第32話 ラミアナイト様の要求
少しすると値踏みが終わったのか、刺さるような視線が和らいでいくのを感じた。
「顔を上げて良い」
「は、ハい…」
言われた通り俺達が顔を上げるとラミアナイト様は姿勢を正し、早速用件を話し始める。
「ワタシは魔王軍ラミアナイト部隊の部隊長ダ。次の出撃に備えるべく、凶鳥インディセ様よりご許可を賜りこの古城にある装備品を物色している。あの鱗の盾はオマエ達が納品していると聞いたが、どこから調達しているのダ?」
盾を運ぶインプ達の方を剣で軽く指し示しながら、盾の出所を聞くラミアナイト様。
その問いに親方が答える。
「アレハ、オレ達ゴブリンガ、島ニアル素材デ作ッテイルモノ、デス」
「あれを…オマエ達が?」
親方の回答にラミアナイト様は少し驚く様子を見せた。
やっぱり魔物って武器は作っても、防具みたいに手間のかかるものはあんまり自分達で作らないものなのかな。
「ずいぶんとしっかりした作りの盾ダ。てっきりニンゲンの村から奪ってきたものダと思っていたぞ」
やだ物騒。
「今度の出撃、我が部隊は全員あの盾を装備して臨みたいと考えている。ダが城にある分だけでは足りないのダ。6日後の夕暮れまでに、あと10枚ほど用意して欲しい」
「追加で10枚…ですカ?」
「そうダ」
そんなに数が必要になるとは…結構納品しといたつもりだったんだけどな。
海の盾の在庫は今アイテムボックスの中にある3枚だけで、新しく作るにも肝心の鱗は使い切っちゃっている状態だ。
素材がすぐ手に入れば間に合わないこともないだろうけど、こればっかりは海次第なのでなんとも言えない。
用意できる保証はないということを正直に伝えるしかないな。
「今ちょっト素材が…
「もちろんご用意いたしマス!ラミアナイト様のご命令とあらば10枚でも20枚でも用意してみせまショウ!」
「あ、コラお前…!」
案内役のインプが前に出て俺の言葉を遮り、話を勝手に進めようとしてしまう。
できない約束して納期を守れなかったらヤバイだろうが!
「何か問題でも?」
「あ、いヤ、その…」
ラミアナイト様からほんのりと圧が…!
なんか本当のことが言いづらくなっちまっただろうが…!
「…小石ノ盾デハ、ダメ、デスカ?強イ魔物、''技''、使エルハズ。技ハ、気ヲ流シコム装備ガアルダケデ強イ。装備ガ弱クテモ、技、強イ。小石ノ盾デモ、技、使ウ分ニハ足リル…ノ、デハ、ナイデスカ」
俺が狼狽えていると、親方がラミアナイト様に小石の盾での代用案を提唱してくれた。
ただ「用意できないかもしれません」と言うより穏便に済むかもしれない。
流石親方!
「確かに、ワタシ達ラミアナイトは盾を媒介に己の守りを強化する技と魔法をいくつも持っている。小石の盾とやらでも、ワタシ達の守りの力は何倍にも増幅させられることダろう」
何それカッコいい。
「ダが…」
「だガ…?」
「美しくない」
「う、美しくナい?」
「そうダ。あの石の盾では見た目が無骨すぎる。我らラミアナイト部隊は美しいものが好きなのダ。鱗の方は見た目が美しく、香りも珍しい。ダからあの盾が良いのダ」
装備品の''美しさ''と''香り''かぁ…
''強度''や''重さ''ばかり気にしていたが、そういう要素を重んじる種族もいるんだな。
俺も海の盾は鱗の光沢が綺麗だな~と思っていたので、見た目が評価されるのはなんだか嬉しい。
香りに関しては仄かに潮の香り…というか生臭い方だとは思うんだけど、それがラミアナイト様的には珍しくて好ましく感じられたらしい。
そこはやっぱり魔物だからなのか、人間みたいに「臭!何これやだ!」とはならないみたいだ。
「それに…部隊の大半があのキラキラとした美しい鱗の盾を装備している中、足りないという理由で石の盾を装備することになった者はさぞ拗ね…士気がダダ下がりすることダろう。故にきちんと全員分用意したいのダ」
「うーん、なるホど…」
確かに大半が綺麗な盾を持っている中、自分だけ無骨な小石の盾だったら「なんで自分だけ」って揉めるかも。
隊をまとめるのって大変なんだな。
「あと10枚、用意してくれるな?」
そうこちらに微笑みかけるラミアナイト様の美しい眼差しに、ほんのりと圧がかかっているのを感じる…。
ダメだ、早く言わないと。
「そ、それガですね…」
俺が事情を話そうとしたその次の瞬間。
ラミアナイト様が尾の先をバシンッ!と床に叩きつけた。
「ひっ!?」「ッ…!」「キキッ!?」
ビクッとする俺、親方、インプの下っ端3匹。
「さっきから何を渋っている?まさか…用意できないとでも言うのか?」
あヤバーイ!
