第8話 魔王軍幹部、襲来
2026/1/2追記:一部書き直しをしました。
突如として村に舞い降りたのは、丸々とした白銀の巨大な怪鳥だった。
濃紺の頭頂、立派な羽の先端や長い尾に帯びるグラデーションがかった青や翠はあまりにも鮮やかで、毒々しさすら感じさせるほどである。
ゴブリン達はただただその圧倒的な存在に畏れをなし、その場から動けない。
「頭を垂れるがよいゴブリンども!我輩は魔王軍幹部、''魔王の五本指''がひと指にしてキサマらフツ~の魔物の総括者!恐ろしぃ~凶鳥…インディセ様である!!」
魔物は翼を大きく広げながら、高らかにそう名乗りをあげた。
魔王軍幹部って…なんだよその明らかに物騒な肩書きは!やっぱり魔王とかいるんだこの世界…やだ…関わりたくない!!
しかもこの魔物には名前があるみたいだ…親方が言ってた''よっぽど偉い魔物''ってことなのか?
なんでそんな魔物がこんなところに…
「ハイ!せーの!''ようこそインディセ様~!''ハイ!」
インディセ様は自分の言葉を復唱するようこちらに促してくる。
「「「ヨ、ヨウ…コソ…インディ…」」」
ゴブリン達は体がすくんで声がうまく出せない。
インディセ様は諦めずにもう一度催促してくる。
「''ようこそ!インディセサマー!''はい!」
「「「ヨ、ヨウコソ、インディセサマーー!!」」」
「うむ、ヨロシイ。知能はぼちぼちといったところか」
インディセ様は翼を畳んで、ゴブリン達を見定めるように辺りを見渡す。
「…それにしても、なぁ~んだか気の抜けた集落じゃのぉ~。キサマラ退屈じゃないのかグェ?魔物ならもっと、血湧き肉躍る戦場に身を置かねば!」
戦場!?なんだか本格的に物騒な話に…
や、やめてよ…俺のほんわかゴブリンスローライフを壊さないで!
「数もゴブリンにしては少なめグェ。ジジババも妙に多いし…のほほんと暮らしすぎグェ。我ら魔物はその血の一滴までもが魔王様のものだグェ!いついかなる時も魔王様のお役に立てるよう在らねばならんグェ!自覚あるグェ?」
「ギ…ギィ……」
「グェ~~~…キサマラ、失格グェ!魔王軍のゴブリン部隊に加えてやろうと思ったが、こんなに殺気がないんじゃ戦場で使えないグェ。まったくもうっ!キサマラ魔物としての意識が低いグェ~!」
インディセ様はそうお説教をしながらタシタシと足で地面を軽く叩く。
「キサマラのようなゆるゆるゴブリンなぞ、そのまま森でぬくぬく退屈に暮らしているがいいグェ!とんだ無駄足グェ…我輩はもう行グェ!」
インディセ様は今にも飛び立ちそうだ。
もしかして…このまま何事もなく帰ってくれる感じか…?
よかった…魔物になった身でこんなこと思っちゃいけないのかもしれないけど、魔王軍だなんて怖すぎて正直関わりたくない。
(元)人間のエゴかもしれないけど、ここのみんなには人を殺したり、生きていく上で不必要な殺生を楽しむような真似はして欲しくない。
特に親方や兄弟達には…
インディセ様、おっかないけど案外無理強いはしない人みたいでよかっ
「あ、いや手ぶらもなんだしどうせなら雑用係として使えそうな者くらいは連れていくグェ」
「え」
予想外の発言に思わず俺は声を漏らしてしまった。
「ん?キサマ今「え」って言ったグェ?」
しまった!
ヤバイ!!
目をつけられる…っ!!
「……っ……っ!!」
俺は必死に首を横に振った。
テンパりすぎて言葉がうまく出てこなかったので、とにかく振った。
「コケー…」
インディセ様はそのまま俺への興味を失い、話を続ける。
「さっきから気になっていたグェが、キサマらがちらほら身に付けている皮の防具…人間のにおいがしないのに出来が良いグェ~!ってことはこれを作ったゴブリンがいるグェ!器用グェ!誰グェ?魔王軍の為に働いてもらうグェ!」
皮の防具って…お、親方が連れていかれる!?
