4.おかしい結末
外はすっかり真っ暗である。
春が近づいてきたとは言えまだ日が落ちるのは早いようだ。
廃工場の中にいた俺は外に出たときにその時間の経過に驚かされた。
いったい俺はどれだけの焼肉を頬張ったのだろうか。
さすがに3割引の肉は聖なるおまじないをかけられてもその程度の味しかしなかったと言っておこう。
量だけ食わされても決して満足できない。
それよりもその肉を食わされる時に負った火傷の方が自分的には辛い。
なんで肉を食うだけでこんなダメージを負わなけりゃならんのかと。
これなら自分の金で焼き肉食べ放題行った方が満足できる上に安全ではないのか。
そもそも宙吊りにされて焼き肉を食うことと地球の崩壊を防ぐのと何の関係があるというのだろう。
こんなことで世界が救えるというのならば国連かどっかは今すぐ宙吊りで焼き肉を食う機関を作るべきである。
もちろんそこに俺は参加する気はないけどな。
全く腑に落ちいないことだらけである。
焼肉の後にやらせられたセンブリ茶のジョッキ一気飲みもおろしたて生わさびの一気食いも怪しいことこの上ない。
これって試練と言いたいだけでただおちょくられているだけなのでは?
そう思うと腹が立って仕方ないのだが。
目の前を歩いているエイラの頭をかち割ってやろうかとさえ思えてくる。
この頭を割るには鉄パイプがいいかブロックがいいかをエイラの後頭部を見ながら考えているとそのまた先に見知った人影がこちらに向かってきているのが見えた。
ファミレスで会ったあのビジネスマンである。
あの野郎、のこのこと現れやがって。
お前の頭もかち割ってやろうか。
そんな物騒なことを考えている自分とは対照的にビジネスマンはさわやかな笑顔で俺に話しかけてきた。
「どうだい、試練は頑張っているかい?」
「頑張るも何もねぇよ……」
「ふむ、まだ君はこの試練に納得してないみたいだね。まあ試練の一つ一つではわからないかもしれないが君の努力は確実にこの世界を救うことをしているんだ。それは誇りに思っていいと思うよ」
こんなことやってい誇りに思うなんてとてもできないんですがねぇ。
仮に本当にこんなことで世界が救われてもその方法を公開したくないんだが。内容がアホらし過ぎて。
しかしその試練の内容もそうなんだがその他にも気になっている点がある。
それはこいつらが名乗っている「天使」という点。
正直俺はこいつらを信じているわけではない。
むしろ頭のおかしい集団と思っている。
もし通りがかりに交番でもあればおまわりさんこいつらですとつきだしてやりたいくらいだ。
まあ普通の人なら天使と言われて信じるわけはないな。
もう十分ひどい目にあったわけだしここらでそろそろこいつらとの関係も切っておきたいところだ。
「あー、ひとついいですか?」
「何かい?」
「初め会ったときに自分たちは天使だなんて言ってましたがその証拠ってあるんですか?」
そう言われて実際出るわけがない。
本当に出されても困るというもの。
ところがだ。
「ふむ、確かにそのようなものは見せてなかったな。いいだろう……」
ざわ。
空気が揺れる。
急にざわめく風。
その風は目の前にいるビジネスマンから来ていた。
そしてそのビジネスマンの背中には気がつけば……、大きな翼が生えていた。
それは大型の鳥を思わせるような白い羽を纏った大きな翼。
「まあいろいろ見せるのもいいかとは思ったんだが、一目でわかるようなものといったらやはりこれだろうな」
俺は目を見開いたまま固まっていた。
これこそ反応に困るというものだろう。
もはやなんと言えばいいのかわからない。
「せっかくだ、エイラ君も見せてあげたらどうだ」
「え、いや、私はやめときます。恥ずかしいし……」
「恥ずかしがることはないだろう」
「私、そんな立派なもの持っていませんし、見られるのはちょっと……」
もじもじと恥ずかしがって後ろに下がっていくエイラ。
翼を見られるのってそんな恥ずかしいものなのか?
天使の事情は知らないが今までの様子と比べると妙におかしい。
上司(?)命令とはいえできないところを見るとセクハラに近いようなことでも言っているのだろうか。
ガチガチに固まっているエイラを見てちょっといたずら心が湧いてきた。
といっても大したことをするつもりではない。
俺はエイラの横に立つと彼女の耳にふっと息を吹きかけてみた。
「ひゃう!」
思った以上に反応するエイラ。
どうも彼女の弱いところをつけたようだ。
そう思ったつかの間。
再び、風が吹いた。
また一瞬のことであった。
エイラの背中には翼が生えていた。
それは薄くて黒く、まるで蝙蝠を思わせるかのような、っておい。
今ある可能性がでてきたんだが。
ふとビジネスマンの方を見てみる。
あ、やっぱり目を見開いたまま固まっていた。
これってやっぱりあれなんだろうか……。
「あ、ははははは、はは……」
照れ笑いというかいたずらがばれた子供がそれをごまかすような笑いをするエイラ。
「すいませんでしたぁぁぁぁぁ!」
彼女は大声で叫ぶとまたどこからかあのボタンのついた箱を取り出した。
そして間髪を入れずにそのボタンを押した。
聞き覚えのある轟音が響く。爆発音だ。
空気を揺るがす音が俺たちを襲う。
そして一面に広がる爆炎と煙が目の前の視界を奪った。
煙が晴れた時には既にエイラの姿はなかった。
遠くを見るとエイラらしき姿が背中の翼を広げて飛んでいくのが見える。
その姿が見えなくなるころようやく俺は口を開くことができた。
「えーと、あれってなんだったんですか?」
「すまない、どうやら私が連れてきた中に悪魔が紛れ込んでいたようだ」
「ということは今まで俺がやってきたことって何なんですか?」
「単刀直入に言うなら世界を救う試練じゃなくてただの悪魔のいたずらにつきあわされていたっていうことだな」
「じゃあそれって」
「全くの無意味だったってことだな」
おいぃぃぃぃぃぃぃぃ!
おかしいと思ってたんだよ!
やっぱりか、やっぱりか!
マジで腹立ってきたぞくそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
ぶつけようのない怒りに震える俺にビジネスマンは威厳ある重々しい口調で語りかけた。
「それでは改めて試練を、始めようか……」
「誰がするか!」
気がつけば叫びとともに右手でアッパーカットを決めていた。
そしてビジネスマンは背中の翼から光る羽をまき散らしながら空を舞った。違う意味で。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
この話はサークル「がーねっとフィズ」を立ち上げてから初めてとなるオリジナルものの小説です。
現在は二次創作が中心になっていますが、機会あればオリジナルも書いていきたいと思っております。
周りの小説書きの方は濃厚なシリアスが書きたいという人が多いのですが、私はその逆で短編のネタ満載なコメディーを書きたいと思っています。
というのも社会人になってからはじっくり小説を読むというのが難しくなりまして、気軽に読める短編のコメディーの方がありがたくなったからなんですよね。
イベントに参加して薄い本として小説を出しておりますので今後ともよろしくお願いします。




