第38話 オタカラ劇場
後ろにいたガイコツの存在に驚いて飛び上がる俺と、慌てて槍を構える親方。
『おッと!そう構えないでくれよ旦那!サプライズ大成功~ッてな!どうだ?ビックリしたか?』
黒マントを羽織ったガイコツは相変わらず見た目にそぐわぬ陽気さと演劇のようにオーバーな動きを見せながら、警戒心MAXの親方を宥める。
「ビックリしすぎて心臓飛び散るかと思ったよ!いつカら後ろに?」
『ついさッきだ!地下から走ッてきたぜ!』
「走ッテキタ…?音、シナカッタト思ウガ…」
「たぶんソイツの履いてるブーツが悪さしてんだゾ」
「ブーツ?」
ナメプーに言われてホネスケの足元を見てみると、そこには初めて会った時には履いていなかった立派な革のブーツが。
「ホントだ。カッコいいの履いてルね」
『だろ?せッかくのシャバだからよ!なンか新しいファッションに挑戦しようと思ッて、オタカラの中にあッた靴を履いてみたンだ!』
「そのブーツ音消しかなんかの効果があるっぽいゾ。自分から出る音を誤魔化してはこそこそ敵を避けたり、不意討ちしたりする冒険者がよくそーゆー装備を使うんだゾ」
「あ~…静カさアップ的な…」
どうやらホネスケが見つけたブーツは、音消しの効果がある魔法のブーツだったようだ。
それで音も気配もなく忍び寄るガイコツが爆誕してしまったわけか。困るが。
振り向いたらガイコツという衝撃映像にバクバク鳴っていた心臓が少しだけ落ち着いてくると、恐怖や動揺と入れ替わるようにして別の感情が込み上げてくる。
それは恩人との再会に対する喜びだ。
「けど…ははっ、元気そウでよかった!また会えて嬉しいよホネスケ!」
『オレサマも会いたかッたぜェ!ユビタ!』
俺とホネスケは固い握手を交わした。
指輪だらけのガイコツとの握手は文字通り固いのだ。
「コイツガ、ホネスケカ。本当ニ、アンデッドガ言葉、話シテイル…」
『話すぜェ~!よろしくな旦那!』
そう言ってホネスケは親方にも手を差し出した。
親方はその手をじっと見て数秒固まっていたが、意を決したように手をゆっくり伸ばして控えめに握手を交わした。
するとナメプーが腕組みしながらホネスケに言う。
「おい、あんまマントから手を出すなっつったダロ。装飾品が見えちまうんだゾ」
『大丈夫大丈夫!周りに誰もいない時は大丈夫!だろ?ボス!』
そう言って、ホネスケはバサッとマントをはためかせて見せた。
はためかせると中のアクセサリー類もバッチリ見えてしまうわけだが、大人しくしていればうまく隠してくれる素晴らしいマントだ。
だがそれよりも気になったことがひとつ。
「…え、待っテ。ホネスケ、コイツのことボスって呼んでルの?」
『そうだ!''オイラのことはボスと呼べ!''ッて言われたンだぜ』
「えぇ~…?いいんだよ?コイツの言ウことなんか聞かなくて。名前もナメプーでいいよ。あリとあらゆるものをナメ腐っている性悪で姑息なインプ、略してナメプー」
「つまり余裕があって賢いインプってことなんだゾ。まさにボスにふさわしーんだゾ!オマエらもオイラのこと、''ボス''って呼んでもいいんだゾ~♪」
「呼ぶわけないだろいい加減にしろ」「ボスノ器デハ、ナイナ」
俺達がボス呼びを即却下すると、ナメプーはふて腐れたように宙で胡座をかいた。
「キィ~…本当に生意気なヤツらなんだゾ…言っとくけどなゴブリン、オマエが地下から出しちまったコイツを面倒見たのはオイラなんだゾ?もっと態度を改めるんだゾ」
「…え、そウなの?」
「そうだゾ!も~大変だったんだゾ!」
そこからはパタパタぐちぐちと
ナメプーの愚痴物語~ホネスケ劇場を添えて~
が始まったのだが、まあまあ長いので俺がまとめます。
その内容はこうだ。
◇◇◇
俺地下遭難事件の翌日。
俺を見捨てたこともすっかり忘れてぐっすり寝たナメプーはいつものように起きて、いつものように【探知】ってやつを開始した。
なんでも城全体に感覚を研ぎ澄ませ、魔物の気配から魔力の流れまでチェックするのがナメプーの日課なんだそうだ。
これをやることでその日滞在している魔王軍の部隊を把握したり、誰も気づいてなさそうな異変を見つけて手柄になりそうか考えたりするのだとか。
そしてナメプーは城の庭で起きている異変をすぐに感じ取った。
それは魔物の群れが騒いでいる気配と、地下にいたはずのアンデッドの気配。
「うわぁ~アンデッドが地上に出てきちゃってんじゃねーカ!」
と思いながら様子を見に行くと、そこにはデスバード部隊に追いかけ回されているアンデッドことホネスケの姿があった。
デスバードは人骨とキラキラしたものがだぁいすきだそうで、つまりホネスケは好みドンピシャのターゲットだったのだ。
ちなみにこの時、ホネスケ本人は人気者になったみたいで嬉しかったらしい。ポジティブすぎる。
そんな様子を見たナメプーは、
「うわぁ~なんだあのアンデッド!めちゃくちゃアクセサリー着けてんじゃねーカ!よし奪おウ!」
と思って(思うな)デスバード部隊に紛れアクセサリーを盗もうと試みたのだが(試みるな)、これがなかなかうまくいかなかった。
ホネスケが全ての接触をうまいこと避けてしまうのだ。
ナメプー曰く、ホネスケは回避能力がかなり高くて厄介だったらしい。
意外と隙のないホネスケからアクセサリーを盗むのは無理だと判断したナメプーは、作戦を変えることにした。
