第4話 村での暮らし
そして俺達のゴブリン村生活が始まった。
夕方頃に起きて、
テキトーになんかちょっと食って、
仕事して、深夜になるとみんなで食って、
騒いで、寝る。
これがゴブリン生活の基本だ。
オスゴブリンのほとんどは狩りに行く。
斧や槍、弓などそれぞれ得意な武器を持ち、防具を身に纏ってぞろぞろと外に出かける姿はなかなかカッコいい。
また自分の武器は自分で手入れするのが主流で、新調する際も自分で作るようだ。
狩り部隊のエースゴブリン達は魔物の骨をふんだんに使った強そうな武器を手にしている。
武器作りがうまくできるかどうかも、ゴブリンの戦士に問われる素質のひとつといえるのだろう。
ちなみに、狩りが下手なオスゴブリンは防具作りや魔物の解体など狩り部隊のサポートに回る。
ここで賢さや器用さを発揮できると、戦闘力が低くてもそれなりに群れの中で尊重してもらえるらしい。
そうでないと扱いがかなり雑になるらしい。厳しい世界。
メスゴブリンは妹と同じくらいの若ゴブリン達とおばあちゃんゴブリン達でいろんな仕事をしている。
キノコや虫などの食料集めや、石や木の枝などの資材集め。
焚き火の管理や肉の調理、木の皮でかごを作ったり寝床を整えたりなどなど…あらゆることを器用にこなす。
村にいるメスの割合としてはおばあちゃんゴブリンが7割、幼さが残る若ゴブリンが3割くらい。
若い大人のメスゴブリンを見かけないのは、巣穴暮らしに移行しているからだろうか。
おばあちゃんゴブリンが多いのは…子育てが落ち着いたメスゴブリンが村に帰ってくるから?
だとしたらかーちゃんもいつか村に戻るのかもしれないな。ちょっと安心した。
新入りの俺達五つ子に与えられた仕事は、
弟三人は花形である狩り、
妹はキノコや虫の採取、
そして俺は…防具作りを担当することになった。
「ムラデイチバン、ツヨイアタマ、ヨロイ、タテ、ツクルヤツ、イル。ソイツ、メッチャアタマイイ。オマエ、メッチャアタマイイ。ダカラキットデキル。オシエテモラエ」
そうリーダー格っぽいゴブリンに言われ、村で一番強い帽子と鎧と盾を作るというゴブリンの世話になることとなった。
……で、今に至る。
村に来てから約一週間。
俺は他の弱ゴブリン達と一緒にひたすら村の周辺でスライム討伐をしていた。
「ハッ…!」
ゴスッ!と石斧をスライムがいる地面に叩きつけると、スライムは形を崩してスライムだったものとなる。
スライムは一撃で倒せるので、俺含め狩りが苦手なゴブリンでもなんとか倒せるのだ。
囲まれたらちょっとわかんないけど…
なんでこんな冒険者見習いの経験値稼ぎみたいなことをしているのかというと、この''スライムだったもの''が溶けこんだ地面の土こそが、ゴブリンの防具作りに欠かせない重要なアイテムだからだ。
スライム土をある程度集めたら一度戻る。
俺達が帰るのは、木でできた簡易的な小屋がポツンと建っている村のはずれの方。
その建物の周辺が作業場であり、俺達の仕事場だ。
「スライム土、集メテ来マシタ!」
「ン。ソコノアナニ、タメトイテクレ」
小さな焚き火の近くで作業しながら指示を出す、中年くらいのオスゴブリン。
俺は''親方''と呼ぶことにした。
彼がこの村で一番強い防具…皮の防具一式を作ることができる唯一の職人だ。
親方が防具を作る様はまるで人間の職人みたいで驚いた。
皮を鞣したり、縫いつけたり…こんな文明がゴブリンの世界にもあったなんて。
「イマカラ皮ノタテ、ツクル。木、ソコ。ケズルトコロカラ。ツクリカタガワカラナイヤツハ、オレガツクルトコミロ。ツクル、ムズカシイヤツ、スライム土、モットアツメテコイ」
親方はかなり言葉が話せる。
そして話しながらも手を休めない。
シゴデキだ…俺も頑張らなきゃ!
