第36話 偉大なるウオタロー先生
翌日。
いつものように俺と親方は作業場へ、ウオタローは釣り場へと向かう。
海の盾のメイン素材である鱗が手に入るまでの間、俺達は木材の切り出しや全ての盾の基盤となる木の盾を作っておく。
今のところストックは足りているけど、基本の素材は増やしといて損ないからね。
夕暮れ時、波音を聞きながらの作業時間…
そうだよこれこれ。
こういう穏やかスローライフ時間が好きなんだよ俺は。
ドゴォォォン…
遠くからウオタローが元気に雷魔法を落とす音も聞こえてくる。
これもすっかり日常である。
ドゴォォォォォン…!
…にしてもちょっとデカイか?
「雷、大キイナ。早速大物、釣レタノカモシレン」
「ちょっと見に行ってみマすか」
◇◇◇
様子を見に岩場へ向かうと、ウオタローの側になかなかにデカイ魔物が置かれているのが見えた。
「お、デカいの釣れタねぇ!」
「釣れた~!けどねぇ、もっとおっきいのもいるよ~」
「おぉ~!それは楽しみだねぇ」
「うん!今来るよ~」
「え」
ザパァァァァァア!
「キャーーーーーー!?」
海面からバカデカい魔物が飛び上がってきた!
そして先に釣り上げた魔物に狙いを定めて突き進んでくる!
「えいっ」
ドゴォォォォォォン!
ウオタローが手を振り下ろすと、強烈な雷魔法がバカデカい魔物に直撃する。
魚はビチ…ビチ…と勢いが弱まり、やがて動きが止まった。
「すっごくおっきいの釣れた~!ゲッゲッ!」
釣り上げた大物の前で小躍りするウオタロー。
と、その様子に感心しつつもちょっと固まる俺と親方。
改めて見るとウオタローの魔法ってかなり強いよな…?
ウオタローも''まそ''ってのがあったら進化できたりするのだろうか。
今でもこんなに強いのに、進化なんてしたらウオタローがいよいよウオタロー''さん''になっちまうよ。
「ウロコ取ろ~」
「あ、はい!ありがたく頂きマす!」
釣れた大物達の鱗を剥がして素材を確保していく。
どちらの魚も鱗が立派で、これなら海の盾7枚も問題なく作れそうだ。
「立派ナ鱗、タクサン。イイ盾、作レソウダ」
「ゲッゲッ!やった~!みんなのところに持ってくよ~!」
「でっかい魚は沼のリザードマン達に食べさせてあげるんだモんね。きっと喜ぶよ」
「うん!」
ということでウオタローが沼に帰省することになった。
剥がした鱗をアイテムボックスにしまい、少し早めの食事をすることに。
ウオタローは沼まで半日程ひとり旅をすることになるので、先に釣ってあったなかなかにデカイ方の魚をガブガブと食べて英気を養う。
俺と親方もご相伴にあずかった。めちゃうまかった。
食事が終わると、ウオタローは持って帰る方のおっきな魚の下顎に穴を開け、そこに二重に編んだツタを通して引きずりやすいよう持ち手を作り始める。
ツタを編んで強度を上げるのは親方がよくやる手法なのだが、ウオタローも見て覚えたようだ。賢くてえらい。
「シカシ、コレダケデカイト、ワープ部屋ノ扉、通ルカワカラナイナ」
「ギュウギュウしたらギリギリ通るよ~」
「ソ、ソウカ…」
「引きずって沼まで帰るの、大変じゃナい?ヤっぱりアイテムボックス貸そうか?」
「大丈夫~。ゆびわはちっちゃくてなくしちゃうからぁ~」
「そっかぁ…あ、じゃあせめて城の外までは俺がアイテムボックスに入れて運ぼウか?そうすれば無理にギュウギュウしなくても余裕で外に持っていけルよ」
「え!いいのぉ~?」
「モちろん!」
てなわけでバカデカい魚を一度アイテムボックスにしまい、みんなで城へ出発!
…って、そういえば指輪、他の魔物に目をつけられないよう隠しておいた方がいいって話だったな。
とりあえずその辺の葉っぱを絆創膏みたいに巻いとこうかな?
すぐとれちゃいそうだけど、やらないよりはマシということで。
俺が作業場近くの茂みを軽く物色していると、後ろから親方に声をかけられる。
「ユビタ。ユビワ隠ス装備、コレ、ドウダ」
「!」
そう言って親方は一組の古びた鉄の籠手…ガントレット?を見せてきた。
小さい亀裂がスライム土と葉っぱを使って塞がれており、錆びを磨いた跡もある。
さながら【鉄のガントレット[修繕]】と言ったところだろうか。
「モしかして、昨日はこれを?」
「ン。アマリ上等ナ装備ハ、ユビワト同ジデ狙ワレル、カモシレナイ。ダカラ、コノクライガイイ、思ウ」
確かに、親方の言う通りこのガントレットはきっとそう珍しいものでも大した装備品でもないのだろう。
だが丁寧な修繕が施されているそれは、親方の仕事振りと思いやりが込められている特別な一品に思えた。
「ありがとウございます!」
俺は【鉄のガントレット[修繕]】を受け取り、手にはめてみる。
少しブカブカだが、隙間があるおかげで指輪を着けたままでも問題なく装備していられそうだ。
「使エソウカ?」
「はい、いい感じデす!へへ…オレが修繕した防具の使い手第一号でスね!」
「ン」
親方はちょっと照れている!
