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周泰  作者: 涼風隼人


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第11回 周泰、命を懸けて孫権を守る

 「幼平よ、では、行って参る。」

 

 周泰は、拝礼して見送る。

 

 孫権は、毎日の習慣として、城内や周辺集落の巡察を自ら行うことにしている。

 

これは孫策も日課にしており、偉大なる兄を持つ弟として、見習っての行動であろう。


 時には民と直接語らい、孫権の人気も民からは高くなってきていた。


 「人の上に立つものは、こうやってできていくのだな。」

などと、周泰は思ったりもした。


 孫権と周泰は、いい組み合わせといえた。


 孫権は朗らかな性格であり、周泰は生真面目そのもので、お互いに無いものを補完できるような関係であった。


 孫権が城外に巡察に出ているときは、周泰はその方向をじっと眺めていた。


 その時である。


 遠方に、煙が昇った。孫権の巡察予定の集落がある方向である。孫権たちが、そちらに向かう様子も伺える。


 周泰の経験からして、あの立ち上る煙は火事の様なものではない。


 「まずい!」

 周泰は思った。そして、副官を呼び出して指示を出す。


 「城門を全て閉じよ。そして、各城門に至急、兵を配置せよ!」


 「周泰様、何事でございますか。」


 「何者かかがこの宣城を狙っているかもしれぬ。私は孫権様の下に向かう。私が帰ってくるまで、この城の指揮はお前に任す。」


 「わかりました。全軍に臨戦態勢の指示を出し、この城を死守して見せます。周泰様、どうぞご無事で。」


 周泰は単騎、煙の立ち上った集落を目指す。


 単なる火事であってくれ、周泰は祈る。


 目的の集落が近付いてくる。


 聞こえてくる馬蹄、雄叫び、悲鳴、叫び声。


 単なる火事ではなく、この集落に火を放ち、何者かが襲ったことが確定した。周泰は急ぐ。


 「山越の兵か・・・。」

 山越兵がそこかしこで暴れている。


 周泰はとにかく孫権を探すのに躍起になっている。


 その姿に山越兵が気付き、襲い掛かってきた。


 槍を一閃させ、数人の山越兵を吹き飛ばす。周泰は叫ぶ。

 「孫権様!孫権様はいらっしゃるか!」


 答えは帰ってこない。周泰は、孫権を探して回る。


 少し先に、何かを取り囲む山越兵の一団が見えた。


 「ここだ。」

 周泰は加速して、その山越兵の一団に突撃する。


 不意を突かれた山越兵の多くは、周泰の槍の餌食となる。


 「孫権様!」

 見えた。やはり、この一団は孫権を取り囲んでいたのだ。


 孫権の護衛に付けた者たちは既に息絶えている。


 「幼平、幼平!私はどうすればよいのだ?」


 孫権も周泰に気付いた。


 「孫権様!もう大丈夫です。この周泰の後ろに隠れてお待ちくだされ!」


 周泰はものすごい勢いで槍を振る。山越兵が吹き飛ばされる。そして、多くの者が周泰の槍で刺殺される。しかし、山越兵はどれだけいるのか、次々に湧いて出てくる。


 周泰が少し疲れを見せ始めたとき、山越兵の槍が周泰の肩口を捕らえた。


 「うっ。」

 周泰はこらえる。そこを逃すかと、山越兵が逆襲に転じる。槍、剣が交錯する。周泰は、意識がもうろうとする中、最大限の力を振り絞り、槍を振り回し、密集していた山越兵を吹き飛ばし、左手で孫権を抱え、自分の馬に乗せた。


 そして、山越兵の一団の囲みから急いで脱出をする。


 山越兵の騎馬が周泰を追撃してくる。


 孫権を抱えているが故に、いつもの速さを出すことが出来ない。周泰は自分が降りて、孫権だけでも逃がそうと考えた。その時である。鬨の声が聞こえてくる。こちらに、無数の騎馬が向かってくる。先頭を走るのは、孫策であった。孫策が言う。


 「幼平!我が弟の命、よくぞ守ってくれた!あとは俺に任せて、このまま宣城に避難せよ!」

 孫策は孫権に馬をあてがった。そして、周泰と共に、宣城に向かって下がっていく。馬上で孫権が声を掛ける。


 「幼平、幼平!大事ないか?」


 「・・・。はい、大丈夫です。孫権様もご無事でよかった。」


 「本当にすまぬ。まさか、山越の兵がこちらに来ているとは・・・。」


 「私も全く気付きませんでした・・・。申し訳ございません・・・。」

 こういうと、周泰は馬の上にぐったりと倒れた。


 今度は、孫権が周泰をのせて馬を走らせる。


 宣城に到着した。幸い、宣城は無事であった。


 孫権が周泰に声を掛け続けるが、返事が無い。


 幸い、わずかながら呼吸はしており、心臓の鼓動も聞こえてきた。


 夕暮れ時になった。孫策たちが帰ってきた。


 山越兵は思いのほか多く、かなりの乱戦であったようだが、最後は孫策軍の勝利であったという。


 孫策が孫権に聞く。

 「仲謀、お前は大丈夫か?そして、幼平の容態は?」


 「私はかすり傷・・・。幼平がまさに、命を懸けて私を守ってくれました。容態はあまりよくありません。全く目を覚ます様子がございません。」


 「幼平の様な忠義の者を死なせてはならぬ。医師団を形成して、幼平が目を覚ますまで、治療に当たらせよ。」


 周泰は卒倒したまま、ずっと目を覚まさなかった。


 三日間、眠り続けた。そして、ようやく目を開けた。


 周泰が目覚めたと聞いて、孫策と孫権がすぐにやってきた。


 孫権が言う。

 「幼平よ、済まぬ。未熟な私の為に・・・。」


 「何をおっしゃいますか。毎日の巡察、孫策様同様、しっかり行えていたではありませぬか。そして異変に気付いてあの集落に急行なされた。孫権様は、立派にお役目を果たされたのです。」


 「何を言う・・・。本来であれば、まずはお前に相談すべきであった。そうすれば、この様なことには・・・。」


 孫策が言う。

 「仲謀よ、まさにその通りだ。まずは周泰に相談すべきであった。お前の未熟な行動で、忠義の士を失うところであった。十分に反省せよ。」


 「はい・・・。このこと、この仲謀、生涯忘れませぬ。」


 孫策が周泰に言う。

 「周泰、この未熟な弟を許してやってくれ。そして、この私も総大将として、まだまだ未熟であった。宣城の守備兵を、もう少し残すべきであった。」


 「孫策様、全ては私の不徳するところ。本当に、申し訳ございませんでした・・・。」


 「幼平、お前が謝ることなど何もない。これからも、よろしく頼むぞ。」

 周泰は、頷いた。


 こうして、孫権と宣城の危機は、周泰の武勇によって救われたのである。孫策は、この周泰を直ちに春穀県長に任じ、その働きに報いたのである。そして、周泰がこの戦いで負った「一二ヶ所の傷」に関しては、後に孫権と周泰の結びつきを示す象徴となるのである。

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