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1_06_王女の友人系主人公

 枢密院会議から数日後。俺とシャーロットは王城の一角にある部屋を、秘密情報局の仮本部としていた。


 学院終わりにここへ来た俺たちは、ソファに座って一息つく。


 狭くもないが広くもないこの部屋で、俺たちは最初の関門にぶち当たっていた。


 「……人員が必要ですね」


 「ええ。お父様からは創設に関してかなりの裁量権を与えられているから、かなり自由にできるわ」


 「まず条件としては、高い忠誠心、情報機関員としての基本資質、高度な能力または専門スキル、の3つでしょうか」


 「そうね。その3つを基準にしましょう。それにしてもどうやって集めましょうか」


 「組織の核となるメンバーは我々でスカウトして、他は募集掲示でも出しますか?」


 「張り紙で募集するの?」


 「ああ、もちろん情報機関の募集ってことは隠しますよ?」


 「いいわね。それで行きましょう」


 「はい。あ、シャーロット様紅茶のおかわりは要りますか?」


 「ええ、ありがとう。ルークは紅茶を淹れるのも上手ね」


 いつもシャーロットに淹れている人と比べたら劣るだろうが、それなりに美味しいと自分でも思っている。


 この世界に来てから紅茶にハマったからな。


 「ルーク」


 「なんですか?」


 紅茶をカップに注いでから視線を向けると、何故かシャーロットがふくれていた。


 「シャーロット」


 「え?急に自己紹介ですか?」


 「違うわよ!」


 「えぇ」


 シャーロットは、ソファの縁に右肘を置いて頬杖をつく。


 左手でワインレッドの髪先をいじりながら、ジト目になった彼女は「恍けてるの?」と言った。


 「今この部屋には私と貴方しかいないわよね?」


 「ええ、そうですね」


 「つまり二人だけ」


 「?……あ」


 俺は数日前の出来事を思い出した。


 「……シャーロット」


 「そうよ!二人だけの時はシャーロットって呼ぶよう言ったのに」


 「申し訳ありません。余りに突飛なお願いで忘れてました」


 あれからシャーロットと二人になることはなかったので忘れていた。


 「……んー、この際その堅苦しい話し方もなくしましょう。もっとリラックスして」


 「数日前の陛下と同じようなことを仰ってますよ。それに敬語をなくすのは……」


 「だめ……かな?二人きりの時だけでいいから」


 ジト目から一転、悲しそうに目を伏せる。


 偶に普段と違う口調になるのは何なんだ。心臓に悪いからやめてほしい。


 「貴方に心の内を話した時から、ルークのことは心から友人だと思っているの」


 万が一おおやけになれば非常にまずいが……。


 「……分かったよ。これでいいか?シャーロット」


 「――っ、ありがとうルーク!」


 俺との間にある机を飛び越して、抱き着いてきそうなぐらい喜んでいたが、丁寧に躱しておいた。


 「俺もシャーロットのことは友人だと思っている」


 精神年齢的にどちらかというと、成長を見守る兄みたいな感じだけど。


 「でも、俺は公爵家の三男、シャーロットはこの国の第二王女だ。それは覚えておいてほしい」


 「もちろんよ!」


 さっきの悲しそうな表情が何だったのかと思うくらいニコニコしている。


 「それで、会議では組織構成もある程度話していたけど、その辺の共有もしておきましょう」


 急に話が戻ったな。


 「そうだな。今のところ部門は6つ考えているが、3つは後方支援とカウンターだから創設初期は3つになるはずだ」


 「たしか諜報部門だったかしら?」


 「ああ、ひとつは諜報部。商人や学者、兵士など様々な身分に偽装して国内外に潜入、諜報網を築いて情報を集める。協力者や傘下組織の管理もここが担う」


 「傘下組織って?」


 「表向きは別の組織や団体として存在しているが、実際には機関の管理下や影響下にある組織のことだな」


 「傘下組織の役割は?」


 「例えば商会だったら、資金調達洗浄、輸送、情報操作などいろいろある」


