第34話 ラミアナイト様と指スマ
指スマ――
突如として現れた親しみある単語に理解が追い付かず思わず天を仰ぐ俺。
胸いっぱいになんでやねんの気持ちが広がる。
しかもなんかすげぇ説明盛られてるんですけど。
魔物の智闘ってなんだよ。
指スマはゴリゴリ人間発祥のごくごく簡単な指遊びだよ。
''出撃を控えた魔王軍の暇潰しとして重用されている''ってなんだよ。
ハマってくれたのはリザードマン部隊だけだよいい加減にしろ。
「その様子、やはり心得があるようダな」
指スマの心得って何ですか。
「ラミアナイト様モ、指スマ、ヤルノデスカ…?」
ああ、親方が食いついちゃった…!
「実戦経験はまダダが、インプ達に何度か実演させてやり方は覚えた。ちょうど試してみたいと思っていたところダ」
「インプモ、指スマ、ヤルノカ…?」
親方がそわそわした様子でインプの方を目をやると、案内役のインプがしれっと答える。
「あ?やるゾ。やり方を教えたら城にいるインプはほぼ全員やるようになったんだゾ」
やり方を教えたらって…
コイツに教わるまで他のインプは指スマを知らなかったってことだよな。
で、俺が指スマのやり方を教えたインプはナメプーだけだよな?
ってことは…
やっぱり案内役のインプがナメプーじゃねーか!
「ヒマができりゃすぐ指スマして、メシを賭けたりメンドーな仕事をどっちがやるか決めたりするんだゾ~♪」
コ、コイツ…
俺が指スマのやり方を教えた時は「やらね」って素っ気なかったのに、ちゃっかり仲間とは遊んでんじゃねーか。
指スマに興味がないんじゃなくてゴブリンとはやりたくなかっただけってこと?
ちょっと傷つくじゃねーか!
「賭ケ…?」
親方がナメプーの言葉に引っ掛かりを覚える。
「指スマ…アソボーハ、手ニ入ルモノ、ナイ。ケド、楽シイ。ソレガ大事。賭ケ、ヨクナイ」
そっか…親方は''ただ純粋に楽しいから遊ぶ''ということに尊さを見いだしているから、インプ達の間で流行りつつある賭け指スマはいささか邪道に思えるのか。
「はぁ~?ただ勝負するだけじゃつまんねーんだゾ。何か賭けるからスリルが生まれて面白いんじゃねーカ!」
「ムッ…」
親方はムッとしている!
「ワタシもそのインプと同じ意見ダな。勝負というのは勝ち取る喜びがあるからこそ楽しいのダ」
「ムムッ…」
親方は更にムッとしている!
「オマエはどう思う?刺激があった方がより楽しいとは思わないか?」
「え?ま、まぁ…純粋に楽しくワイワイ遊ぶのも、賭け事みたいにリスクとリターンのある刺激的な遊びも、それぞれの面白さガあるとは思いますけど…」
あくまでも公平かつ節度があればの話だけどね。
「ドッチモ…」
「煮えきらない小僧ダな」
なんかふたりとも不服そう…!
「まぁいい。オマエ達に指スマの心得があるのならば話は早い。早速勝負を始めようジャないか」
ラミアナイト様はそう言って俺を勝負へと誘うように手を差し出す。
なんか、やけにやる気じゃない…?
これただ指スマしてみたかっただけとかじゃないよね…?
…いや、これはきっとラミアナイト様の恩情だろう。
低級の魔物である俺の言葉に耳を傾けてくれて、本来は即没収であるはずの指輪を見逃すチャンスをくれているわけで、そのチャンスが指スマ勝負っていうのはちょっとよくわかんないけど…
うん。やっぱりちょっとよくわかんないかも。
俺が若干戸惑っていると、親方が振り返って肩にそっと手を置いた。
ポンッ…
「オマエナラ、デキル」
親方は信頼に満ちた眼差しを俺に向けながら小さく頷いた。
うん。思いっきりラミアナイト様との勝負に送り出されている。
親方は一体俺の何をそんなに信頼してくれているんですか?
