第31話 上へ
案内役のインプに導かれるまま階段を上り、普段は立ち入らないようにしていた上の階へと足を踏み入れていく俺と親方。
上の階は魔法を得意とする、アヌ…アヌなんとか様のところから来た魔物達の領域だ。
この辺の魔物は魔法が使えない魔物を馬鹿にしているらしいし、つい最近上の階の魔物と少し関わっただけでもえらい目に遭ったわけだし…
関わりたくないよ~!
でも行くしかないよ~…。
下ばかり見ていても気が滅入るので、ふと吹き抜けの方を見る。
盾を運ぶインプ達が、パタパタと上へ飛んでいく姿が見えた。
飛べる魔物って移動の自由度高くていいよなぁ。
俺も羽がある魔物になってみたかったなーなんて。
まぁ、飛べたら飛べたで普段あまり関わらないで済んでいる空の魔物達と鉢合わせしやすくなるのかもしれないけど…。
「腹ヘッタ~…」
「はやく遊びたいゾ~…」
働くインプ達の小さなぼやきが聞こえてきた。
話し方までみんなナメプーそっくりだ。
マジで見分けつかないかも。
…インプって何して遊ぶんだろう?
ナメプーは「アソビってぇのは追いかけ回したり突き回したり引きずり回したりすることを言うんだヨ!」なんて言ってたな。
やめてね。
指スマしなよ指スマ。
なんて思いながら階段を上っていると、頭に声が響いてきた。
『まったく…オマエらもっと喜べよナ。ゴブリンみたいなザコが上級の魔物と話せるなんて、滅多にないことなんだゾ?これは出世のチャンスなんだゾ!』
案内役のインプがこちらに背を向けたまま、念話で語りかけているようだ。
わざわざ念話で話すのは、他の魔物に聞かれないようにだろうか。
器用に切り替えるもんだな。
こっちは肉声で返すしかないんだけども。
「出世?」
俺がそう聞き返すと、インプはくるりとこちらを向いて威勢よく念話で答える。
『そうダ!手柄を立てて気に入られたら、上級の魔物直属の手下になれるかもしれないんだゾ』
「ふーん…?上級の魔物直属の手下になレるとどうなルの?」
『そりゃぁオマエ、上級の魔物直属の手下になれたらナァ…』
インプは「キシシ…」とほくそ笑み、腰に両手を当て、
『低級や中級の魔物に対して威張れるようになるんだゾ!』
と、胸を張って言ってのけた。
………
「え、それダけ?」
「クダラン…」
『くだらなくねーヨ!!』
俺達の冷めた反応にインプは大層不服そうな反応を示す。
『オマエら、中級の魔物がどの辺かわかってんのカ?デーモンやリザードマンのことなんだゾ!ああいうおっかねー連中に''上からの命令だ!''って言うだけでなんでも従わせられるようになるんだゾ?どうだ!スゲーだろ!』
「は、発想が腰巾着過ぎる…!」
「ソレハ、オマエガスゴクナッタ、違ウ。調子ニ乗ル、身ヲ滅ボス」
「そーダそーだ」
『カーッ!オマエらには野心が足りねーんだゾ!じゃ何か?このままずーっと下っ端としてこき使われるだけでいいのかヨ?』
「それは…けど、出世したってこき使われる相手が変わルだけじゃんか」
『その誰にこき使われるかで、自分もこき使えるヤツがいるかどうかが変わってくるんだゾ』
「誰もこき使わナくていいよ~…」
俺達は組織の中で出世して何かを得たいわけじゃない。
なんなら組織から抜けて平和な暮らしに戻りたいというのが正直な気持ちである。
それが叶わないなら…やっぱり、今の下っ端スローライフが一番マシだな。
城の隅っこで黙々と仕事してるくらいが丁度いい。
出世なんてのはノーセンキューだ。
『ま、見とけゴブリン。オマエらがボケーッとしてる間にオイラは出世してエラくなっちまうからナ!媚びを売るなら今のうちだゾ!』
「モット早ク前ニ進メ」
『何ぃ~!?オマエらゴブリンが飛べねーから階段上るのに合わせてやってんだろーガ!』
「それはまぁ、お手数おカけしてます…」
そんなこんなで階段を更に上り進め、俺達は3階に到着した。
すると大きな両扉ばーんとが開かれた部屋と、その中に海の盾を持ったインプ達がぞろぞろと入っていく姿が視界に入る。
案内役のインプはその部屋の入り口まですっ飛んで行き、
「こっちだゾ!こっちこっち!」
と手招きをした。
俺達の目的地もあの部屋のようだ。
そして俺の魔物肌がビリビリと告げている。
「あの部屋の中に強くて怖い魔物がいるよ!」と。
ちょっとしたボス部屋みたいな感じだ。
とても入りたくない。
しかしそうもいかない。
「し、失礼しマ~す…」
恐る恐る、俺達はボス部屋に足を踏み入れた。
◇◇◇
ボス部屋の中は奥行きのある広い空間だった。
壁にはたくさんの本棚が並んでいる。
どうやらここは書庫のようだ。
本が綺麗に収まって埃を被っているところを見るに、読まれている様子はなさそうだが…
そりゃ魔物は本なんか読まないよねぇ。
部屋の奥には盾を運ぶインプ達がずらりと並んでいた。
よく見ると何やら大きな紫色の魔方陣が壁に描かれており、それを使って一匹ずつ順番にどこかへワープしているようだった。
そしてインプ達の列の横には、この部屋をボス部屋たらしめている気配の正体がひとり…
彼らの仕事ぶりを監視するように静観していた。
美しく波打つ長い赤髪が印象的で、それは本当に防具としての役割を果たせるのでしょうかと疑問を抱かずにはいられないセクシーな鎧を身にまとい、豪華な装飾の剣と盾を持って凛と佇んでいる。
その姿は一見、人間の女性騎士のようにも見えた。
しかしそれはあくまでも上半身だけの話。
その下には大蛇のような赤紫色の長く太い尾が続いており、彼女が人間でないことは明らかだった。
「ラミアナイト様~!盾を納品しているゴブリンどもを連れて参りましタ~!」
案内役のインプは手を振りながら赤髪の魔物、ラミアナイト様の元へすっ飛んでいく。
俺と親方もその後に続く形で駆け寄った。
するとラミアナイト様はギロリとこちらに目を向け、尾をうねらせながら俺達を値踏みするように見下ろす。
「……」
怖ぁい…
そんで近づいてみると結構でかぁい…。
蛇に睨まれた蛙のように固まるしかない俺達。
親方が黙って頭を少し下げたので、俺も同じようにした。
鋭い視線が後頭部に刺さり続ける。
すごい圧。すごい逃げたい。
俺達、無事で島に帰れるのかな…。