 「でも一から商会をつくるのは大変そうね」


 「あー……実は俺がつくった商会があるから、そこを使うつもり」


 「え、あなた商会持ってるの?」


 「ああ、俺は表に出てないから丁度良かった」


 「商会名は?」


 「シルヴァネル商会って言うんだけど知ってる?」


 そう言うと、シャーロットは目を見開いた。


 「え!?それって数年前から急拡大しているエルフの商会じゃない!というか貴方がつくったの?」


 「昔いろいろあってな」


 「いろいろが気になるわよ」


 「長くなるから今度話すよ」


 「……分かったわ、でも傘下組織を増やすのは直ぐにとは行かないわね」


 「まあ、商会が初めから手元にあるだけで満足しておこう」


 「そうね。……二つ目の部門は?」


 「特務部だ。簡単に言うと少数精鋭の実行部隊だな。破壊工作や暗殺、諜報部だと困難な潜入とか任務は多岐にわたると想定してる。国家の安全保障上必要とされる全ての任務を遂行できるのが理想だな」


 「かなりの実力が必要じゃないかしら」


 「だろうな。最初はかなり少人数になるはずだ」


 この部門は前世のスパイ映画の超人的な主人公達をモデルにした。


 「三つ目は情報分析部。機関に集まる膨大な情報を精査、分析して報告書を作成する部門だ」


 「この部門は文官からも採用できそうね」


 「ああ、それと部門長は既にあてがあるからその人にするつもりだ」


 「早いわね。誰なの?」


 「国王補佐団補佐官の一人だな」


 「うちに来てくれるかしら?」


 「一応知り合いというか、親しい人なんだ。……変わった人だから二つ返事で来てくれる、と思う」


 「……貴方、商会から補佐官まで人脈が物凄いわね」


 「これでも公爵家三男だからな」


 「にしてはよ」


 「そうか?」


 「そうよ」


 たぶん環境と縁に恵まれたんだろう。


 「それで創設時の人数は何人ぐらいの予定なの?」


 「あー、最初に話した機関員の条件を考えると、諜報員30名、特務員3名、分析官10名くらいが限界かもしれないな」


 「分かったわ」


 シャーロットは頷きながら頭の中で内容をまとめている様だった。


 「それにしても、あなた戦闘力も化け物なのに、情報機関なんてものを思いつく頭脳も持ってるなんてどうなってるの?」


 「まあ……親の教育が良かったんじゃないか?」


 まさか人生2回目ですなんて言えない。


 「誤魔化したわね」


 呆れた表情でこちらを見るシャーロットに肩をすくめてみせる。


 「ミステリアスな友人とかどうですか?」


 「……まぁいいわ。本題に戻りましょう。最初に話した通りスカウトと募集掲示で集めるとして、候補から43人を選抜する方法は考えてるの?」


 俺の軽口を呆れつつも受け流してくれるあたり、彼女もだいぶ俺の扱いに慣れてきたようだ。


 俺は紅茶を一口飲み、問いに答える。


 「選抜試験をしようかと思っている」


 「選抜試験?」


 「ああ、情報機関員としての資質を徹底的に試す」


 選抜試験に関してはジョーカーゲームを参考に考えてある。


 「分かったわ。……ある程度認識は共有できたわね」


 「なにかあればいつでも聞いてくれ」


 「ええ、ありがとう。……本当は貴方が長官をやるべきだと思うのだけれど」


 不安そうにそう言うシャーロット。


 「俺は上に立つ素質が無いからな、適材適所だよ」


 「私だって自信ないわよ」


 最近は学院で人と関わるようになり、王女としてのカリスマ性を発揮しだしている。


 今考えると、以前のシャーロットはかなり余裕がなかったのだろう。悩みや不安を一人で抱えすぎるところはシャーロット悪いところだ。


 だが、今ではこうして俺に弱みを見せてくれるので、頼ってくれるうちは支えたい。


 「今のシャーロットなら大丈夫だ。友人を信じろ」


 シャーロットを安心させるように微笑むと、彼女もつられるように微笑んだ。


 「なによそれ」


 この日から俺たちは機関員集めに奔走することになるのだった。

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