よりによって平和好きの親方が…!
「ッ……」
「なァ~んで誰も名乗り出ないグェ?城に来て装備品の管理や修繕をするグェ!きっと色々見られてキサマラも楽しいグェ!なのにやりたくないグェ?なんでグェ?まさか……」
インディセ様の声がそこから一気に低くなる。
「魔王様の為に働くことを拒むつもりグェ?」
「っ……!?」
凍てつくような殺気がインディセ様から放たれ、その場にいるゴブリン全員に怖気が走る。
逆らったら死ぬ…そう誰もが思い知る。
ちょっといい人かと思ってたけど、やっぱりこのお方は恐ろしい存在なんだ…
「オレ……デス……ッ」
「……っ!」
このままでは仲間に危害が及ぶと察したのか、親方が体を震わせながら名乗り出た。
そんな…このままじゃ本当に親方が…!
「ホウホウ、キサマか」
インディセ様から殺気がスッと消え、すぐに元の軽快なトーンに戻る。
「他にはいないグェ?この皮の鎧なんて大したものグェ~」
「ヨロイト、ボウシハ、オレシカ、ツクレマセン…」
「ホー、そうかそうか。ならキサマだけでよい。いやー助かるのぉー。軍の魔物は壊すことはできても直すことは苦手ゆえグェ…」
親方…他のみんなに関心がいかないよう、自分だけ行くつもりなんだ…
……このままでいいのか?
このまま、親方を魔王軍なんて物騒なところに行かせていいのか?でも俺に何ができる?
まだガタガタの盾しか作れないのに「親方の代わりに俺が行きます!」とか言っても筋が通らないだろ…もし余計なこと言ってインディセ様の機嫌を損ねたら、全員殺されるかもしれない。
俺は…俺は……!
「……やっぱりキサマ、さっきから様子がおかしいグェ」
「え…?……っ!!?」
俯いていた俺が顔を上げると、インディセ様の顔がすぐそこに迫っていた。
「ヒィィ…ッ!?」
ビビり散らかしてその場で尻もちをついてしまう。漏らさなかっただけ褒めてほしい。
「キサマ、まさか……」
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!
魔王軍を良く思ってないのが顔に出てた!?
こ…殺される!!
「キサマも働きたいグェ?」
「……え?」
「コケーコッコッコッ!なぁんじゃ!そうならそうと早く言うグェ!キサマは武器や防具に心得はあるグェ?」
「オ、オ、オレは……」
「ッ……」
親方から「''ナイ''トイエ!!」という圧を感じる……でも……俺……すみません!
「ッ…盾、チョットダケ、作レマス」
「オマエ……!」
「おぉそうか!ならコイツの手伝いをするグェ!ゴブリンは群れる種族じゃからのぉ~、同郷の仲間がいた方がきっと働きやすいグェ!じゃ、行グェ!」
「え、うわ…っ!?」
バサッバサッ!とインディセ様は飛び上がる。
そして両足の三本指をぐわっと広げ、右足で俺を、左足で親方を鷲掴んだ。
「ぐぇっ!?」
俺達を掴んだインディセ様は翼を地面に打ち付けるようにして大きく羽ばたき、その体はぐんぐんと高度を上げて地上から離れていく。
それに伴ってこちらから見えるみんなの姿もどんどん小さくなっていく…
「キィー…キィー…!」
あぁ…あの心配そうに鳴いてくれているのは兄弟達かな。
みんな元気でな…兄ちゃんお務め行ってくる…
そして森の上空まで上がりきると…
森の中しか知らなかった俺の目に、異世界の広大な土地が映り込んできた。
「わァ…すげぇ…!」
「グゲェ~コッコ!ゴブリンが空の景色を見ることなんてないグェ?ありがたぁ~く空の旅を楽しむグェ!」
インディセ様はそう言って翼を広げ、風に乗り始める。
なんか…冒険っぽくて楽しいかも…!
……うっかり落とされたら死ぬってことと、これから行く先が魔王軍に関わるどこかであるということを除けばの話だけど。いや無理。除けない。やっぱり怖い!
俺達…これからどうなっちゃうのぉ~!?




