第37話 またアイツ
城のロビーに戻り、島へ帰ろうとしていると…
「お~いゴブリ~ン!」
「げっ…」
パタパタと一匹のインプがこちらに向かって飛んできやがった。
「なんかさっき城門近くでエグめの雷魔法が使われてたけど、何かあったのカ?」
「え、え~?そうなの?ゴブリンだから魔法のことはよくわカんないや」
「ふーん…?」
さっきの一件はとりあえずごまかしておこう。
城に待機してない部隊に食料を届けていたり、滞在中の魔物を攻撃しちゃったり…
ウオタローの行動って魔王軍の働き手としては若干グレーな気がするんだよね。
そこをインプみたいに面倒な魔物に目をつけられたくない。
普段は城に魚を納品してるし、海の盾のメイン素材を調達できるのはウオタローだけだし?ちゃんと軍に貢献もしてるからね。
ウオタローは自由でいいのさ。
「それはそうとオマエら、盾は用意できたのかヨ?」
「まだダよ。さっき素材が手に入ったから、これカら作業するとこ」
「はァ~?じゃあこんなとこでチンタラしてんなヨ!さっさと働ケ!キビキビ働ケ!」
「………」
俺は募る苛立ちを軽い深呼吸で一度鎮め、かつての社会人時代に習得した能力【偽りの笑顔】を発動させながらインプにいくつか質問することにした。
「一応確認なんだけど、キミはこの間オレ達をラミアナイト様のところに連れていったインプだヨね?」
「そうなんだゾ」
「指スマを他のインプやラミアナイト様に教えたのモキミだね?」
「そうなんだゾ」
「オレと一緒に地下通路への道を見つケたのもキミだね?」
「そうなん……イヤ?オイラヨクワカンナインダゾ」
「………」
「………」
「テメェーーー!!やっぱナメプーじゃねぇかーーーーー!!」
「ギャーーーーー!?」
俺はナメプーにヘッドロックをキメた。
(人間にはやっちゃダメだよ)
「お前よくも!よくもオレを地下に置いてったな!!」
「昔のことだロ!忘れろヨ!」
「全然昔じゃねーよ一週間も経ってねぇわ!!あの日の恐怖が鮮明に脳にこびりついとるわ!!」
「生きてんだから良かったじゃねーカ!」
「見捨てたお前が言うことじゃねぇええ!」
「イデデデデデデデッ!」
俺は怒りの【ゴブリンゲンコツグリグリ】をナメプーに食らわせた。
(人間にはやっちゃダメだよ)
しかしナメプーもやられっぱなしではない。
「やめろッ!燃やすゾ!」
そう言って、ボッ!と手から炎の魔法を出し俺に見せつけてきた。
「げっ!?魔法…!」
「キシシ!オイラはオマエより強いんだゾ!丸焼きにされたくなかったらこの汚ぇ手をどかすんだゾ!」
「ぐぬぬ…結構清潔にしてるつモりなのに…!」
俺が仕方なくナメプーを解放しようとしたその時。
カチャッ…
「キキッ!?」
鋭い槍の切っ先がナメプーの目前に向けられた。
「インプノ皮…魔法ニ強イ盾、作レソウダ」
「キキィ~!?」
お、親方の目が珍しく据わっている…!
するとナメプーは慌てて炎の魔法を消し、代わりに弁明を始めた。
「オ、オイラちゃんとあのあとデーモンに報告したんだゾ!野生のアンデッドが地下にいるって!でも…」
「でも…?」
「''どうでもいい。面倒事を増やすな。さっさと持ち場に戻れ''って言われて…」
「言われて…?」
「じゃあいいやーと思ってメシ食って寝たんだゾ」
「ぃぃいや寝るなーーー!!せめて働けーーー!!」
「アデデデデデデッ!」
結局俺を地下に置き去りにしたままメシ食って寝たって話じゃねーか!