デスバード部隊を雷魔法で追い払ってホネスケを助け、ひとまず城内の部屋に連れていき、そこでアクセサリー隠しに使えそうな黒いマントを見つけて着せてやった。
更には自分こそが地下通路への入り口を開いた張本人であり、外に出られたのは自分のお陰なのだと恩着せがましく言い聞かせる。
するとホネスケは素直に感謝しナメプーを慕うようになった。
そこでナメプーは切り出す。
''オマエはオイラにたくさんの借りがある。
その借りを今すぐ返せ。
返すまでこの部屋からは出さないゾ。
そうだ、その身につけているアクセサリーで手を打ってやる。
さぁ、全部よこすんだゾ!''…と。
卑劣極まりないナメプーの要求にホネスケは答える。
''わり!それは無理!''…と。
あまりにもあっさり断られたのでナメプーは激怒した。
そしてホネスケはなんだかご機嫌ナナメになったナメプーを楽しい気持ちにしてあげようと思い、踊ることにした。
…なんで?
ホネスケがその場でゴキゲンなタップを踏み始めると、どういうわけかナメプーの体も勝手に動きだす。
ナメプーが鳴こうが喚こうが、その体は踊ることをやめない。ちょっと怖い。
そのままふたりでゴキゲンなタップを踏みながら部屋を出て、テンションが上がってきたホネスケは言う。
''今宵を最高の夜にするべく、このまま他の魔物達とも仲良くなろう!''…と
……なんで?
その後はロビーでメシ係の魔物に声をかけたり、上の階の魔物を踊りに誘ったりしてちょっとした騒ぎになったらしい。
ホネスケが悪さしたというよりかは、彼がアンデッドであること、加えて陽キャゆえの積極的コミュニケーション術が城の魔物達と相性が悪かったようだ。
そしてナメプー達の上司であるデーモンのひとりが騒ぎに気づき、踊るふたりを止める。
アクセサリーのことはバレなかったものの、ホネスケは上の階の出禁を言い渡されてしまい、ナメプーはサボりとみなされその日はメシ抜きになったそうな――。
◇◇◇
「そんなことにナっていたとは…」
なかなかのお騒がせガイコツやってたんだな…
まさか魔物の気配を避けるどころか突っ込んでいくスタイルとは。
陽キャの行動力、恐るべし。
とはいえ、ここがどういう場所か説明できてないうちから軽率に地上への道を作ってしまった俺にも責はある。
後でちゃんとこの城やアクセサリーバレの危険性について共有しておかないとな。
「どうダ!オイラの苦労がわかったカ!」
「いや、ナメプーに関しテはほとんど自業自得じゃん。ホネスケがオマエより強くてよカったよ」
「おい、ゴブリン」
「な、なんダよ」
「ラミアナイト様が城に来た日、見つからないようコイツを慌てて地下に蹴落としといたのもオイラなんだゾ」
「それは……大変お手数お掛けしマした」
『おかけしました』
「まったくなんだゾ!」
確かに、結果だけ見るとナメプーに助けられている場面も少なくないんだよな…。
デスバードの群れを追い払ったり、
アクセサリーを隠すマントをすぐに用意したり、
ラミアナイト様と鉢合わせないようにしたりと、
なかなかファインプレーが多い。
どうやらアクセサリーを独り占めしたいナメプーによってアクセサリーまみれのホネスケが守られているという奇妙な関係が成り立っているようだ。
…あまり無碍にするわけにもいかなくなっちゃったなこれは。
ナメプーはホネスケをズビシと指差し、愚痴った勢いに乗って文句を言う。
「おいアンデッド!あんなに世話してやったオイラには''無理!''の一言で済ませたくせに、なんでゴブリンには指輪をくれてやってんだヨ!」
『ボス…それを話せば長くなるぜ?そう、あの日。オレサマの人生はユビタとの出会いによッて大きく変わ
「長くなるならいいんだゾ。オマエ、どうやってコイツから指輪をもらったんだヨ」
ナメプーはホネスケ劇場をキャンセルして質問のターゲットを俺に変更した。
「ま、まぁ…なんカ、ノリで?」
「はぁ?なんだそりゃ!」
地下の隠し部屋にオタカラがたくさんあることや、それぞれの効果について書かれている管理簿の存在、そしてホネスケが着けているアクセサリーのどれかは彼にとって必需品であり弱点でもあることなど…
この指輪の経緯を話そうと、どうしてもその辺りを説明することになってしまう。
ナメプーが信用できないヤツである以上、下手にこっちから情報は渡さない方がいいよな。
『ボスも地下に来てくれりャァ、オタカラたンまり見せてやれるンだけどなァ』
あ、フツーに言っちゃった。
「古い地下通路なんてどんな罠があるかわかんないんだゾ。絶対行きたくないんだゾ」
「へぇ~…?なルほどねぇ~。それモあってお前はオレだけ地下に落として、自分は頑なに足を踏み入れなかったわけだぁ」
「そうなんだゾ」
「そうなんだゾじゃねぇんだぞお前」
本当にろくでもないやつだな…
けどこの様子なら、ホネスケにとっての安全地帯ともいえる地下通路にナメプーが立ち入ることはなさそうだな。
そこはちょっと安心かも。
『ッてことで今日は、地下に来られないボスの為にサプライズを用意して来ました~!』
「サプライズ…?」
『ボス!右と左、どッちがイイ?』
「は?意味わかんねーんだゾ。あと寄るナ」
『ど ッ ち が イ イ ?』
「おい寄るナッ!わかった!右!右でいいんだゾ!」
『アイアイサー!』
元気よく返事をしたホネスケはブーツの右側を脱いで逆さにする。
すると…
ジャラジャラジャラ!
