろうか。
笑いたいのだけどつり下げられているせいで腹の辺りにベルトが食い込んですごく痛いんだけどな。
「おいこら、説明しろ。これのどこが世界を救う為の試練なんだ。ふざけんじゃねぇ!」
「ふざけてないわよ。陽介はこの聖なるパワーが詰まった肉を食べることにより力を手に入れるのよ」
「聖なる力ってどう見てもそれスーパーで買ってきたただの牛肉(3割引)じゃねぇか!」
「定価でも3割引でも力が詰まってるからいいじゃない!」
「だからその力が詰まっているということ自体が信じられるかよ!」
「ああ、わかったわよ。陽介の目の前で聖なる力が入るところ見せてやればいいんでしょ」
エイラは息を吸い込んでから鉄板の上で焼けている肉に手をかざす。
一拍の間をおいてその唇から言葉が紡がれる。
「ぽわりんぽわりん。聖なる力でお肉さんおいしいくな~れ。きゅんきゅん!」
「……ちょっと待ってろ、今から脳か精神の医者呼んでくる」
「ちょっと!今のマジ恥ずかしいんだからそんな目で見るのやめてよ!」
「いや、本気で脳のネジかなんか外れてるだろそれ」
「食べ物に力入れるときは呪文をかけるって常識じゃない。秋葉原とかではそうやってるでしょ」
そんな常識奈落の底に捨ててしまえ。
見ているこっちが恥ずかしくてたまらん。
「この……、さっさと食べてしまえ!」
ブチ切れたエイラは操作板をいじってクレーンを動かした。
俺の体はクレーンに合わせて動き丁度鉄板の真上で止まる。
「はい、そこでどーん!」
クレーンのワイヤーがいきなり緩む。
そして俺の体は鉄板の上に落下する。
ジュワー、と音を立てて焼ける鉄板の上に追加された肉、というか俺。
「うあじぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
こいつ本気で俺を殺しにかかってないか?
体の一部を焼きながらも必死で鉄板から転げ落ちる。
もう何だよ熱いし痛いし。
……そしてこの女そんな俺を見て笑ってやがるし。
もはや試練と言うよりテレビのバラエティー番組で体を張る芸人じゃないか。
幸か不幸か、観客はこのエイラ以外誰もいないけど。




