第27回 周泰、南郡争奪戦(中)
夷陵には、正に「矢の雨」が降り注いでいた。
甘寧の守る塞から空を見上げれば、そこには矢しか見えないほどの、凄まじい攻撃であった。
兵士たちは怖気づいていたが、甘寧は一人笑ってこう言った。
「いくら矢の雨を降らしたところで、当たらなければ意味がない。好きなだけ、打たせてやれ。」
兵士たちは、自分たちの将のこの豪胆さだけが支えとなり、曹仁軍の猛攻を、歯を食いしばって耐え抜いていた。
「大将!すぐに援軍が来てくれますよね?」
兵士が甘寧に聞く。甘寧が言う。
「当たり前だ。この俺様ほどの勇将を、大都督たちが見捨てるわけがないだろう!」
この言葉も、兵の士気を高める。しかし、甘寧は心の底では「夷陵を見捨てる」と周瑜が判断する可能性が無いわけではない、と思っていた。しかし、これだけは兵士に悟られてはならない、と自分を戒めていた。
すると、一人の兵士が叫ぶ。
「大将!新手の敵・・・。いや、あの旗印は大都督のものだ。援軍、援軍が参りました!」
甘寧は笑いながら答える。
「お前たち、ここまで本当によく耐えた。さあ、出撃の準備をしやがれ!」
兵士たちは、雄叫びを上げた。
曹仁に急報が入った。
「曹仁様!敵の援軍が背後から迫ってきました。何と、大都督の旗印、周瑜自らが来たものと思われます。その兵、およそ一万強です!」
「何だと!周瑜自らだと!それも一万以上とは・・・。甘寧の事だ、これを機に突撃してくるかもしれん!後軍五〇〇は塞に攻撃継続、それ以外の全軍、右に旋回して、周瑜軍を迎え討て!」
曹仁軍は向きを変え、全力で周瑜軍に向かった。
周瑜はその動きを読んでいたかのように、軍を左右に二分して曹仁軍との直撃を避けた後、素早く塞の攻撃を継続している兵を次々と討ち取る。
そして左右に分かれていた軍を再び一つにまとめ、そこに甘寧も出撃し、曹仁軍に襲いかかる。
しかし、曹仁も百戦錬磨の名将である。そう簡単には崩れない。再び軍を旋回させ、大都督の旗印めがけて集中して攻撃を仕掛ける。
周瑜軍は呂蒙軍がその動きに呼応し、曹仁軍と正面からやりあう。そこに、今まで塞で我慢を強いられていた甘寧が後方から曹仁軍の脇腹をえぐる様に右側からの突撃を行い、曹仁はこれ以上の戦いは戦力を削がれるだけと判断し、江陵城に退却した。
一方、江陵城と周瑜軍本陣の方はどうか。
こちらは、時折、牛金が数百の兵で淩統を挑発して誘い出そうとしたが、淩統は挑発に乗らず、静観を続けた。
その結果、淩統は本陣を守るという大命を見事に果たしたのである。淩統が言う。
「幼平、正直に申す。あなたがいることでどれだけ心強かったことか。」
「公績殿。総大将として、感情に走らず、よく耐え忍ばれました。私はこの年になっても総大将をつとめたことはありませぬ。公績殿は、それだけの信頼を皆から持たれているということを誇りにすればよろしいかと。」
「今の言葉、胸に刻もう。さあ、間もなく本当の総大将、周瑜様がご帰還なされる。二人で出迎えようではないか。」
周泰は深く頷いた。
周瑜は、夷陵の兵力を二千に増強して、再び甘寧に任せた。甘寧が背後にいるということが、曹仁に対して心理的圧力をかけることが出来ること、実際に挟撃するのも可能な体制にすることで、安易に曹仁が動けない様にするためであった。
こうして、甘寧を無事救出することに成功し、南軍争奪戦も佳境に入っていくのである。




