第7話 指スマ、流行る
それからも俺と親方は、仕事の合間やメシの時間に指スマをして遊んだ。
他のゴブリン達はその様子を横で不思議そうに見ていた。
ルールを説明してみたものの、流石に親方ほどすぐには飲み込めなかったようで皆初めの頃は首をかしげるばかりだった。
それでも何度も遊んでいる様子を見て、ルールを聞いて、見て、聞いて…
そうやって繰り返していくうちに、ちょっとずつゲームを理解できる者が現れ始めた。
そして一週間後…
気付けば村のゴブリン達の間で指スマが大流行していた。
今まで数が覚えられなかったゴブリンも、指スマをきっかけに4まで数えられる者が激増した。
遊びにすると覚えられることってあるよね。
メシを食ったら指スマ。仕事の合間に指スマ。
時には仕事をサボってまで指スマ、寝ても覚めても指スマ…流石にハマりすぎじゃない?
どうやらゴブリンにとって指スマはなかなかに頭を使うようで、もしかしたら人間でいう囲碁や将棋くらいの遊びをしている感覚なのかもしれない。
勝敗があるというのも魔物的にツボらしい。
自分ではまだルールが理解できていなくて遊べない者も、観戦しながらなんとなく勝負の雰囲気で盛り上がることができているようだ。
「イッセーノ、○○!」といった声がいつも村のどこかから聞こえてくる。
魔物の世界にこういった遊びがないっていうのは本当なんだな。みんな夢中で…楽しそうでよかった。
そのうち3人以上のやつもできそうだな。あ、大会とか開くのもありかも。平和だなぁ…
「ミンナ、タノシソウダ」
親方がその光景を嬉しそうに眺めながら言う。
「ですネ。気に入ってもらえてヨカッタです」
俺が考えたわけではないんだけどね。
「コノ森ノゴブリン、カリスル、メシ食ウ、オドル、シャベル…ソレダケデモ、タノシソウダッタ。ソコニユビスマ、クワワッタ。モット、タノシクナッタ。タノシイ、オオイ、イイコト。タイクツシナイ」
……?
なんだろう、親方の目がどこか遠いところを見ているような…
「森ノソトノマモノモ、アソボー、シルコトガデキタラ、スコシハ……」
「……親方?」
親方は首を軽く横に振って、俺の方を見た。
「ナンデモナイ。ソレニシテモ、オマエ、ホントウニフシギナヤツダ。アソボーヲシッテイタリ、ナマエヲヨンダリ」
「エ、名前?」
「オレノコト、''オヤカタ''ッテヨブダロ?マモノハナカマ、ナキゴエデヨブ。デモオマエ、コトバデヨボウトスル。マモノ、ヨッポドエラクナイト、ナマエ、キニシナイ。ナマエヲヨブコト、アマリオモイツカナイ。ニンゲンクライダ。ナンニデモ、ナマエヲツケルノハ」
た、確かにゴブリンってひとりひとりに名前をつける感覚なさそうだなーとは思ってたけど…そんなに異質なことだったのか。
俺、もしかしてゴブリンとして結構変な目立ち方しちゃってた?
それが人間みたいだってことまで分かるのは親方だけみたいだけど…
「……ジツハオマエ、ノロイカマホウデゴブリンニサレタ、ニンゲンダッタリシテナ」
「エ…ハ、ハハ、そんなマサカァ!ハハハ…」
あながち間違いじゃない…けど、ゴブリンになったこと呪いって言わないで。俺は結構楽しんでるから!異世界ゴブリンスローライフ!
「ナンニセヨ、オマエガ村、キテクレテヨカッタ。アソボー、シルコトガデキタ。アソボー、ユビスマ、スゴイ。村、キット、モットヨクナル。オマエノオカゲ」
指スマで村が良くなるってそんな大袈裟な…と思ってしまいそうになるが、''ルールのある遊びを楽しむことができる''というのは魔物にとって何か大きな一歩なのかもしれない。
「…オレモ、コノ村の仲間に入れてもらえて本当ニ良かったデス!今度ミンナでやるタイプの指スマもやりマしょう!3人でやったら親指最大6本、4人でやっタラ8本、5人でやったら10本ニなりマスヨ!」
「ナニ!?ソレハマタ、タノシソウダ!ハヤクアイツラニ、カズヲジュウマデオボエサセナイトナ!」
親方は乗り気だ!
ゴブリン達が夢中で指スマをしている姿はなんだか少しシュールだけど…平和でいい光景だと思った。やっぱり俺の第二の人生は自然と仲間に囲まれた、ほっこりスローライフなのだと確信した。
確信していたんだけども。
俺が平穏を噛み締めていたその時、目の前に一枚の大きな羽がひらひらと落ちてきた。
「ン?羽……?」
上を見上げると、何か大きな影が村の上空を…飛んでいる…?
それはみるみるこちらに近づいてきた…!
「グォォォオオオオ!ヒカラハナレロ!!」
狩り部隊のエースゴブリン達が雄叫びを上げながら焚き火や寝床から全員離れるよう指示する。くつろいでいたゴブリン達は、慌ててその場から逃げるようにして離れる。
そして次の瞬間…
ドシャァァア…!
村の中心である焚き火の上に巨大な何かが降り立った。踏みつけた火をものともしない''それ''から放たれる、凄まじい圧。
魔物の体がしかと俺に告げてくる。その存在は、とてつもない強さの''偉い何か''なのだと。
「グケーッコッコッコ!こぉ~んなトコロにゴブリンの集落があったとは、驚きグェ~!」
俺の平穏なゴブリン生活に終わりが告げられようとしていた。




