第16回 周泰、今後の方針を議論する
孫策、周瑜の大橋、小橋との婚儀により、皖城は完全に孫策の支配下に入ったと言える状況になった。もちろん、ここに至るまで、孫権を筆頭とし、周泰、蒋欽で民政の強化に取り組んだ結果である。
ここで孫策は、大きな戦いを仕掛ける覚悟を決めた。
まずは、江東に隣接する荊州を押さえる「劉表」との対決である。劉表は荊州刺史として、その有する兵力は一〇万を超える大軍を有しており、そう簡単な相手ではないが、前皖城城主の劉勲が、劉表配下の黄祖を頼って落ち延びている。黄祖は、父孫堅の仇でもある。孫策は周瑜に言う。
「公瑾、我が軍は江東を完全に手に入れた。俺の考えでは、荊州の劉表を攻めて後顧の憂いをなくして北進するか、時機が合えば、北進を敢行して曹操から献帝を奪還し、天下を取りたい、と考えている。」
「孫策様。確かに我々は江東一帯を手に入れた。民政も行き届いている。しかし、荊州の劉表にしても、北の曹操にしても、その国力は我が国をはるかに凌ぎます。まずは、国力の向上、安定化の為に、数年は内政に専念するべきかと。」
「今までの様に、勢いだけではどうにもならない、ということか。」
「そうです。せっかくこれだけの領土と民を手に入れたのです。今は、本格的な大戦に向かう前の我慢の時と考えます。」
「・・・。そうか、わかった。今一度、考えてみよう。」
孫策は、ひとまず、周瑜の諫言に従い、対劉表戦も対曹操戦も諦めることにした。
この手の議論は、孫策や周瑜のいないところでも、盛んに行われていた。
江東を手に入れた今、「次はどこなのか」と言うのは、当然に、一番の関心事になっていたのである。実際、孫権、周泰、蒋欽の三人の間でも話題になっていた。
蒋欽が言う。
「俺なら、孫策様の父上の孫堅様の仇である黄祖が守る江夏への攻撃を考えると思う。」
周泰が言う。
「しかし、黄祖の後ろには荊州刺史の劉表が付いている。劉表は戦を好まないらしいが、その有する兵力は一〇万を下らない、と言う話だ。我らが江夏に侵攻すれば、さすがに黙ってはいないであろう。」
孫権が言う。
「兄上も私も、黄祖は仇敵と考えている。普通に考えれば、まずは、江夏の黄祖を討つ、ということになるだろうが、兄上の事だ。他の事も考えているかもしれないな。」
蒋欽が言う。
「確かにそうですね。常識では、こんなに素早く江東の平定をできるはずないのに、いとも簡単に成し遂げてしまった。孫策様の考えをわかろうなんて、俺には無理な話だ。」
周泰が言う。
「まあ、そうだな・・・。我々は、与えられた持ち場で死力を尽くせばよいということだ。」
孫権が言う。
「あと考えられるのは、内政の充実を図って、国力を向上させる必要があるな。劉表と比べても、我らの国力はまだまだ劣る。」
周泰が言う。
「いずれにしても、孫権様からの指示を待ちましょう。」
孫策は、周瑜の諫言通りに、数年は内政の充実を図ることを考え出していたところ、急報が入った。
曹操対袁紹の「官渡の戦い勃発」である。
孫策の思いが時を動かしたのか、曹操は官渡、すなわち北方に兵力を集中させた結果、背中である南方はがら空きになったのである。一気に許昌を攻めての献帝奪還という作戦の実行が現実味を帯びてきた。あとは、孫策の決断一つ、ということになったのである。