俺達弟子ゴブリンの目標は、皮の盾を作れるようになること。
帽子や鎧より難易度が低いらしい。
鞣した皮を使う帽子や鎧と違って、乾いたらしっかり硬くなる生皮を使う。
①丸太を分厚めに切り出して、まっ平らよりは気持ちちょっとキノコの傘みたいな形になるのを目指してひたすら削る。
②それができたら基盤となる木に生皮を張りつけて…あ、ここ。ここでスライム土を使う。
樹液と混ぜて接着剤として使うんだ。
③皮を燻して乾燥させる為、小屋の中に吊るして外にある穴を掘ったスペースでひたすら焚き火をし、煙を小屋の中に流す。
親分はこの近くを寝床にしていて、小屋に盾を入れている間は昼過ぎ(俺達魔物にとっては早朝に近い)には起きて火を点けるらしい。
作業場から離れる時や寝る際にはちゃんと消すとのこと。
④数日かけて乾燥させる。
⑤乾燥したらまた皮を一枚張って…
⑥また数日乾燥させて…
⑦また張って…
⑧乾燥させて…計三枚重ね。
⑨最後に持ち手を付けたら…
【ゴブリン式:皮の盾】の完成!うーん、大変。
まず最初に苦労するのが木を削る作業。
鉄の斧やチェーンソーなんてものはもちろんないので、丸太の切り出し方がかなり荒い。
分厚くて雑に切り出されたまだ板とも呼べないそれを、魔物の骨でできたナイフを使ってひたすら削って形にしていく。
ちなみに俺は昨日から同じものをずっと削ってる。
結構根気がいる作業だけど、嫌いじゃない。
風のそよぐ音、焚き火がぱちぱちと燃える音、木を削る音、遠くから聞こえる仲間達の声…
う~ん、チルい。いい時間じゃないか。
俺は黙々と作業した。木だけに。
数時間後…
「フぅ…デキタ…!」
不恰好ながらに、初めての木の盾っぽいものができた。
いよいよここから皮を張るのだが…もう深夜だ。
「メシノジカン。キョウ、オワリ」
「ギィィイイ!メシッ!メシッ!ギャッ!ギャッ!」
他のゴブリン達が村の中心にある広場に向かって駆けていく。
「…アシタニハ、皮ハレソウダナ」
「!ア、アリガトウゴザイマス!」
「オマエ、キヨウ。シカモサボラナイ。ゴブリンハ、コマカイサギョウヲキラウ。タイシタモンダ」
「でも親方ハ、細カイ作業ズットシテマスヨネ。皮を鞣シタり、穴開けたリ、紐通したリ、シカモソレガ上手クテ……親方はスーパーゴブリンデスネ!」
「……オヤカタ?オレノコトカ?」
あれ、親方って言葉は変だったか?
「スミマセン、親方って呼ブノ、変ですカ?」
「……イヤ、スキニシロ。ソレヨリ、メシイクゾ。ハヤクシナイト、食ウモノガナクナル」
「ハイ!行キまショウ!」
俺と親方も広場に向かっていった。
広場にはたくさんのゴブリンが集まって、宴のように騒ぎながらメシを食らっている。
「ギッ!ギッ!ギッ!」
「お、楽しソウにやってるナ…フフ」
弟達は狩り部隊のゴブリン達と火の周りで陽気に飛び跳ね、妹はメスのグループと一緒に少し離れたところで落ち着いて食事をしている。
兄弟達も新しい環境でうまくやっていけているようだ。
「……イイ村ダヨナ、ココ」
親方が呟くように言う。
「ハイ。オレ、ココに来らレテよかったデス」
「ソウカ……オレモダ」
その言葉にはなんだか重みがあるような気がした。
きっと親方は心の底からこの村が…この平和な時間が好きなんだな。
そんなことを思いながら俺は、キノコと芋虫と謎の木の実が合わさったサラダっぽいものをもちょった。
ん~…えぐ味と酸味と苦味と渋味の複雑怪奇なマリアージュ……でも食えなくはない。
感謝して頂こう。
夜は更けていく。
朝方になるまでゴブリン達の声は村に響いていた。
それはこの村が平和である証。