なんで指スマが絡むと途端に背中を押してくれちゃうんですか?
「先攻は譲ってやろう。さぁ…オマエの力をワタシに見せてみろ!」
すごい!
バトル小説みたいな台詞だ!
指スマするだけなのに!
どうやら俺に[いいえ]という選択肢は用意されてなさそうだ。
ならば…えぇい、ままよ!
「…ハい!ラミアナイト様、対戦よろしくお願いします!」
俺は腹をくくって指スマの構えを取った。
どうせやるなら真剣勝負!
守るぞ!俺達のアイテムボックス
てなわけで、やるよ!
――――――――――
d レッツ、指スマ!b
――――――――――
(表記説明:d…左親指 b…右親指 o…ノー親指)
―俺のターン―
「いっセーの…''2''!」
oo do…計1ユビ
上級の魔物とゴブリンが指スマをしているだなんてなんとシュールな光景だろうか。
しかし始まってしまったものは仕方がない。
やるっきゃないのだ。
ラミアナイト様も指スマのやり方は把握できているようだし、ゲームは問題なく進められそうだな。
―ラミアナイト様のターン―
「いっせーの…''1''」
do do…計2ユビ
「フフ…」
ラミアナイト様は余裕の笑みを浮かべている…。
どう動いてくるかしっかり警戒していこう。
―俺のターン―
「いっセーの…''3''!」
oo do…計2ユビ
…ラミアナイト様、上げる指数をずっと''1''で固定してるな。
これは意図的な罠かもしれない。
「こちらはずっと同じ本数しか上げませんけど?」
という風に見せかけて、相手がその本数を前提に動いた時を見計らっていきなり上げる数を変えるという奇襲狙いでやっている可能性がある。
俺が以前ウオタローにやったのと同じやつだ。
気をつけていきたいところではあるが…
―ラミアナイト様のターン―
「いっせーの…''4''」
db db…計4ユビ【ラミアナイト様Hit!】
「!!」
「ワタシが宣言した数と同じ本数の指が上がっているな。これはこちらの手をひとつ下げて良いということダろうか?」
「は、はい…そウです」
「フフフ…一歩リードダな」
このタイミングで上げる指数を変えてきた上に、いきなり最大数の''4''を宣言してくるとは…
なかなかに思い切った大胆な一手だ。
じっくりじわじわと相手がやらかすのを待つ誘い込みタイプかと思っていたが、意外とアグレッシブかもしれない。
あまり手をこまねいているとあっという間にやられてしまうぞこれは。
ならばこちらも攻めに出る…!
―俺のターン―
「いっセーの…''0''!」
oo o…計0ユビ【俺Hit!】
「!」
よし!ヒット!
一度攻めた後だから、一旦また''1''を出し続けるフォームに戻るだろう…とこちらが読んでると読んで逆に下げてくるんじゃないかと思ったんだ。
深読みしすぎかとも思ったが、ちゃんと刺さったな。
「ほう…思い切ったな」
「へへ…思い切リました」
しかしこの''0''が刺さったということは、ラミアナイト様はやはりかなり戦略的に行動している可能性が高い。
他の魔物が引っ掛かりやすかった0の概念もさらっと理解していらっしゃるし、指スマを習得したばかりとは思えないレベルの高さだ。
さすがは上級の魔物といったところか。
だからといって負けるわけにはいかない。
ここからは一騎討ちだ。
いつ勝負が決まってもおかしくない。
気合い入れてけ、俺!
―ラミアナイト様のターン―
「いっせーの、''1''」
o o…計0ユビ
よし、耐えた…!
