第14回 周泰、皖城の戦いに参戦する
孫策の下に急報が入った。
「袁術死す。」
袁術は非常に多くの人から恨まれており、残党もそれを自覚していた。それ故、自分たちではどうすることもできないと考え、廬江太守であり、皖城城主である「劉勲」を頼って、袁術の残党が丸ごと移動をしたのである。
このことにより、劉勲の勢力は大幅に増強された。
廬江郡に新たな脅威が誕生したことを、孫策は当然に歓迎することはできない。孫策は早速、周瑜を呼んで相談した。
孫策が言う。
「公瑾、袁術が死んだぞ・・・。」
「私の方にも情報は入ってきた。まさか、と言う感じだが。」
「ああ。どうも突然の死であったらしいからな。」
「それで、今後の事か?」
「ああ。袁術の残党が廬江太守の劉勲を頼って丸ごと移動をしたらしいのだ。そうすると、皖城の兵力は一気に膨れ上がる。」
「その脅威をどうするか、ということだな。」
「ああ、知恵を貸してくれ、公瑾。」
周瑜はしばらく、考える。そして、言う。
「皖城は、正面から攻撃するとこちらの犠牲もかなり出る可能性がある堅城だ。それ故、ここは策を使うべきかと。」
「どういった策だ?」
「廬江郡には、上繚という城がある。上繚城は、太守の劉勲に従わない姿勢を示している。どうやら、それほど規模が大きい城ではないのだが、富裕層がかなり多く住んでおり、豊かであるということだ。」
周瑜は続ける。
「そこを一緒に攻めないか、と劉勲に誘いをかける。劉勲は、いま一番欲しいのは兵糧やその調達の資金だ。恐らく、乗ってくるだろう。」
更に続ける。
「その劉勲の出動したのを見定めて、空になった皖城をこちらが頂くという寸法だ。」
「なるほど・・・。うまくいけば、ほとんど血を流すことなく、皖城を落とせるということだ。」
「どうであろう。“調虎離山の計”だ。よければ、私自ら使者となろう。」
「いいだろう、公瑾、よろしく頼む。」
こうして周瑜は、自ら使者に立ち、劉勲に上繚の共同攻撃の提案をした。周瑜が言う。
「劉勲様を頼り、袁術殿の勢力がその名声を頼って、ほとんどこの皖城に移ってきたと噂で聞いております。」
「ほう、もうそんな噂になっているのか。」
「はい。そこで、軍が急増すれば、それを養う兵糧や金子もかなり必要になると思うのですが・・・。」
「ああ。自分の兵力が多くなるのは嬉しいことだが、その点がな・・・。」
「そこで、ご提案があり、今回は参上させて頂きました。」
「ほう、提案とは?」
「我が方も、軍が日に日に大きくなっているのですが、軍費がいささか足りませぬ。そこで、我々としては、上繚に目を付けました。」
「上繚か・・・。忌々しい奴らだ。あそこには、兵糧も金も相当あると聞いている。しかし、上繚は我が方の勢力圏であるぞ。」
「存じております。しかし、今のお言葉から推察するに、上繚とのご関係は、決して良くないものであることも、当方の耳にも入ってきています。」
「・・・。何でも知っているのだな。流石は、日の出の勢いの孫策軍だ。」
「そこで、協力して、上繚城を落とすというのは如何でしょうか?」
「上繚城を、落とす?」
「はい。そうすれば、お互い、急増した軍の兵糧や軍費を手に入れることが出来るのではないでしょうか。」
「うむ・・・。しかし、そう簡単にいくのか?」
「我々が協力すれば可能かと。」
「・・・。取り分は半々か?」
「いえ、そんな図々しいことは考えておりません。軍費にあてる金子を少々頂ければ、兵糧は全て劉勲様がお納めください。」
「ほう、なかなかいい話ではないか。劉曄先生、どう思う?」
「・・・。私は反対です。まず、話がうますぎること。そして、上繚はその規模は小さいといえども、中々の堅城であり、落とすのに手こずれば、それこそこちらの兵糧はすぐに枯渇しますぞ。」
「先生は反対か・・・。しかし、私はこの周瑜殿の言葉を信じてみようと思うのだが・・・。」
「太守は劉勲殿です。太守がやるというのであれば、私はこれ以上、お止め致しません。」
「わかりました・・・。周瑜殿、この話、お受けいたす。我々が主攻、孫策殿が援軍、という形でいいですかな。」
「もちろんです。ご準備にはどれくらいかかりそうでしょうか?」
「そうだな・・・。一〇日ほど見てもらえれば、十分だ。」
「わかりました。当方も、その予定で準備を進めます。それでは、失礼いたします。」
周瑜は拝礼して、退出した。
孫策のもとに戻り報告をし、早速軍議を招集した。
孫権隊からは、孫権、周泰、蒋欽の三名が参加した。
孫策は、周瑜の献策と劉勲との話し合いの結果を全員に伝えた。そして、言う。
「孫権よ。この度の戦、皖城には孫権隊が迎え。速さが勝負だ。軽騎兵、軽歩兵を用いて、即座に皖城を手に入れよ。」
「大役、お授け下さり、ありがとうございます。必ずや、成し遂げて見せます。」
―一〇日後―
約束通り、劉勲は皖城の兵をほとんど率いて上繚に向かった。それに合わせて、こちらも孫策率いる一万の兵で応援する格好を見せた。
劉勲は、孫策自ら応援に出てきたことを心強く思い、感謝の使者を寄こしてきた。孫策は、何食わぬ顔で対応をした。
一方、皖城に、向かった孫権隊はどうか。
皖城を遠目から見ると、ほとんどからである様子が見て取れた。孫権は言う。
「ここは急襲をかけるが一番だと思うが、どうか。」
周泰が答える。
「そのお考えで問題ありません。」
蒋欽も頷く。
孫権が号令をかける。
周泰率いる軽騎兵が城門めがけて殺到する。
それを追いかけ、蒋欽率いる軽歩兵が続く。
孫権隊が一気に皖城に攻め込む。
油断しきって、且つ、少数の皖城兵は何もせずに、すぐに逃亡をして、四散した。
そして、孫権は自ら「孫」の旗印を皖城に掲げたのである。
「皖城落城」の急報は、すぐに劉勲に入った。
「孫策め、だましおったな!すぐに引き返せ!」
ものすごい勢いで引き返す劉勲軍の背中をまずは、孫策軍が散々に叩いた。そして、その途中に隠していた伏兵で軍が壊滅するほどの打撃を与え、劉勲は「黄祖」のもとに落ち延びて行った。
孫権は、城内を押さえると、周瑜に頼まれていたように、全軍で「劉曄」のことを探した。
劉曄は名高い名士であり、出来る事ならこの孫策軍に迎え入れたい、と考えていたからである。
しかし、劉曄は既に皖城を去り、後に曹操に身を寄せたと情報が入ってきた。
孫権が言う。
「幼平、公奕よ。今回の周瑜殿の策、まことに見事であったな。」
周泰が言う。
「ええ。こちらは死者を出さずに、無血入城をすることが出来ました。この皖城、正面からまともにやりあったら、かなりてこずる城であったと思います。」
蒋欽が言う。
「軍師、というのはすごいのですね。俺なんか、真正面からやりあうことしか思いつきません。」
孫権が言う。
「ああ、周瑜殿が我が軍に加わったことは本当に大きい。これからも、我が軍の勢力はどんどん伸張していくであろうよ。」
周泰と蒋欽は頷いた。
こうして、皖城の戦いは、周瑜の鮮やかな策によって、すぐに終結したのである。