「!!」
なんとブーツの中からオタカラが出てきたではないか。
地下から持ってきたものをいくつか忍ばせていたようだ。
「キキィ~!?た、宝ダ!指輪に腕輪に宝石に…色々あるんだゾ!」
『サプラ~イズ!日頃の感謝を込めて』
ホネスケはそう言って、脱いだ方のブーツを帽子のようにくるりと回して舞台役者のように優雅なお辞儀をした。
「全部オイラのなんだゾ!オマエら触んなヨ!」
「わかったわカった。取らないカら」
ナメプーは興奮した様子でお宝に食いつき、俺達から少し距離を取ってからひとつずつ摘まんでじっくり観察し始めた。
「これはなんダ?…あんまレアじゃねーナ。こっちは?ん~…ありきたりな魔力量にありきたりな術式なんだゾ…」
「おい、持ってきてモらっといて文句言うなよ」
なんだかんだ言いつつ、全てのオタカラを調べ終わるとナメプーは両腕いっぱい使ってそれらをひとつ残らず抱え上げた。
オタカラは10個あるかないかくらいなのだが、ナメプーの体が小さいから財宝の山を持ってるみたいになっている。
「ま、今日のところはこれで勘弁してやるんだゾ」
『やッたぜ!』
「今日のところって…そんだけもらエたら十分だろ。モうホネスケにダル絡みすんなよな」
「そいつにダル絡みされてるのはオイラの方なんだゾ」
「う、ウーん…」
「じゃ、オイラもう行くんだゾ。オマエらもこんなとこでチンタラしてねーでさっさと働けよナ!しっかり盾、作っとけヨー!」
パタパタパタ…
貰うものを貰ったら言いたいことだけ言ってさっさと去っていってしまった。
「お前が手間取らせたんだろウがー!…ったく、勝手なやつだよホント」
『ユビタユビタ』
「ん?」
ホネスケは何やらウキウキした様子で両手で受け皿を作るジェスチャーをして、それを俺に真似るよう催促して来た。
よくわからなかったがとりあえず催促された通りにしてみると、ホネスケは親方にも同じジェスチャーをして見せる。
親方も困惑しつつ、手で器を作った。
するとホネスケはもう片方のブーツを脱いで…
『サプラ~イズ!』
ジャラジャラジャラ!
「「!!」」
俺と親方の掌にオタカラを落としてくれた。
「わぁ…!こっチにもアクセサリーが…!」
『日頃の感謝と愛を込めて』
ホネスケはまたブーツを帽子のようにくるりと回して優雅なお辞儀をしてみせた。
なんだか本当にサプライズ感があって嬉しくなる。
「でモいいの?オレ前もモらったのに」
『もちろン!シャバに出られるようツタを垂らしといてくれたの、ユビタだよな?ユビタはオレサマの恩人だ!ついでにアンタも恩人だ!』
ホネスケはそう言って親方の肩を軽く叩く。
「オレ…?オレハ、何モシテイナイ」
『いーや、オレサマにはわかるぜ!ユビタを助けに来たのはアンタだろ?ユビタがシャバに出られたからオレサマもシャバに出られたンだ。だからアンタも恩人さ!ありがとうな旦那ァ!』
「…ン。コッチモユビタ、世話ニナッタ。オレノ名前ハ、オヤカタダ。ダンナ、オヤカタ、好キナ方デ呼ンデクレ」
『お!じャ親方で!これからも仲良くしてくだせェ親方!』
おぉ…親方がホネスケと打ち解けてるっぽい!
どうやら親方はホネスケの陽キャ的コミュニケーションが嫌いではないようだ。
まだちょっとだけど、ふたりの間に友好関係が生まれたように思う。
それは俺としても嬉しいことだ。