今後城に行く時は、親方からもらったこのガントレットを装備するようにしよう。
◇◇◇
城門――
「よいしょっと…」
アイテムボックスからみんなでおっきい魚を取り出す。
お城の前にデッカイ魚…うーんすごい存在感。
「ヒエヒエにして、ズルズル持ってくよ~」
ウオタローはそう言って魚を魔法で冷凍する作業に入った。豪快だ。
俺と親方は少し離れて冷凍作業を見守る。
すると…
「グァーーー!!」
「!?」
上空から大きな鳴き声が響いてきたと共に、何やらめちゃくちゃ強そうな魔物の気配が急接近してくるではないか。
見上げると、一体の空飛ぶ恐竜みたいな魔物がこちら目掛けて急降下している姿が見えた。
「な、なんかこっち来てまセん!?」
「ワイバーン…ッ!魚狙ッテル!全員城ノ中ニ逃ゲロ!!」
親方がすぐさま避難を促すが、ウオタローは空を見上げたままその場から動かない。
「ん~~~…」
そうこうしているうちにワイバーンはすぐそこまで迫って来る…!
「ウオタロー!危ないよ!!」
「ウオタロー!!魚カラ離レロ!!」
しかしウオタローの足が動くことはなく…
代わりに腕を空高く振り上げた。
でっかい魚を魔法で仕留める時と同じように。
「これはダメ~!」
そう言って、ウオタローが勢いよく腕を振り下ろした次の瞬間。
ドゴォォオオオオオオン!
「グギャァアアアアアア!」
「「!?」」
今日イチ強力な雷魔法がワイバーンに直撃した。
「グ…グ、ゲ…」
ワイバーンは体から煙を上げつつもなんとか持ちこたえ、よろけながらも空中に留まりこちらと一定の距離を取る。
「グァ…グァ~…グァ…」
何かを鳴き声で訴えてくるワイバーン。
なんとなくしかわからないが、どうやら
「オマエらだけでそんなデカイ魚を食うなんてズルい」
的なことを言いたいようだ。
「これはみんなのところに持ってくやつだからあげられないよ~」
「えーっと…これは彼が仲間の元へ持ち帰る用の食料で、オレ達が今から食べるモのではないんです。すみまセん」
「グルル…」
ワイバーンは不機嫌そうに唸っている…。
「おっきいのはダメだけど、こっちはあげる~」
そう言ってウオタローはおっきい魚の口を手でパカッと開き、口の中に上半身を突っ込んで何かを取り出す。
出てきたのはなんとちっさい凍らせた魚だった。
そんなところにお弁当をしまっていたとは。
ウオタローがちっさいヒエヒエ魚数匹を空中に向かって投げると、ワイバーンはそれをうまいこと口でキャッチしてバリボリと食した。
なんか水族館とかでやる餌付けみたいで可愛い。
「ガブッガブッ…フガッ………グァ~」
バサッ…バサッ…
多少不満は残っていそうだったものの、食べ終わったワイバーンはそのままよろよろと上空へ戻っていった。
…ダメージも結構残ってそうだけど大丈夫か?
かなり強そうな魔物に見えたけど、それでもウオタローの魔法は堪えるんだな。
「ふぅ~…諦めてくれてよカった~…。それにしても、ウオタローの魔法は本当に強イねぇ」
「空を飛んでる魔物はねぇ、海の魚といっしょでビリビリがよく効くんだよ~」
「なるほど…弱点の属性魔法を撃っタのか」
「ウオタローハ、魔法ノ属性、ヨク使イ分ケテルナ」
「えへへ~。でもつよぉ~い魔法使ったからねぇ…」
パカッ
お、おっきい魚の口の中からまだまだちっさいヒエヒエ魚が!
「ちょっと食べる~」
ガリッ!バリッ!ボリッ!
と魚を食べるウオタロー。
さっきおっきい魚をたらふく食べたばかりとは思えないいい食べっぷりだ。
いっぱい食べれてえらい。
「魚デ魔力、回復スルノカ…?」
「する気がする~。オヤカタとユビタも食べる~?」
「オレハ、大丈夫ダ。魚、ウオタローノ」
「オレ達のことは気にしなイで。ウオタローが沼に帰るまでのごはんが減っちゃウだろ?」
「そうだった~。ワイバーンにあげたから減ったんだった~」
魚を食べて元気をチャージしたウオタローは、何事もなかったかのように再びおっきい魚の氷漬け作業に戻る。
そしてそれを再び見守る俺達。
「…親方、ウオタローまた装備無しで出発しそうですけどどウしましょう。念のため盾渡しとキます?」
「イヤ…アレダケ強イナラ、下手ニ防具、イラナイカモシレン。慣レナイ装備デ手ガフサガル、魔法ノ邪魔ニナル。前ニ渡シタ盾モ、余計ナ世話、ダッタカモナ…」
「ま、まぁ、喜んでくれてたし余計ではなカったと思いましょう。お土産を渡しタと思えば」
「ソウダナ…」
なんてヒソヒソと話しているうちにウオタローの冷凍作業が完了した。
「ヒエヒエできた~!ユビタ、オヤカタ、またね~!」
「う、ウん!またネ~!」
「気ヲツケテナ」
「は~い!」
こうしてウオタローは凍らせたおっきい魚をズルズルと引きずりながら沼へと旅立っていった。
魚を滑らせやすいよう地面も適度に凍らせながら進んでいく。
…城から沼まで氷の道ができそうだな。
「ウオタローハ、立派ダナ…」
「力強いでスよね、生き様が」
俺達はウオタロー先生の背をしばらく見守ってから城の中へ戻った。




