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メデューサの子孫  作者: 春と桜


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10/11

悪意に晒されて…

どうもはじめまして春と桜です。

あたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。


 それは、まるで水面へ落とされた一滴の雫のように、静かに広がっていった。目には見えないはずの魔力の流れが、私の感覚を撫でるようにして床へ集まり、次第に複雑な形を描いていく。熱感知をさらに深く沈めると、その中心に立つ人間の身体から、鋭く研ぎ澄まされた熱が滲み出しているのが分かった。私は息を潜めたまま、その気配を追いながら、何かが始まろうとしていることだけを感じ取っていた。


「姫様、こちらへ!」


 護衛騎士の声と同時に、身体が強く引かれた。次の瞬間、先ほどまで私がいた場所を閃光が走り、床が大きな音を立てて砕け散る。粉塵が舞い、遅れて廊下から悲鳴が上がった。ついさっきまで患者さんの話し声や職員の足音が行き交っていた場所が、瞬く間に剣戟と魔法の音に満たされていく。私は状況を確かめようと熱感知を広げた。私を囲むようにいくつもの熱が集まり、その一つ一つが、私を守るために動いている。


「姫様、お下がりください!」


「皆さんは大丈夫ですか?」


「我々は大丈夫です! 姫様は我々がお守りします!」


 その声を聞いた瞬間、胸の奥が強く締めつけられた。怖い。それでも、私以上に恐怖を感じているはずの人たちが、私の前に立っている。剣を構える音、魔力を練る気配、私を庇うために踏み出す足音。そのすべてが、私を守ろうとしていた。


 首元でチャロが動いた。


「姫君! わたくしめもお守りいたしますぞ!」


 チャロが身体を滑らせ、私の前へ出ようとする。けれど、しばらくして、その声が急に小さくなった。


「と、言いたいところですが……わたくしめは戦闘力は皆無でございまして……」


「チャロ……」


「ですが、防御結界ならなんとか!!」


 白銀の身体から魔力が広がり、私たちを包むように結界が展開された。直後、飛来した魔法が結界へ衝突し、激しい音が診察室に響き渡る。結界が大きく揺れるたび、チャロの身体にも力が入っているのが伝わってきた。戦う力を持たない小さな身体で、それでも必死に私を守ろうとしている。


「ありがとうございます、チャロ」


「姫君をお守りするのが、わたくしめの役目ですぞ!」


 その声に、私は小さく頷いた。


「……ちっ。これだけ守りが厚いとはな」


 誰かの低い声が聞こえ、周囲の魔力が一気に変化する。


「この場で殺すのは無理か…」


 足元へ、巨大な魔法陣が浮かび上がった。


「奈落へ落ちろ」


「転移術式だ!」


 護衛騎士が叫んだ。


「姫様をここから出せ!」


 何人もの騎士が一斉に動いた。魔法陣へ剣を叩き込み、魔力をぶつけ、術式そのものを破壊しようとするが、すでに発動した転移魔法は止まらない。床から溢れた光が私の身体を包み込み、足元から強烈な力が這い上がってくる。


「姫様!」


 その声が響いた直後、身体が大きく引かれた。誰かの腕が私を抱えるように支え、そのまま魔法陣の中心から遠ざけようとする。けれど、足元から這い上がった魔力はすでに私の身体へ絡みついていて、引かれるほどに強く抵抗し、まるで見えない鎖が私を別の場所へ連れ去ろうとしているようだった。


「姫様に触れている魔力を断て!」


 護衛騎士たちが一斉に動いた。剣へ魔力を纏わせ、私の身体そのものを傷つけないよう細心の注意を払いながら、私を包む光へ刃を走らせるが、斬り裂いたはずの魔力は霧のように散ったかと思えば、すぐに別の場所で繋がり直していく。


「術式の核を探せ!」


「見つけました!」


「そこへ集中しろ!」


 鋭い衝撃が床を震わせた。


 何人もの魔力が一点へ叩き込まれ、巨大な魔法陣に亀裂が走る。敵が奈落へ送り込むために構築した術式は、少しずつ形を崩していた。けれど、完全に消えるより先に、別の異変が起こった。


 魔力の流れが、乱れた。


 私は息を呑む。


 先ほどまで一方向へ向かっていたはずの力が、突然いくつもの方向へ枝分かれしていく。転移先を示していた魔力が定まらず、空間そのものが行き場を失った力を抱え込んで膨張していくのが、熱感知を通して鮮明に伝わってきた。


「まずい……!術式が不安定になっている…」


 護衛騎士は迷わなかった。


 ここぞとばかりに私を奈落へ送り込もうとしている歪んだ術式へさらに干渉していく。


 そして、それが最後の引き金となった。


 魔法陣が轟音を上げた。床から伸びていた光が一瞬で膨れ上がり、私の身体をすっぽりと包み込む。誰かが私へ手を伸ばした。その手の熱が、すぐそこにある。


「姫様!」


 私はその声へ向かって手を伸ばしたが、指先が触れる寸前、空間が大きく歪み、今まで感じたことのない力で引っ張られていく。


「姫様を……お守りしろ!」


 その声が聞こえた瞬間、私は光の向こうへ引き込まれた。


 マルリの声が遠ざかっていく。医療協会の熱も、騎士たちの気配も、床の感触も、すべてが一瞬で失われていった。


 そして私は意識を失った。

代表作【暁の女帝〜狛犬と異世界革命】も連載中です!

よろしければそちらもご覧ください!


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