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周泰  作者: 涼風隼人


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25/38

第25回 周泰、赤壁の戦い(後)

 開戦の火ぶたは切って落とされた。

 

 場所は、長江沿岸の「赤壁」である。

 

 孫権軍は周瑜の率いる三万、曹操軍はその約七倍、大軍二〇万である。

 

 しかし、曹操の兵力が二〇万の力そのものを発揮できたかといえばそうではない。

 

 まず、曹操軍は大掛かりな水軍の戦いはこれが初めてであり、経験がない。そして、風土、気候になれないために、疫病が蔓延していたのである。

 

 とはいえ、孫権軍の兵力は三万であり、曹操軍の隙をついて一気に攻め込んで勝負を決する、というところまではいかなかった。

 

 お互い決め手に欠け、膠着状態が続いていた。

 

 水軍大都督の周瑜は、何か打開策が無いか模索をしていたところ、「黄蓋」が献策をしてきた。黄蓋が言う。

 「大都督。私如き武辺者が策を献ずるというのはためらわれたのだが、お聞き届け頂けますでしょうか。」

 

 「もちろんだ。公覆(黄蓋の字)、聞こうではないか。」

 

 「偽降の計を用いては、如何でしょうか。」

 

 「具体的には、どのようにする気だ。」

 

 「はい。まず、私が大都督と不仲であるという状況を何度も何度も作り、こちらに入り込んでいるであろう、曹操の間者にこの不仲は本当であると理解をさせます。」

 

 「それで?」

 

 「そして、私は現在の処遇が不満であり、曹操軍に投降したい、という書状を送りつけます。」

 

 「ふむ・・・。」

 

 「それも何度も何度も送り付けます。」

 

 「繰り返すことで、信じさせると?」

 

 「はい。そして受け入れる旨の連絡が来ましたら、油を含ませた藁などを満載した小型船を何艘も作り、火をつけて曹操陣営の船に突撃をさせます。その混乱に乗じて、大都督が攻め込んでくれれば、勝利をもぎ取ることが出来るのではないでしょうか。」

 

 周瑜は考えた。策としては非常に単純なものである。

 

 果たして、策略家の曹操に通じるのか。通じさせるために何が必要なのか、ということを深く考えた。

 

 しばらくして、周瑜が言う。

 「公覆よ。この作戦の肝となるのは、私とあなたが如何に不仲であるか、その不仲さが投降まで走らせるのか、というところを曹操に信じさせる必要がある。そのために、何かある度に、私に歯向かい意見を言ってくれ。そして私は、何度もそなたを罵倒する。その出来事は、噂として、陣中全てに流れ、間者の耳に入る様にしよう。しばらく、お互いが演じ切ることが要件となるが、問題ないか?」

 

 「はい。仰せの通りに致します。早々に決着をつけて、孫権様を安心させとうございます。」

 

 「わかった。この策で、いこう。」

 

 こうして、偽降の計を成功させるための「演技」が、ほぼ毎日のように行われる。

 

 黄蓋は、宿将といわれてもいい立場でありながら、周瑜が大都督と言う上官にいることを不満に思い、言うことを聞かずに反論ばかりしている。

 

 そして周瑜は、大都督の言うことを聞かない黄蓋を罵倒し、軍議からも外した。

 

 こういった不仲を演じ、頃合いを見て黄蓋は最初の投降の書面を曹操陣営に送り付けた。

 

 曹操は関心を示したが、そのまま鵜呑みにはしなかった。

 

 しばらくすると、間者からの報告が入ってきた。そこには、日がたつにつれて、周瑜と黄蓋の不仲は深くなり、陣中の兵士もほとんどが知るほどになってきたということであった。

 

 黄蓋は再び、曹操に投降の申し出をしてきた。しかし、黄蓋ほどの人物が、そう簡単に投降してくるものなのか、未だに疑いの気持ちを持っていた。

 

 そこに間者から決定的な情報が送られてきた。

 

 軍議で、周瑜が黄蓋に向かって、これ以上歯向かうなら斬る、と抜刀をしたというのである。周りの者が諫め、事なきを得たというが、これは黄蓋にとって、屈辱以外の何者でもないであろう。

 

 黄蓋から三度、降伏の申し入れがあり、曹操はとうとうこの申し出を受けることにしたのである。

 

 黄蓋からの提案で、三日後、夜陰に紛れて、自分の率いる兵二千と共に投降する、という申し出であった。曹操は快諾した。


―三日後の夜―

 曹操は、孫権陣営をずっと見ていた。夜の闇が深くなるころ、何艘もの小型船がこちらに向かってくるのがかすかに見えてきた。曹操は側にいる者たちに言う。


 「あの船に、孫呉の宿将ともいうべき黄蓋が乗っている。我が軍に来た暁には、水軍の指揮を任せようと思っている。」


 「それは、結構な話ですな。黄蓋と言えば、天下にその名の聞こえる名将。孫権陣営の打撃はかなり大きいでしょう。」


 曹操は満足そうに聞いている。


 すると、小型船の速度がだいぶ早くなってきた。


 そして、曹操はその目を疑う。


 小型船全てが、火に包まれながら、こちらに突進してくるのである。そして、こちらの船にその炎が燃え移ってきた。


 調度、風もその火を煽り、曹操軍の船団に次々と炎が飛び移っていく。


 「黄蓋め、図ったな!」

 曹操は怒りを込めて叫んだが、こうなった以上、素早い行動をとらねばならない。すぐさま、全軍に退却の命令を出した。船を失うのは惜しいが、その前に兵士の命が優先である。


 この混乱に乗じて、周瑜、程普といった水軍の指揮官率いる部隊が、曹操軍を猛追する。


 そして、この程普隊には、今回周泰も配属されていたのである。


 程普が周泰に言う。

 「いつも孫権様の盾として、戦を見守っていたお前には久々の戦いであろう。存分に、武功を挙げるがよいぞ。」


 「ありがとうございます。この幼平、この一戦に全てを捧げる所存、では、お先に。」


 周泰が率いる隊の侵攻速度は非常に早く、逃げまどう曹操軍を次々に血祭りにあげていった。


 ただし、ただ猪突猛進をしているわけではない。


 しっかりと、風を読み、火に自軍の兵が焼かれない様、冷静な対応を忘れなかった。


 曹操軍は、江陵目指して退却した。


 江陵奪取は、周瑜にとって、この戦の至上命題と言っていいものであった。全軍で、曹操軍に追撃をかけ、江陵を目指したのである。こうして、激戦の末、世に名高い「赤壁の戦い」は、孫権軍が制したのである。そして、孫権より新たな命令が周泰に届いた。


 「幼平、周瑜の盾となれ。」


 周泰は周瑜の盾となり、「南郡争奪戦」に挑むことになるのである。

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