今度は俺の指数だけでヒットさせようと仕掛けてきたか。
これで負けると悔しさ倍なんだよね。
危なかった。
しかし本当にガンガン仕掛けてくるな。
以前のボスタローもそうだったが、隊長格の魔物というのは戦いの中で戦略的かつ能動的に立ち回ることへの慣れを感じる。
指スマには不馴れでも、普段の戦闘で培って来た己のファイトスタイルや勝負の勘がそれを補うのかもしれない。
ラミアナイト様は罠を張るような強かを持ちつつも、ただ待つだけではなく次々と攻めの手を浴びせて勝負に出る勇猛さも併せ持っている。
どうやら''攻撃こそ最大の防御''というのが彼女のファイトスタイルにあるようだ。
しかもそこに冷静な推察力も備わっているからまた恐ろしい。
次ラミアナイト様にターンを渡したら負ける…
そんな気がする。
なら、渡さなければいいだけの話だ。
俺が次の一手で勝負を決める!
決めたい!お願い!なんとかなれ!
―俺のターン―
俺が指数の宣言をしようと口を開きかけたその時。
「次のターン…」
「!」
先にラミアナイト様が声を発した。
俺が驚いて顔を上げると、彼女は挑発的な笑みを浮かべて言った。
「次のターン、ワタシは指を上げる」
「…!!」
指数の予告…!!
じゃんけんで言うと「俺次グー出すから!」のやつ…!!
当然、嘘か誠かは定かでない。
だが新たな心理戦の要素が追加されてしまったことは確かだ。
動揺するな…冷静さを失ってはならない。
「さぁ、オマエのターンダ」
ノるか…ノらないか…
どうする…!
「い、いっセーの…」
………よし決めた!
「''2''!」
d d…計2ユビ【俺Hit!】
☆俺Win!☆
「か、勝った…!」
「オォ…!」「マジかヨ…!」
ラミアナイト様の予告をあえて信じることにした結果、無事勝利を収めることができた。
上の階の魔物ってひねくれてるのが多そうだし、知恵のある魔物は相手の言葉を疑って信じないような天の邪鬼が多いんじゃないかなと思ったんだ。
何より、ラミアナイト様がそう読んでるんじゃないかって。
だから逆に信じてみることにした。
まぁ俺の読みがどこまで合ってるかはわからないし、勝てたのはただ運が良かったってだけかもしれないけどね。
これで指輪も無事…
「……………………」
「「「…ッ!」」」
俯いて口を紡ぐラミアナイト様から凄まじい圧を感じる…!
し、しまった…
アイテムボックスを渡したくなさすぎて必死になってしまったが、これってもしかして上の魔物に負けるべきだったんじゃないか?
指輪を[渡す]か[渡さない]かじゃなくて、[指輪]か[命]かだったんじゃないのか?
俺…やっちゃいました…?(特大やらかしを)
凄まじい緊張感にだらだらと冷や汗をかく下っ端三匹。
少しの沈黙の後、ラミアナイト様から発せられた言葉は…
「……やるではないか、ゴブリン」
「え…」
ゆっくりと息を吐いてから顔を上げるラミアナイト様。
発せられていた圧は消え、その表情はどこか清々しいものに変わっていた。
「知恵の回る魔物ほど相手の言葉を信じないものダ。ダが、お前はワタシの作戦を読んだ上であえて信じる選択をしたのダろう?その立ち回り…実に見事ダった。ワタシの負けダ」
「お…恐れ入リますっ!」
よかった~!
ラミアナイト様が器のでかい人で!
「約束通りその指輪は見逃してやろう。ダが、普段から指輪を身につけるならば手元は隠して行動することダ。アヌラール様のように崇高なご趣味がなくとも装飾品を欲しがる魔物は多い。腕ごと持っていかれたくなければ、グローブか何か身につけた方が良いダろう」
「な、なんと…そウします。ご忠告ありがとウございます」
今後こういったカツアゲを避けるためにも、何か指輪を隠す装備を考えた方が良さそうだ。
ある意味最初に目をつけられた相手がラミアナイト様で助かったな。
じゃなきゃ腕ごとすっぱりいかれてたのかも…。
あり得たかもしれない可能性に若干ヒヤッとしつつ、俺は自分の手元を見つめた。
勝利によって回収を免れた指輪がキラリと光る。
なんにせよ守れてよかった。
これからもよろしくな、アイテムボックス!




