第5話 人間の遊び
盾作りを始めてから奮闘すること約二週間…
「デ、デキタ……!」
ついに、俺人生初の盾が完成した!
不恰好だけど…なかなか盾っぽいんじゃないか!?いやぁここまで長かった。
皮の様子が気になって俺も早起きして火の番をしたりしてあぁ、職人の朝は早いってこういうことなんだとか思ったりして俺はこれから森の防具職人として生きていくんだなってちょっと背筋が伸びる思いだったりしてそんなこんなで記念すべきこの初盾は一生大切にしようと思
「ン、ツカエソウダナ。カリニイクヤツラニ、ワタセソウダ。オマエ、スゴイ」
「ア……」
そうだった。これ渡すやつだった…。
そう、俺としては記念に飾っておきたいくらいの気持ちではあるんだが、一生の宝物にしたいくらいの気持ちではあるんだが、この盾は仲間の命を守る為に作ったものだ。
戦士が狩ってきた魔物の皮で作った、戦士の為の盾。
盾は防具の中で最も消耗が激しく、消費も早いのでスライム狩りくらいしかしない俺が手にしている場合ではない。
初作品を手元に置いておけないのはちょっと惜しいけど…でも狩りに行ってくれる仲間の力になれるのは、誇らしいことだよな。
「オマエ、オボエルノハヤイ。タテツクレルヤツガフエル、スゴクタスカル」
「アリガトウゴザイマス!デモ、ヤッパ親方ミタイニはいかないデスね…」
「ソンナスグニ、オレミタイニナッテモコマル。オレノメンツ、マルツブレ」
親方は少し笑いながらそう言った。
「デ、デスヨネ…失礼シマシタ。…モウチョットだけ、俺が作っタ盾ヲ眺めていてもイイですか?初メテ作っタカら、嬉シクて」
「フッ…イイゾ」
親方は嬉しそうにしながら、防具作りの道具を手入れし始めた。
穏やかな時間。
俺達の師弟関係もだいぶいい感じなんじゃないか?
「……ツクル、タノシイ、カ?」
「ハイ!難シイですケド、達成感ガアッテ…仲間ノタメニモナルシ、オレ頑張リマス!」
「ソウカ……」
親方はとても感慨深そうにしている。
盾を作れるゴブリンはちらほらいるんだけど、あまりやりたがらないというか、土集めや木材集めに行きたがる。そしてなかなか帰ってこなかったりする。
だから、俺が真面目に作る方に取り組んでいることが嬉しいんだろうな。
「ゴブリンハ、ナニカヲアツメタリ、カリシタリスルホウガスキダカラ、ズットツクルダケダト、アキルヤツ、オオイ。シカモ、森ニイクトチョットサボル。虫食ッタリ、木ノウエデネタリ、オドッテタリ…」
だから帰りが遅いのか…
「マ、マァデモ、イッパイ集めテキテクレマスよね」
「マッタク、アイツラハ、ノンキダ」
その言葉とは裏腹に、親方の表情は呑気なゴブリン達を微笑ましく思っている様子だった。
「平和ッテことデスね」
「ヘイワ……ソウ、イウノカ、コレハ」
親方は、''平和''という言葉を噛み締めるようにそう呟いた。
「イイナ…ヘイワ」
「へへ、デスネ」
「……オマエハ、マダワカイノニ、イロンナコトバヲシッテイルナ。マルデ、ニンゲンミタイダ」
ギクッ…
「ソ、ソンナコトナイデスヨ…」
「オマエヨク、''アリガトウ''ッテイウ。ソンナコトバヲツカウノハ、ニンゲンクライシカ、オレハシラナイ」
そ、そうなのか…
そういやかーちゃんも''ありがとう''とか''いただきます''みたいな言葉は特にわからなさそうにしてたな。
お礼や挨拶をわざわざ言葉で表すことは、ゴブリンの世界じゃ異質なのかもしれない。
「ギッ!」「ギィィイ!」みたいな鳴き声だけで意思疏通してることも多いもんな…盲点だった。
「エ、エーット……」
なんて説明しよう?
転生したことってどのくらい言っていいのかな?
別にダメではないよな?
異世界から来たことだけ伏せて、前は人間だってことはそのまま言っちゃおうかな?
………いや、ダメかもしれない。
ゴブリン達が優しくしてくれるのは俺が同じゴブリンだからで、中身が人間だと知れたら俺はゴブリンとして見なされなくなるかもしれないわけで、ゴブリンとして見なされなくなったら追放とかされちゃうかもで、なんなら八つ裂きにされたりするかもで…!!