用意しないと命ヤバーイ!
「も、もちろんご用意したい気持ちはあリます!全力で用意したいです!ケど、その、今素材が…」
「素材がなんダ」
「鱗、海ノ魔物ノモノ。ナカナカ手ニ入ラナイ、貴重ナ素材。素材、今、切ラシテイル。スグニ用意デキルカ、ワカラナイ…デス」
俺達が慌てて事情を話すと、ラミアナイト様より先に案内役のインプが反応する。
「バカ!ラミアナイト様が用意しろって言ってんだゾ!貴重だろうがなんだろうが、死ぬ気でかき集めるんだヨ!」
「無茶言うナって…!海にいるデカい魔物を倒さないと鱗は手に入らないンだ。釣れるかどうか運も絡んでくるし、簡単にはいカないの!そんなに言うならお前モ手伝えよ!」
「無茶言うなヨ。海にいるデカい魔物なんておっかなくて近づきたくないんだゾ」
「コ、コイツ…」
バシンッ!!
「ひっ!?」「ッ…」「キキッ!?」
再び叩きつけられた尾の音に、再びビクッとする俺、親方、インプの下っ端3匹。
「はぁ…」と小さくため息を吐き、やれやれといった様子で首を横に振るラミアナイト様。
意外なことに、さっきまで発せられていた圧力はいつの間にか薄れていた。
「出し渋っている訳ではないのならよい。最低何枚用意できる?」
「ス、ストックは今3枚だけで…残りの7枚は、素材が調達できるかどウかにかかってくるかと…」
「わかった。ならば用意できる分ダけでよい」
「え…いいんデすか?」
「仕方あるまい。期限までに納められたものをその日の夜にまとめてインプどもに運ばせる。いいな?」
「キキッ!了解デス!!」
元気に返事をする案内役のインプ。
コイツホントに調子がいいな。
「オマエ達もそれでいいな?」
「ハイ」
「なるべく10枚用意できルよう、最善を尽くします」
「頼んダぞ」
なんか、案外すんなりと話がまとまったな…。
も~なんだよ~!
話せば普通に分かってくれる魔物じゃんか!
よかった~!
圧をかけていたのも、どうやらこちらが出し渋ってると思って鎌を掛けただけのようだ。
魔物ってすぐ嘘つくしサボるし仕方ないのかも。
ラミアナイト様も色々と大変なんだろうな。
全く、案内役のインプが引っ掻き回しさえしなければ最初からスムーズに話せたのに。
本当に余計なことばっかしやがるやつだ。
「あ?ナニ見てんだヨ」
「別にィ…」
でもとりあえず話がまとまってよかった。
なんとか無事島に帰れそ
「それはそうと…」
ん…?
まだ何か…?
「オマエ、ずいぶんと良いものを身に付けているな」
そう微笑むラミアナイト様の視線は俺の手元、もっと言うと指、もっともっと言うと指輪に向けられていた。
ヤバい。
カツアゲの気配を察知。
「そんな装飾品、一体どこで手に入れたのダ?」
「あ~…これはその、拾っタといいますか…」
「ほう。どこで?」
「え~っと…し、島デ…」
''城の地下にある宝箱から持ってきたものです!''
なんて言ったらホネスケも巻き込むことになっちゃいそうだ。
本当のことは言えない。
「それはまたずいぶんと運が良い…」
ラミアナイト様は目を細めながら俺をジッと見る。怖い。
嘘だってバレてないよね…?
「何、我らが主であるアヌラール様は魔石に目がなくてな。魔石を見つけたら一度回収するのが我々の義務なのダ。…たダのゴブリンが装飾品を持っていても宝の持ち腐れダろう」
こ、この流れは…
「その指輪、アヌラール様への献上品として差し出せ」
やっぱり取り上げられるっぽい…!
俺達の物流革命がぁ…!