なんでそれが弁明になると思ったんだコイツは。
「ったくテキトーなことばっカしやがって!あとアレもなんだよ!指スマのこと魔物の智闘とかなんとカ言って変な広め方して!ラミアナイト様にテキトーなこと教えンなよ!」
「だ、だってヨぉ…」
「何よ」
「すごい情報とか渡したら、評価されるかもって思って…」
「思って…?」
「すごくないことをなんかすごいことみたいに報告してみたんだゾ」
「ぃぃいやすごくないことをなんかすごいことみたいに報告してみるなーーー!」
「アデデデデデデ!ヤァメェロォオオ!」
じたばたするナメプーだが、親方の睨みがあるからか魔法による反撃はしてこない。
マジでピンポイントに俺のことだけナメてたんだな…。
しかしすぐには許してもらえそうにないことを察したのか、ナメプーは再び反抗的な態度に戻る。
「いいのかオマエ!オイラにこんなことしてッ!」
「あ゛ぁん!?」
俺が睨むと、追い詰められているはずのナメプーが何故かそこでニヤリとほくそ笑む。
『オマエが指輪のことでウソついてるって、ラミアナイト様に言いつけないでやったダロ?』
「「…!」」
突然の念話による指摘にギクッとする俺達。
その様子を見たナメプーは勝ち誇ったようにニマニマしながら念話を続ける。
『オマエ、弱いくせにけっこー大胆だよナァ?ラミアナイト様にウソつくなんてヨ。本当は島で拾ったんじゃなくて、あの装飾品だらけのアンデッドからもらったんじゃねーのカ?』
「な、何故それを…」
『へへーん!ウソついたことをチクられたくなかったら、今すぐオイラを解放して泣きながら許しを乞うんだゾ!』
「ぐぬぬ…」
「チクラレル…マズイ」
『そーだよナァ?そーだよナァ?』
「………」
親方は厳しい顔をしながら一歩下がり、空を切るようにして槍の切っ先を動かし始めた。
なんだろう?何かをシミュレーションしているような動きだが…
『…おいオマエ、オイラの皮をどう剥ぐか考えてんじゃねーだろうナ』
「………………」
あ、当たってるっぽい。
「……………ヨシ」
あ、シミュレーションが完了したっぽい。
『待て待て待てッ!聞けゴブリン!オイラとしてもアンデッドの装飾品のことはなるべく隠しておきたいんだゾ!だからそう簡単にはチクんねーんだゾ!』
「え、そウなの?なんで?」
「嘘カモシレン」
「イデデデデデ刺さってる!ちょっと槍が刺さってるんだゾッ!嘘じゃネェ!」
ひとまずナメプーと落ち着いて話をする為、ロビーを離れて他の魔物の通りがない静かな通路へと場を移した。
◇◇◇
「あちこちいてぇんだゾ…これだからゴブリンはヨぉ…」
「で?ナメプーもアクセサリーの件を隠しておキたい理由って何?手柄欲しさにあることないこと報告してたくせに、一番お手柄になりそうな情報は報告しないなんてどういウことなのさ」
俺の問いに、ナメプーは自身の体をさすりながら気だるげに答える。
「そりゃオマエ、上に報告なんかしたらあのアンデッドが持ってるもんぜ~んぶ回収されちまうダロ?そんなのダメなんだゾ」
「…?」
それってどういう…
…まさか、ホネスケの身を案じてくれてるのか?
ホネスケが身に付けているアクセサリーの中には彼を''大丈夫な状態''にしてくれているキーアイテムが紛れており、それが奪われてしまうことは身の危険を意味する。
全回収なんてされたら当然マズい。
そのことを知っていて…?
ナメプーお前…実はいいやつなのか…?