いや、この村のみんなに限ってそんなことしないか。
いやわからない。魔物としての恐ろしい一面がみんなにもあるかもしれない。
いや、ないかな…いやでも…いやいやでも…
「エーット…」
「……」
「んーット……」
「……?」
「…………胎教?」
「タイ…キョウ…?」
「カ、カーチャンの腹ノ中で聞イタリしたンデスかネ~…?ドコで覚えたカを覚えテナくて……」
「ン…ソウイウコトモアルノカ…?ハハオヤカ、チチオヤ、ニンゲンノコト、クワシカッタノカモナ」
「カモデスネ~…」
すみません親方、テキトーなこと言って。
ただの中身人間ゴブリンでホントすみません。
「オレモ、ニンゲン、スコシダケシッテル。ムカシ、ニンゲンノ村、コッソリミテタ」
「エ!森ノ近クに、人間ノ村ガあるンデスカ!?」
「イヤ、ナイ。オレ、モトモトハ、コノ森ノゴブリンジャナカッタ。トオクカラキタ。デモ、ナカマ、イレテモラッタ。ココノヤツラ、イイヤツラ」
「ナルホド……」
森の近くに人間の村はないのか…残念なような、ホッとしたような複雑な気持ちだ…。
人間が恋しくないと言えば嘘になるし、出くわしたら討伐されるんじゃないかと怖くもあるし…心が二つある~!
てか、親方は違う土地の生まれだったんだな。
森の外の世界を見てきた人だから物知りなのかもしれない。
「トオクノ、ニンゲンノ村デ、イロイロミタ。ボウグモ、ニンゲンガヤッテタコトノマネダ。ツクッテイルトコロ、ナンドモミテ、タメシテ…ソレデヤット、スコシマネラレタ」
「ソレデこんな本格的な防具ガ作れルんですね…!」
この皮の防具一式はゴブリンの文明じゃなくて、親方が人間の文明に影響を受けて作った独自のものだったのか。
親方の防具…兄弟もお世話になってます。ありがとうございます。
「ニンゲンノ村、イロンナコトシテタ。ホトンド、ナニヲシテルカ、ワカラナカッタケド…ヘイワ、ダッタトオモウ。……オマエ、''アソボ''、シッテルカ?」
「アソボ?ウーン…チョット、ワカラナいかも…」
「アソボ、アーソーボ、アソボー…ニンゲンノ村ノコドモ、ヨク、イッテタ」
「ア、''遊ぼー!''カ!''一緒ニ遊ボウ''ッテコトですネ」
「オォ、シッテルカ!アソボー、イチバン、ミテモワカラナカッタ。ナニカヲハナシナガラ、手ヲツカッタリ、足ヲツカッタリ、ドウグヲツカッタリシテタ。ソレダケデ、トテモタノシソウダッタ。カチマケモ、ヨクキメテイタ。デモ、ナニガカチデ、ナニガマケカ、ワカラナカッタ…」
遊びのルールが分からなかったってことか。
確かに、ああいうのって簡単なルールだったとしても実際にやってみないとピンと来なかったりするんだよな…
特に子供の遊びはルールがオリジナル化してくというか、妙に複雑化していくこともあるし。
あー、俺も小学生の時に隣のクラスで流行ってたエクストリーム氷鬼のルール、全然わかんなかったなー。
何がエクストリームだったんだろう。今でも謎だ。
「オマエハ、ワカルカ?」
「ンー…オレガ知ってル遊びト、その子供達ガヤッテタコトガ同ジカハ分かりまセンけど…」
この世界にもありそうな遊びってなんだろうな…?
「カズ!カズカゾエテタ!イチ、ニ、サン…ナニカ、カズ、イッテタ!カッタ、イッテタ!カチ、マケ、アル!」
親方は目をキラキラさせながら食い気味で俺に聞いてくる。
親方にとって、長年の謎が今解けようとしているのだろう。
応えてあげたいけど…
「数…勝チ負ケ…ウーン…」
勝ち負けがあるもので、数があって、子供がやりそうな遊び……………
「……指スマとか?」
「……ユビスマ?」
うん、絶対違う。
「ユビ、ツカウノカ?」
「ア、イヤ、エーット……」
色々ある遊びの中で一番この世界になさそうなものをあげてしまった…
じゃんけんとかけんけんぱとか、まだそっちの方がこの世界にありそうだろ。
でも勝ち負けがあって数を言う場面がある遊びっていうと、咄嗟に出てくるのが指スマくらいしかない…
「ユビスマッテナンダ。ドウヤルンダ」
「タ、タブン、ソノ子供達ガヤッテタ遊ビトハ違うンじゃナイカナ…」
「チガクテモイイ。アソボーナラ、イイ。オレハ、アソボー、シリタイ」
親方は人間の遊びに強い関心があるようだ。
たぶん異世界の人間の遊びになっちゃうんだけど……まぁ、いっか!
「ジャア…試シニちょっとヤッテみマス?」
「ヤル!ヤロウ!」
こうして俺は、何故か親方と指スマをすることになった。




