第24回 周泰、赤壁の戦い(中)
魯粛が劉備の軍師、諸葛亮を伴い帰還した。
魯粛は荊州の現状報告と、劉備軍との同盟の提案を行った。
孫権が言う。
「諸葛亮殿、良く参られた。あなたの噂はかねがね聞いている。多くの者が天才軍師、と呼んでいる。そこで聞きたい。あなたの目から見て、もし、曹操軍がこちらに攻め込んできたら、勝つ見込みはあると思うか?」
「あると思います。」
「ほう、その根拠は?」
「まず、兵数での比較は必要ない、と言うことです。」
「兵の数だけで戦が決まらないということには同意しよう。しかし、その格差があまりにも大きければ、やはり勝敗を分ける大きな要因になるのではないか?」
「おっしゃることは、ごもっともです。しかし、今回の場合、主戦場は水軍での戦いとなりましょう。その兵の質は、明らかに孫権様の方に分があります。」
「しかし、曹操は劉表軍の水軍を丸ごと吸収したであろう。」
「荊州水軍と孫権様の水軍、どちらが優れているのでしょうか?」
「・・・。我が方と信じたいが、諸葛亮殿はどう見る?」
「明らかに、孫権様の水軍が優れています。無駄に兵数を増やすことなく、豊富な実戦経験を積み、水軍を率いさせたら向かうところ敵なしの周瑜殿という優秀な指揮官までおられる。」
諸葛亮は続ける。
「一方で、荊州水軍は真逆です。無駄に兵数が多く、大した実戦経験もない。そして、それを率いる者たちは凡庸な者ばかり。つい先日まで、荊州にいたのですから、よくわかります。」
「なるほど・・・。では、もう一つ。当方が劉備殿と同盟を結ぶことで得られる利益とは?」
「まずは、陸上戦で実戦経験豊富な我が君の一万と、劉琦殿の兵一万。合計二万の兵力が加算されます。」
「うむ・・・。」
「続いて、曹操の目が少なからず我が君の方に向くことで、曹操側に多少の隙が生じやすくなります。」
「諸葛亮殿、ちょっと待ってくれ。劉備殿が曹操にまともに勝ったことは?」
「ございません。」
「それなら何故、曹操が劉備殿をそれほど警戒するのか?」
「それは、我が君が戦に強いからです。」
孫権は大笑した。
「劉備殿が戦に強い?それなら、何故、今の様なお立場なのか。」
「それは劉備の徳が高いからです。」
「徳が高い、とは?」
「はい。私は我が君に申し上げました。今動けば、荊州全土を手に入れることが可能である、と。」
「荊州全土を?」
「はい。劉表殿が病床に臥せ、長男と次男の後継者争いが起きておりました。そこに、我が君が挙兵すれば、従う者は多くございました。しかし、それをなさらなかった。」
「何故?」
「劉表殿とは同じ宗族。同族のものを横から取るなど出来ぬ、と断られました。」
「理由はそれだけか?」
「はい。我が君が荊州を手に入れていれば、こちらもこんなに大騒ぎをせずに済んだはずでございます。」
「こちらが、大騒ぎをしている?」
「はい。こういっては何ですが、皆が曹操を恐れているのが見て取れます。」
孫権の顔が見る見るうちに赤らんできた。
「私が、曹操を恐れていると・・・?」
「はい。孫権様も、家臣団もそうでございましょう。」
「では、聞こう。劉備殿は曹操を恐れていないのか?」
「はい。恐れておりません。」
「その割に、逃げ回っているではないか。」
「それは、戦う体制が整っていないからです。もし、我が君が孫権様ほどの軍事力を有していたなら、悩むことなく戦うことでしょう。」
孫権の怒りが頂点に達した。
「子敬!(魯粛の字)主だった家臣を大至急全て集めよ!全てだぞ!」
魯粛は拝礼して、すぐさま退出した。孫権が言う。その表情は元に戻り、怒りは収まったようだ。
「諸葛亮殿、いい話が出来てよかった。今しばらく、別室にてお待ち頂けないであろうか。」
諸葛亮は、拝礼して退出した。
そして、魯粛のかけた緊急招集に応じて、文武の重臣たちが勢ぞろいした。孫権が言う。
「集まってもらったのは、曹操への対応についてだ。」
これまでの状況は、張昭を筆頭に、ほとんどの者が「降伏論者」であった。一方、「開戦論者」は、周瑜と魯粛のみという状況であった。
今回の緊急招集を受けて、降伏論者たちは、恐らく、自分たちの意見が通ったのであろう、という面持ちで集まってきていた。しかし、である。孫権は開口一番言う。
「曹操に膝は屈せぬ!もし、攻め込んでくれば迎え撃つまで!」
こういうと立ち上がり抜刀し、更に続ける。
「もうこれは決定事項だ!もし、以後も降伏を唱える者があれば、斬る!」
そういうと、目の前の机を叩き切ったのである。そして続ける。
「公瑾、お前を水軍大都督に任命する!必要なものはすべて出す!直ちに編成に入れ!」
更に続ける。
「子敬!諸葛亮と共に、劉備殿との同盟、詳細を詰めよ!全権はお前に委ねる!」
孫権は戦う覚悟を決めた。孫権がここまで強権を発動したことは今までなく、降伏論者も以後、異議を唱える者は皆無であった。
孫権は、決意表明の様に周泰に言った。
「私は、最後まで戦うぞ。何があっても、曹操に屈することは無い。」
周泰は大きく頷いて、言う。
「私も、孫権様と最後まで戦い抜く覚悟でございます。」
「幼平、よろしく頼む。」
こうして、孫権は曹操と戦うことを決したのである。
開戦の日は、刻一刻と近付いてくるのである。