「アンデッドの存在に最初に気づいたのはオイラだからナ。他のヤツに取られてたまるかヨ!アイツが着けてる装飾品はぜ~んぶオイラが回収するんだゾ!」
「うん、全然いいやつじゃなカった!やっぱコイツの皮剥いで盾にしましょウ!」
「ン」
「バ、バカやめろッ!槍を向けるナ!」
ナメプーは慌てて通路の天井近くまですっ飛んでいき柱にしがみつく。
アクセサリーの件を上に隠しておきたい理由は自分が独り占めしたいからだったようだ。
コイツをこのままほっといたらホネスケに危害を加えかねないというわけか…まいったな。
俺は困った事態に頭を掻きつつ、ナメプーの目的にもう少し探りを入れてみた。
「宝を回収してどウするつもりなの?」
「とーぜん、地底迷宮の''貢物殿''に持っていくんだゾ」
「貢物殿…?」
そう聞き返すと、ナメプーは柱にしがみついたまま説明を始める。
「アヌラール様への献上品を納める部屋のことなんだゾ。デカイ魔石や装飾品なんかは一旦全部そこに納めることになってんダ。持ち込んだもんの質や量によって褒美がもらえるんだゾ!」
「へェ~、そんなシステムが…」
「けど、オイラ達みたいな低級の魔物は自分で直接持ち込めたことがねーんだゾ。集めたもんはぜーんぶ上の魔物に回収されちまうからナ」
「あラま。上の魔物からご褒美のお裾分けはナいの?」
俺の問いにナメプーは顔をしかめてぶんぶんと首を横に振った。
そのままこっちまで降りてきて話を続ける。
「んなもんねーんだゾ!上の魔物が全部持っていってソイツらだけで褒美を独占して、評価されて、出世もして…その繰り返しなんだゾ。あくせく働いてんのはオイラ達下っ端なのに、やってらんねーんだゾ!」
「なルほどねぇ…」
ご褒美をもらう為には上の魔物達にお宝を横取りされないようこっそり回収して、自分で直接貢物殿に納品する必要があるわけか。
評価や出世にも繋がるみたいだし、ナメプーが独り占めに拘るのも納得がいく。
「貢物殿に装飾品をたんまり献上したら、アヌラール様に一目置かれて幹部直属の部下になれるかもしれねーんだゾ!」
「なんか急に夢デカいな」
「オマエ、魔王軍ノ幹部ニマデ取リ入ル気ナノカ」
「当たり前ダロ!ラミアナイト様はデーモンより強くてエライけど、アヌラール様はそのラミアナイト様より強くてエライんだゾ!幹部の手下になれたら、見下ろせる魔物だらけになるんだゾ~♪」
「結局それェ…?」
俺と親方は呆れつつも顔を見合わせ、ナメプーの言っていることにひとまず嘘はなさそうだという見解を共有した。
「まぁ、上に報告しない理由についてはワかったよ。オレの指輪の出所を下手にチクると、芋づる式に色々発覚してナメプーのこっそり献上計画もバレちゃウってことなのね」
「そーゆーことなんだゾ!…オマエさっきからオイラのことちょいちょい''ナメプー''って呼んでるけど、それどういう意味なんだゾ?」
「ナメ腐った態度のふざけたインプ」
「ほーん?つまり余裕のあるインプってことカ。悪くねーんだゾ!」
「都合ノいい解釈…!」
とはいえ、ナメプーが危険な魔物であることに変わりはない。
一度ホネスケと合流してナメプーが装備品を狙っていることを伝えておきたいところだが…あれからまだ一度も会えてないんだよな。
なんならナメプーの方が居場所を把握してたりして。
…今油断してるっぽいし、いっそ聞いてみちゃうか。
「ところでさ、ナメプーはホネス…アンデッドのアクセサリーのこトどこで知ったの?一緒に地下通路を見に行った時、姿までは見てなカったよね?」
「どこで見たも何も、その辺好き勝手歩き回ってるからしょっちゅー見かけるんだゾ」
「あ、そウなの?」
そんな普通にうろついてるのか。
会えなかったのはすれ違ってただけかな。
「どの辺りを歩いてルことが多い?」
「城の中から外まであちこちだゾ。気配がいっつも動いてる」
「へぇ~、ナメプーはアンデッドの居場所が気配でわかるんだねぇ」
「解るゾ」
「ちなみに今どこにいるかわカる?」
「わかるゾ」
「お!どコどこ?」
「オマエの後ろ」
「…え?」
そんなまさかと思いつつ、後ろを振り返ると…
そこにはゆらりと黒いマントを纏った不気味なガイコツの姿が。
『よッ!』
「うわァーーーーーーーーー!?」




